
NHK交響楽団は今年、日本初の本格的なプロオーケストラとして活動を開始してから、創立100年を迎えます。そこで、新年最初の特別企画としてN響メンバーによる座談会を実施しました。司会を務めたのは、NHK-FMの番組『N響 夜の座談会』にレギュラー出演しているヴィオラ奏者の御法川雄矢さんとフルート奏者の梶川真歩さんのおふたり。2026年の見どころはもちろん、これまでの100年、そしてこれからの100年など、和気あいあい、たっぷりお話しいただきました♪
協力:NHK交響楽団
写真:有田周平
座談会参加者:
御法川雄矢さん(ヴィオラ)司会
梶川真歩さん(フルート)司会
郷古廉さん(ヴァイオリン/第1コンサートマスター)
飯塚歩夢さん(第1ヴァイオリン)
今井仁志さん(ホルン/首席)
早川りさこさん(ハープ)
100年前、N響が誕生!

御法川 全国のN響ファンのみなさま、あけましておめでとうございます!『N響 夜の座談会』改め『N響 昼の座談会』元日スペシャル、はじめましょうか。ジングルがほしい(笑)。いよいよ来ました2026、今年N響は100周年!
梶川 ついにですね!
御法川 100年前というと、ちょうど昭和元年。歴史を感じますね。1926年に近衛秀麿さんが新交響楽団(N響の前身)を結成したのは27歳。ヨーロッパ留学(1923~25年)から帰国してほどなくの話なんですよね。
郷古 当時、演奏者がよく揃いましたよね。
N響スタッフ 音楽学校出身者はもちろん、陸軍や海軍の軍楽隊員、少年音楽隊や映画館の楽士など、さまざまな経歴をもったプレイヤーが集まって結成されたと聞いています。
早川 楽譜はどうしていたのでしょう?
N響スタッフ 近衛さんがヨーロッパ滞在中に大量に買い込んできたそうです。当時のベルリンが第一次世界大戦後の超インフレで、安く購入できたとのことで、その一部はN響のライブラリーに保管されています。
飯塚 近衛さんは編曲もされたそうですが、ベートーヴェンの曲もアレンジしていたらしいですよね? 今ではちょっとありえないじゃないですか。「ベートーヴェン書き換える!?」って。だからこそ、近衛さん編曲の「展覧会の絵」(2月Cプログラム)がすごく楽しみでもあります。
N響スタッフ 近衛さんは、ベートーヴェンやシューマンの編曲も残っています。

郷古 編曲の動機は何だったのでしょうね。昔は作曲家が、作品を知ってもらうために交響曲を小編成に編曲して、多くの人に弾いてもらうということもあったと思うのですが。
N響スタッフ 近衛さんの場合、例えばマーラーがシューマンの交響曲全曲(第1~4番)をアレンジしたのと同じ発想で、「こうしたらより響くんじゃないか」という動機だったのではないかと思います。
郷古 ああ、じゃあ「改善したい」なんですね。「第九」もマーラー版がありますね。
一同 改善(笑)
郷古 今ほど作曲家が神格化されていなかったのかもしれませんね。演奏家が作曲家とより対等な立場で、非常にクリティカルに作品と向き合っていたんだと思いますし。作曲家の楽譜を「神聖なもの」とする向き合い方も好きですけど、もっとフレンドリーに音楽と向き合っていたんじゃないかなと想像します。

「わたしは歴代何人目の奏者?」

御法川 「定期公演」という枠組みも今では当たり前に思えますが、当初は画期的なことですよね。
N響スタッフ 1926年は大正から昭和に変わる時代。日本が少しずつ豊かになってきて「オーケストラを定期的に聴こう」という雰囲気を、楽団側が作っていったのだと思います。会場も変遷があって、最初は日本青年館、日比谷公会堂になって、その後、東京文化会館。そして1972年にNHKホールが完成。その後サントリーホールが加わります。
御法川 夜通し並んでチケットを買ったという話を聞いたことがあります。
N響スタッフ NHKホールができた時は、会員券を取るためにホールにあった「N響ガイド」にお客さんが徹夜で並ぶので、スタッフが列を整理していたそうです。
飯塚 今のようにスマホで音楽を聴ける時代じゃないから、並んででも聴きたい、という渇望があったんでしょうね。
梶川 ところで私、歴代フルート奏者で数えて、まだ21番目なんですって。
郷古 意外と少ないんですね! コンマスは何人くらいだろう? 多くはなさそうだけど。
早川 ハープは、私でたぶん6人目なんです。
一同 え! 6人目?
早川 はい。加藤敬子さん、加藤泰同さん、山畑松枝さん、柳田裕子さん、桑島すみれさん、で私。
梶川 すごい! 全員の名前を言えてしまう。
郷古 そう考えると、100年という時間も身近に感じる気がしますね。

演奏技術の進化
ベートーヴェンが今のオーケストラを聴いたら

飯塚 以前、マロさん(元N響 特別コンサートマスター 篠崎史紀さん)から聞いた話なのですが、ベートーヴェンのある曲に、当時の演奏家が「ちょっとこの音型は弾けないから書き直してくれないか」と言ったら、ベートーヴェンが「いや、これは100年後の人たちは弾けるようになってるから」と返したというエピソードがあるみたいで。
一同 ほお~。
郷古 その通りになってるよね。
飯塚 本当にそうなってるってすごいですよね。
郷古 そう、だから今のこの演奏技術の向上を、ベートーヴェンやブラームスたちがどれくらい想像していたんだろう? もちろん昔も名手はたくさんいたと思うけれど、たぶん今ほど上手く弾くということはなかっただろうし、彼らが今のオーケストラを聴いたらどう思うのか、とても好奇心がうずく。
御法川 「これもできるのか!?」って、もっと難しいの書いちゃっているだろうね(笑)。彼らの頭の中では鳴っていたのかもしれないし。

