年の始まりを告げる、日本オペラ界の晴れ舞台――「NHKニューイヤーオペラコンサート」。1958年の放送開始以来、オペラ芸術の発展とともに歩みを重ね、今年で68回目を迎えます。日本を代表する歌手たちがNHKホールに集い、オペラが描き出す人間の喜び、悲しみ、そして明日への希望を歌い継ぐ約2時間。
2026年は1月3日の夜7時より、Eテレにて生放送。俳優・ウエンツ瑛士さんの司会のもと、オペラの名曲の数々に加え、初演100年を控える名作《トゥーランドット》のハイライト、さらには初演40周年を迎えるミュージカルの金字塔『オペラ座の怪人』のスペシャルステージまで、豪華なプログラムが並びます。
また今回は番組初の副音声放送も実施。“裏トーク”を担当する音楽評論家の室田尚子さんに、今年の見どころ・聴きどころをご紹介いただきました。
初出演のフレッシュな才能から、時代を象徴するスター歌手までが会する一夜限りの祝祭。新しい一年の始まりに、心震えるオペラの真髄を生放送で体感しませんか?

日本のオペラはここから始まる――新年を彩る熱唱のステージ
文:室田尚子
新春を彩る恒例番組「NHKニューイヤーオペラコンサート」。第68回となる2026年のテーマは「歌がえがく 心のかたち」。全16作品が22人のソリストと、新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部によって演奏されます。指揮は、現在日本のオペラ界を牽引するひとりである阪哲朗さん。オーケストラは毎年恒例、東京フィルハーモニー交響楽団です。
第1部は名作オペラのアリアや重唱、そして合唱をお届け。喜びや悲しみ、怒りなど人間の様々な“思い”を歌によって描き出すコーナーで、これだけ聴いてもオペラという芸術の持つ奥行きや、音楽の多彩さが堪能できそうです。幕開けを飾る《椿姫》の〈乾杯の歌〉には、「ニューイヤーオペラコンサート」に10回以上の出演歴を誇るレジェンド・テノール錦織健さんがアルフレードとして登場。初出演のソプラノ・高野百合絵さんのヴィオレッタとの共演となりますが、この組み合わせも通常のオペラの舞台では考えられない「ニューイヤーオペラ」ならではのものだといえます。

その他、初出演歌手の中で個人的に注目しているのは、《魔笛》夜の女王のアリアを歌うソプラノの小川栞奈(かんな)さん、レハール《メリー・ウィドー》の二重唱に出演するバリトンの黒田祐貴*さん、ドニゼッティ《愛の妙薬》で二重唱を歌うテノールの工藤和真さんとバスバリトンの平野和さん。いずれも今の、そしてこれからの日本のオペラ界を背負ってたつ顔ぶれではないでしょうか。
*祐貴の「祐」は正式には旧字体

もちろん、「ニューイヤーオペラ」常連勢も負けてはいません。笛田博昭さんが歌う《道化師》の〈衣装をつけろ〉は、テノール好きならたまらない選曲。また、森麻季さんがマスネ《タイス》からタイスの死のシーンを歌うのにも注目です。《タイス》はなかなか舞台上演の機会のないオペラですが、“歌う女優”森麻季さんのパフォーマンスは本当に楽しみ。第1部のトリを務めるのは、メゾソプラノ山下裕賀さん。最近特に注目される実力派メゾが、ロッシーニ《チェネレントラ》からアンジェリーナのアリア〈不安と涙のうちに生まれ〉を歌います。超絶技巧がちりばめられた名アリアを山下さんがどんな風に歌ってくれるのか、期待が高まります。

第2部は特別企画として、ミュージカル『オペラ座の怪人』のナンバーが登場。クリスティーヌはウィーン在住で、ヨーロッパの歌劇場を中心に活躍するプリマドンナ森野美咲さん。そしてファントムは、人気と実力にビジュアルも兼ね備えたバリトン大西宇宙さん。今、もっとも旬のオペラ歌手がミュージカルを歌うというのもまた、「ニューイヤーオペラ」らしい粋な企画といえるでしょう。今回は、重厚なオーケストラ・サウンドが特徴のアンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽を、大河ドラマ「西郷どん」や映画「日本のいちばん長い日」などで知られる作曲家の富貴晴美さんがピアノと弦楽アンサンブルのために編曲。ここでしか聴けない特別な『オペラ座の怪人』になるに違いありません。

