
あけましておめでとうございます。新年最初のインタビュー記事は、2026年にデビュー10周年を迎える反田恭平さんです。ピアニストとしてはもちろん、近年は指揮者としても活躍の幅を広げ、昨年はザルツブルク音楽祭に出演されました。(指揮者として出演するのは小澤征爾さん以来の快挙!)さらなる飛躍が期待される2026年の抱負を語ってもらいました。
写真:中村風詩人 取材・文:高坂はる香
——デビュー10周年となる2026年、何か計画していることはありますか?
自分では実感がなかったので、秋ごろに気づいていくつか企画を考えているところです。ただ周年とは関係なく、2026年は自分の活動のサイクルを考えるうえで節目の年になると思っています。国内外のコンサートシーズンを考慮しながら、ピアニスト、指揮者の活動に集中する時期、日本にいる時期と海外で活動する時期を見直さなくてはならないと感じているからです。
年間の活動のリズムを組み立て直すのは大きな転換で、勇気のいることですが、有限な時間の中でうまく成長することを目指すなら、必要なことだと思っています。あとやはり一番大切なのは子どもとの時間なので、そこを確保したうえでスケジュールを逆算することをないがしろにしてはいけないとも感じているんです。
そのうえで、演奏活動、会社経営、メディア向けの活動、妻の演奏活動のサポートなど、一つひとつに力を注いでいきたい。身の回りの環境を整える年になるでしょうね。
——音楽家として一番注力したいことは何でしょうか?
やはりオーケストラを振ることは一番楽しいですね。2025年の夏、ザルツブルク音楽祭に、指揮者、ピアニストとして出演してから、ヨーロッパで指揮者として呼んでいただける機会が増えました。そのうち僕の肩書きも、ピアニストから指揮者になっていくのかな、とか…。
——ピアニストだったことが忘れられてしまうくらいの!?
正直、そうなって欲しいくらいなんですよね! 例えばバレンボイムは、僕たちピアニストからしたらベートーヴェンのピアノソナタ全集などの名盤がある大ピアニストだけれど、オーケストラ奏者からすれば、指揮者という認識が最初に来ますよね。
妻も、“一家に2台冷蔵庫はいらないでしょ”と、“一家に一人ピアニスト”を推奨していますし(笑)…もちろんピアニストとしての僕をすごくフォローしてくれていますが、せっかくチャンスがあるなら、普通はできないことに挑戦したほうがいいと言ってくれています。
——ザルツブルク音楽祭への出演はかなり大きな出来事だったのですね。
はい、大きな転機でした。先日、エリックのショパンコンクール優勝者リサイタルを聴きに行ったときに思い出したことがあります。
4年前、ショパンコンクールに入賞したあと、今後のキャリアのため、次のコンクールの優勝者が出るまでに、誰もが夢見るような大きな舞台で絶対に結果を残すんだと心に決めていました。
そんな密かに思い続けていたことが、夏にザルツブルクで実現しました。しかも指揮者として呼んでもらえたことは、今後3年間くらいは自慢してもいいんじゃないかというほど、僕にとって大きな出来事でした。

——2026年はパーヴォ・ヤルヴィ指揮、トーンハレとのツアーもあります。
これは2024年に初めてモーツァルテウム管弦楽団を振りに行ったとき、トーンハレの副総裁がゲネプロを聴きに来てくれたことがきっかけでした。本番が成功したら、翌日すぐにヤルヴィからオファーが入ったのです。
今回は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番で共演します。曲目は僕からもいくつか提案したのですが、どうやらヤルヴィにベートーヴェンの3番を一緒にやりたいという強い意志があったみたいで。
——そういうチャンスを引き寄せているのは、ご自分のどんなところだと思いますか?
思い続けていることではないでしょうか。熱意があるほど実現すると思います。
あとはそもそも夢として思い描くものが、“今は遠いけれど、可能性を確かに感じていること”というのもあると思います。そこを狙って過ごしていると、靄がくっきり晴れ、今がジャンプするときだという瞬間がわかるんです。
キャリアをどう組み立てるかは、ツィメルマンからもたくさんアドバイスをもらいました。彼がバーンスタインからかけられたという言葉、「焦ってはいけない。でもチャンスを逃すな」は、僕も忘れないようにしています。長い人生、焦って動いても仕方ないけれど、機会を見極めて動く判断力は大切にしないといけません。
——10年を振り返って、どう感じていますか?
あっという間でしたが、この10年でオーケストラと348回演奏していて、加えて指揮の活動もあるので、オーケストラについて、同年代の中では人一倍詳しくなったと思います。
高校生まではオーケストラと弾いたこともなかったから、妻がまだ中学生の頃から「明日もオケとコンサートなんだよね」と言ってるのを聞いて、「そうなんだ」と言いながら内心すごく羨ましく思っていました(笑)。僕もいつかオーケストラとたくさん演奏するピアニストになるんだ!と思っていたので、やはりこれも、思い続けたことで実現したことの一つだと感じます。
そんな演奏活動に加えて、音楽事務所やレーベルを立ち上げ、会社を経営し、奈良県では文化政策顧問としても活動しています。この10年でできたこととしては、わりと多いほうではないかと思います。とくにJNOの拠点である奈良では、新しいアイディアを出しながら企画を進めているところです。県や市のみなさんが、音楽家の意見に純粋に耳を傾け、積極的に動いてくださるので、奈良は次の10年で大きく進歩するだろうと感じています。
でもそのなかでも一番大きな出来事は、もちろん子どもが生まれたこと。おかげで、ブラームスのような音楽の深い世界を知ることができました。

