山下裕賀 & 小堀勇介 & 池内響がロッシーニの2大名作でくり広げる“Baccanale”

左より:山下裕賀 ©Yoshinobu Fukaya/小堀勇介 ©T.Tairadate/池内 響 ©T.Tairadate/矢野雄太 ©Chiara Villa

 2024年1月に開催され大好評を博した浜離宮朝日ホールのベルカント・シリーズ。その第2弾が発表された。メゾソプラノ山下裕賀、テノール小堀勇介、バリトン池内響という今をときめく“旬”の歌手3人が、ロッシーニの《セビーリャの理髪師》と《ラ・チェネレントラ》を歌う。題して「Baccanale!!(どんちゃん騒ぎ)」。「この3人が集まったら絶対楽しい。その楽しさをお客様と共有したいという思いからつけました」と小堀。今や日本における「ロッシーニ歌い」としては右に出る者のいない小堀だが、実はそのキャリアのスタートはもっとロマンティックな、リリコのレパートリーを歌っていたのだそう。

小堀「新国立劇場の研修所でセルジョ・ベルトッキ先生と出会い、『お前の声はロッシーニのブッファを歌う声だから今すぐ勉強をしなさい』といわれました。当時は声帯故障が多く、自分の将来について不安を感じていたところ、先生のアドバイスに一筋の光を見つけた気がして、それまでのレパートリーを全部捨ててロッシーニにシフトチェンジしたんです。その後イタリアに渡り、アルベルト・ゼッダ先生のもとでさらに経験を積みました」

 その小堀と2022年の《セビーリャの理髪師》で共演している山下裕賀は、ベルカント、特にロッシーニについて「今の自分の声にとってもっとも大切なレパートリー」と語る。

山下「学生時代はロッシーニのアジリタの難しさに苦手意識を持っていました。でも、小堀さんと共演した《セビーリャの理髪師》がターニングポイントになったんです。苦手意識を乗り越えた結果、ロッシーニが大好きになり、ロジーナという役は私の中でお守りのようになりました。昨年の藤原歌劇団《ラ・チェネレントラ》に続いて今回のお話をいただき、まさに今、ロッシーニを歌うべき時だという感慨深い思いでいっぱいです」

 小堀、山下とほぼ同世代の池内響は、今、メキメキと頭角を現しているバリトンだ。最近では全国共同制作オペラ《ラ・ボエーム》のマルチェッロの好演からも分かるように、ベルカントよりは重めのレパートリーも歌っている。

池内「元々はモーツァルトやベルカントを勉強していましたが、キャリアを重ねる中で19世紀後半の作品を歌う機会が多くなりました。でも、どこかで基礎となっているモーツァルトやロッシーニに戻っておきたい、と体が思う瞬間があるんです。錆びついていた引き出しを開ける、といいますか。キャリアの中で育ててきた自分の声とキャラクターを、今、どのように活かすことができるのか、とても楽しみです」

 それぞれに共演経験はあるものの、3人そろっては今回が初めてというこのメンバーを強力にサポートするのが、ピアノの矢野雄太だ。矢野は東京藝術大学大学院修了後イタリアに渡り、ミラノ・スカラ座研修所で指揮を学んだという経歴の持ち主。

矢野「実は日本にいたときはオペラが嫌いで、声楽家と共演したこともありませんでした。でもイタリアで指揮の勉強をするにあたり、イタリア・オペラをやらなければ、と言われてスカラ座研修所のテストを受けました。研修所に入って最初に勉強したのがモーツァルトとベルカントで、そこからオペラにハマっていったんです」

 それぞれにキャリアを積んできた4人が、今、時宜を得てベルカントという大輪の花を咲かせようとしている。「日本でベルカントが種火から大きな炎になる、今がまさにその最初の時代。僕たち若い世代でそれを盛り上げていきたい」という小堀の言葉に、期待は高まるばかりだ。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2025年3月号より)

浜離宮ベルカント・シリーズ第2弾
山下裕賀 & 小堀勇介 & 池内 響 with 矢野雄太 ~Baccanale!! ~
2025.4/6(日)15:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/