そして第3部は、2026年に初演から100年を迎えるプッチーニの《トゥーランドット》のハイライトを上演。錦織健さんが台本を書き下ろし、司会を務めるウエンツ瑛士さんの語りによって展開していきます。2023年にチームラボとのコラボレーションで話題を呼んだ東京二期会《トゥーランドット》で題名役を演じた田崎尚美さんが再びこの役で登場。イタリア・オペラを中心に大活躍のテノール宮里直樹さんのカラフ、そして英国ロイヤル・オペラなど世界の歌劇場で活躍する中村恵理さんのリューなど、これ以上ない最高の歌手陣が揃いました。日本を代表する4団体の合同合唱団による厚みのある合唱も楽しみ。錦織さんは台本執筆にあたり、「自分なりに《トゥーランドット》の物語を解釈し、誰もが納得できるようなドラマに仕立て上げた」と語っていて、こちらもスペシャルな舞台になりそうです。

今回の「ニューイヤーオペラ」では初めての試みとして、副音声による裏トークが実施されますが、私、室田尚子が俳優の坂口涼太郎さんと共にこの裏トークを担当します。舞台上ではウエンツ瑛士さんと赤木野々花アナウンサーが曲の紹介をしていきますが、それだけでは伝えきれない作品の背景や、各曲の聴きどころ、演出のポイントなどをリアルタイムでご紹介していく予定。これまでに度々、「オペラは外国語なのでわかりにくいのでは」「予習しないと物語が理解できないのでは」といった心配の声をお聞きすることがあるのですが、そういったオペラに親しみがなかった方々にも楽しんでいただけるよう、鑑賞の「勘どころ」などもお伝えできたらと思っています。もちろん、オペラ好きの方にもさらにオペラが好きになるような話題も盛り込むつもりです。とはいえ2時間の生放送、どんな裏トークになるのかは、実際にやってみないとわかりません(!)が、ひとりでも多くの方に「NHKニューイヤーオペラコンサート」の魅力をお伝えできるように精一杯務めるつもりなので、ぜひみなさん、副音声も楽しんでください。

Information

第68回 NHKニューイヤーオペラコンサート 2026
2026.1/3(土)19:00~21:00(生放送)
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演/
司会:ウエンツ瑛士、赤木野々花アナウンサー
ソプラノ:伊藤晴、小川栞奈(初)、高野百合絵(初)、田崎尚美、中村恵理、森麻季、森野美咲
メゾソプラノ:加藤のぞみ、山際きみ佳、山下裕賀
テノール:菅野敦(初)、工藤和真(初)、錦織健、笛田博昭、宮里直樹、与儀巧
バリトン:池内響、大西宇宙、黒田祐貴(初)、萩原潤(初)
バスバリトン:平野和(初)
バス:妻屋秀和
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
副音声:坂口涼太郎、室田尚子
*(初)…初出演
演奏/
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:阪哲朗
「オペラ座の怪人」編曲・ピアノ:富貴晴美
高野百合絵、錦織健 ほか | ヴェルディ:歌劇《椿姫》から乾杯の歌〈友よ、さあ飲みあかそう〉
池内響 | モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》から酒の歌〈みんな楽しくお酒を飲んで〉
山際きみ佳 | モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》から〈恋とはどんなものかしら〉 (モーツァルト)
小川栞奈 | モーツァルト:歌劇《魔笛》から〈復しゅうの心は地獄のように胸に燃え〉
大西宇宙 | ロッシーニ:歌劇《セビリアの理髪師》から 〈私は町のなんでも屋〉
加藤のぞみ ほか | ビゼー:歌劇《カルメン》からハバネラ〈恋は野の鳥〉
伊藤晴、黒田祐貴 | レハール:喜歌劇《メリー・ウィドー》から 〈唇は黙して〉
笛田博昭 | レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》から〈衣装をつけろ〉
森麻季 | マスネ:歌劇《タイス》からタイスの死〈あのすばらしい旅を覚えていますか〉
新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部 | ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》から狩人の合唱〈狩人の喜びは〉
高野百合絵・山際きみ佳 | フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》から 夕べの祈り〈狩眠りの国に十四人の天使が〉
工藤和真・平野和 | ドニゼッティ:歌劇《愛の妙薬》からネモリーノとドゥルカマーラの二重唱
山下裕賀 ほか| ロッシーニ:歌劇《チェネレントラ》から〈不安と涙のうちに生まれ〉
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森野美咲、大西宇宙、富貴晴美(編曲・ピアノ) ほか | ロイド・ウェバー:ミュージカル「オペラ座の怪人」から〈Think of Me〉、〈The Music of the Night〉、〈The Phantom of the Opera〉
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プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》 ハイライト
田崎尚美(トゥーランドット)、宮里直樹(カラフ)、中村恵理(リュー)、妻屋秀和(ティムール)、
萩原潤(ピン)、与儀巧(パン)、菅野敦(ポン)、平野和(大官)、
新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
ウエンツ瑛士(語り)、錦織健(台本)
ソリスト全員 | ヨハン・シュトラウス:喜歌劇《こうもり》から〈ぶどう酒の燃える流れに〉
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部

室田尚子 Naoko Murota
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。