——お子さんの存在がブラームスの理解を助けてくれたのですか?
はい。ブラームスは深い愛を持つ作曲家で、その感覚をより近くに感じられるようになりました。やはり子どもというのは、愛の塊ですから。
顔や言動が僕に似ているところもあれば、妻に似ているところもあるし、不思議な関係性の友達みたいなところもあれば、未確認生物みたいなところもあって。親バカかもしれませんが、とにかくかわいいです。
そこから、好きな特定の作曲家にこだわる喜びを理解したところもあります。若い頃は、ピアニストは全ての作曲家の作品を弾けるべきだと思っていましたが、“〇〇弾き”と呼ばれる人が歳を重ねるほど増える理由がわかってきました。ショパンコンクールの準備をしているとき、ショパンについてその喜びを感じたわけですが、今改めて、自分に合う作曲家を死ぬまで追い求めたいという感覚が理解できたように思います。
その中でこれからどんな作曲家を深掘りするようになるのか…マーラーやモーツァルトも好きですから、そのオーストリア系の流れでずっとシェーンベルクばかりみたいな時期がくるかもしれませんし(笑)、楽しみですね。
——ベルリン・ソロイスツとの室内楽ツアーやJNOの室内楽シリーズにも積極的に取り組まれています。これは室内楽の魅力を広めようという考えからですか?
室内楽は、よりアーティストの魅力を感じるものです。仕掛けたり、仕掛けられたり、同じ曲でも奏者自身も楽しい。楽しいからやっているという感覚ですね。
室内楽って独特なジャンルだから、関心のない人に聴いてもらうことは難しいと思います。優れたソリストや友人とアンサンブルをして演奏会を続けることで、そのどれかがみなさんのアンテナに引っかかってくれたらという気持ちです。お客様もそうやってアーティストが楽しんでいるものを聴きたいだろうと思いますから。
——新しい活動のアイディアは、どういう時に思いつくのですか?
一番はチームのみんなと話しているときで、持ち寄ったアイディアをブラッシュアップすることでいろいろな企画が生まれます。
あと、僕は小学生の頃から電車の中吊り広告が好きで、“絶対交わらないように見える二つの広告が扱うものを、どう掛け合わせたら一つの魅力的な商品にできるか”を考えていました。たとえばシンプルなお茶の広告と、“怒涛の英語力がなんとか!”みたいなユニークな塾の広告を眺めつつ、1、2駅の時間制限の中で考えるんです。ポーランド留学中は暇だったから、目の前に現れたものをピコ太郎さんの「PPAP」ばりに次々くつけて、どう一つにして売るかを考えていました(笑)。
でも実はこれ、ビジネス界では“クロスインダストリー”という戦略で、多くの企業が取り入れているそうです。僕の価値観は間違っていなかったんだと思いましたね。

——ご自分の中で変化を感じることはありますか?
音楽以外でいうと、今年に入って汁物が好きになったことですね! 味噌汁が大好き、蕎麦はかけそばを選ぶようになり、ラーメンもよく食べます。肉は赤身を好むようになった自分が怖い。妻が和食が好きなので影響されているのもあると思いますが、がんばって反発しています(笑)。
…こう話していると、いつか飲食店もやりたいと感じますね。夢がたくさんあるので、体が2つほしいくらいです。
——今後注目してほしい活動はなんでしょうか。
まず1月末からJNOのツアーがあって、ここで初めてショパンのピアノ協奏曲第 2番を弾き振りします。後半のチャイコフスキーの交響曲第4番は、同じヘ短調で、ウィーンで師事した指揮の先生から最後に習った思い入れのある作品です。
オーケストラは約80人規模の14型。フルオーケストラと共演したことはありますが、ツアーでじっくり向き合うのは初めてです。大人数とのコミュニケーション、一番遠くにいる奏者とのコンタクトや音の聴き方について、自分を試す機会になると思います。今後海外からのオファーにも対応できるよう、経験を積み、勉強しておきたいです。
今は荷造りが終わり、リュックを背負い、靴紐も結んで、一段階上を目指して一歩踏み出していくタイミングだという感覚があります。
——忙しいご活動のなか、アウトプットばかりでなくしっかりインプットして養分も蓄えているのですね。
そうですね、今、すごく充実し始めている実感があります。常に優れた共演者のいい音に飲まれていたいし、好きだと感じられることをしていたい。2026年もそれを念頭に、音楽家としてどううまく自分を成長させていくかを考え、実行していきたいと思います!

反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ 冬ツアー2026
2026.1/30(金)19:00 奈良/なら100年会館 大ホール
1/31(土)15:00 広島/リーデンローズ 大ホール 【完売】
2/2(月)19:00 サントリーホール 【追加公演】
2/6(金)19:00 サントリーホール 【完売】
2/7(土)15:00 愛媛県県民文化会館メインホール
2/8(日)14:00 高知県立県民文化ホール・オレンジホール
反田恭平 SORITA KYOHEI OFFICIAL SITE
https://kyoheisorita.com
Japan National Orchestra
https://www.jno.co.jp

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/