今井 演奏技術で言ったら、現在のほうが明らかに上手い。でも「魂の一音」みたいな熱気は、昔のN響のほうがあったのかなという気持ちもあります。
御法川 緊張感のある音、というか…
今井 もちろん、我々も一期一会という気持ちで毎公演、全力投球ですよ。でも昔は、気迫みたいなものがもっと強かったというか。
郷古 オケと指揮者の関係性も違うんじゃないですかね。
今井 指揮者に育ててもらうみたいな雰囲気もありましたよね。サヴァリッシュは、なんだか先生みたいに思っていましたし(ウォルフガング・サヴァリッシュ:1967~2013年、N響の名誉指揮者および桂冠名誉指揮者)。
郷古 デュトワもそういう空気感がありますよね(シャルル・デュトワ:1996年からN響の常任指揮者、音楽監督を歴任し、2003年から名誉音楽監督)。西洋の文化であるクラシック音楽をこれまで皆で吸収してきたけど、これからの100年に向けて、その成果を社会に還元して、培ってきたものを残し育てていく段階に来ていると感じます。次世代の指揮者へつないでいく責任もありますね。

100年後のオーケストラ

飯塚 どんな世界かまったく想像できませんが、どれだけ発展してもAIに音楽はできない、それは100年後も変わらないかなと思います。最高の演奏をすると心がけていく蓄積が、いい未来に繋がっていくと信じます。
早川 100年前の団員さんたちも同じで、基本的に人間が五感を通して楽しむことって結局変わらない。想像もできないような音楽の楽しみ方をしているかもしれないけれど、お客さんと演奏家が会場で一緒に音楽を共有する楽しさを、100年後も味わっていただけていたらいいなと思います。
今井 生演奏が貴重になってくるんじゃないかな。仮想現実の世界が広がる一方で、反対に生演奏の価値が出てくると思う。でももしかしたら、その体験も仮想空間でできちゃう??
御法川 「ホールで聴いてたの?」っていう時代がくるとか。でも生演奏でしか感じられないことは変わらないでしょうね。N響もすばらしい専用ホールで演奏していてほしいな。
梶川 楽器も変わるかもしれないですね。フルートは、音が大きく鳴るようになってきているんですよ。特に管楽器は改良され続けると思うので、オーケストラの中でのバランスが変わってくるのかな? 弦楽器はどうでしょうね。
今井 すでに「完成形」と言われて久しいストラディヴァリウスですが、さらに100年後、最盛期が過ぎてしまっているかどうか。
郷古 100年後、全然大丈夫だと思います。
今井 100年前のホルンはね、もっと管が長いF管しかなかったんです。ミスを減らすために短くなっていき……まだ短くなるかな。いやもうたぶんできない(笑)。

御法川 では郷古さん、締めに2026年の抱負をお願いします。
郷古 とにかくまず一番は「いい年になってほしい」ですね。
御法川 いや、本当にそれに尽きる。
郷古 オーケストラはよく「社会の縮図」と言われますけど、本当にその通りだと思うんですよ。 社会を反映するものだなと。 だから社会の状態によって我々の運命が決まってくる。今こうして我々が音楽をできているのは、平和な日常あってのことですよね。
震災やコロナ、そういう非常事態の時に、本当に人間が必要とするのは、まず食べ物だったり着るものだったりと、優先順位を突き付けられた。でも、人間が人間であるために必要なものが、芸術や文化であって、その一端を我々は担っているんですよね。 その文化を皆が大切にし続け、楽しんでいられる世界が続いたらいいなと心から思います。

100 年後とまで言わずとも、これからの若者や次の世代のためにできることは、音楽を楽しめる環境を守り続けていくことであり、 それは結果的にたくさんの素晴らしい作品を残してくれた作曲家たちのためでもあります。音楽を生み出している我々が、日々さまざまなことを磨きつつ、 次の世代に受け継いでいけたら理想的だなと思っています。


◎資料1:「新交響楽団 第一回研究發表演奏會」パンフレット
1926年10月、「新交響楽団」という名称で結成したNHK交響楽団の、まさに一番最初の演奏会。バッハのブランデンブルク協奏曲第3番、ベートーヴェンの交響曲第4番、R.シュトラウスの13管楽器のためのセレナード、ワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》前奏曲という曲が並ぶ。「マイスタージンガー」は「名歌手」と書かれている。入場料は3円、2円、1円とある。

◎資料2:ABONNEMENT-CONCERTS
1927年の第1回と第2回の定期公演。日本語がなく、欧文表記のみになっている。第1回のプログラムはメンデルスゾーン「フィンガルの洞窟」、モーツァルト《イドメネオ》のためのバレエ音楽、シューベルトの交響曲第7番(当時は『ザ・グレート』)。指揮は近衛秀麿(第1回)、ヨーゼフ・ケーニヒ(第2回)。

番組情報
『N響 夜の座談会』
NHK-FMで不定期に放送。
この番組はトーク番組です!!! いつもは音楽を奏でる音楽集団NHK交響楽団のメンバーが楽しいトークを繰り広げます。 司会もゲストもN響メンバー!名演の裏側や深すぎる趣味の世界をとことん語りつくす座談会番組! 司会・コーナー案は、N響の「みのさん」ことビオラ奏者の御法川雄矢。オーケストラのとりまとめ役、インスペクターを務めるみのさんの顔の広さを生かし、客席からはわからないN響メンバーの素顔にぐいぐい迫ります!そして、可憐なるフルート奏者「マホさん」こと梶川真歩も管楽器代表としていっしょに番組を盛り上げます!
番組ホームページ:nhk.jp/nkyo-zadan
