“和製バーンスタイン”山本直純の魅力を深掘りする
オーケストラがやっと来た!──50代以上のファンなら、この公演タイトルの“元ネタ”がすぐにわかるはず。伝説のクラシック音楽番組『オーケストラがやって来た』(TBS系列)。その企画、司会、編曲、指揮と大活躍だったのが、今年生誕90年&没後20年のWメモリアルを迎えている作曲家・指揮者の山本直純(1932〜2002)だ。8月、下野竜也が新日本フィルとともに“直純トリビュート”のコンサートを開く。
「僕は運良く、大阪フィルの指揮研究員時代に何度か直純さんのアシスタントに付くことができたんです。とても優しくて、『お前、振ってみろ』と、よくリハーサルで指揮をさせてくれました。完璧な指揮の技術と圧倒的な耳の良さ。テレビで見ていた“面白いおじさん”という印象とは違う、すごい才能の音楽家でした」
そのテレビが『オケ来た』だ。1972年にスタートした番組が終わったのは1983年。下野が中学1年生の3月だった。
「ちゃんと見始めたのは、音楽に興味を持ち始めた小学5〜6年生の頃です。『音楽の広場』『題名のない音楽会』と、3つもクラシック番組があった時代ですが、一番親しみやすいのが『オケ来た』でした。巻き込み型というか、ドリフを見てるような感じで、お客さんとのキャッチボールをいっぱいやっていたような気がします。『1分間指揮者コーナー』は僕もやりたいと思いましたね」
今回は、そんな『オケ来た』の再現企画もいろいろと準備されている。一方、作曲家としての山本直純に焦点を当てたオーケストラ作品集も。
「直純さんはよく“日本のバーンスタイン”と言われますが、作風や音楽観も影響されているんじゃないかと思うんです。『シンフォニック・バラード』(1983)は、ネーミングもそうですけど、『ウエスト・サイド・ストーリー』の〈シンフォニック・ダンス〉にインスパイアされていると僕は思っている。オーケストラが歌って踊って泣いてという曲。楽しんでいただけると思います。
札幌オリンピックの入場行進曲『白銀の栄光』(原曲は吹奏楽曲)は、こんなことを言ったら失礼なんですけど、直純先生、こんなおしゃれな曲も作るんだ!? と驚くような、無骨な行進曲とは一線を画した作品です」
コンサートは、2014年から続ける夏休みコンサート「下野竜也プレゼンツ! 音楽の魅力発見プロジェクト」の一環。
「このプロジェクトでもいろんな企画をやってきましたけど、直純先生が、すでにあの時代に、音楽の垣根を取っ払ってどんどんやっていたのはすごいことだと思います。その功績をいまだに誰も超えられていない。むしろ、せっかく直純さんがやってくれたことを、いま誰もやってないじゃないかという反省もあるんです。大きなことを言えば、音楽界みんなでもう一度、もっと大胆にこういうことをやっていきましょうよと考えるきっかけになれば。直純さんの『オケ来た』に憧れつつ、下野流で楽しんでいただこうと思います」
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2022年7月号より)
下野竜也プレゼンツ!
音楽の魅力発見プロジェクト 第9回
讃・山本直純没後20年「オーケストラがやっと来た」
2022.8/6(土)16:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
https://www.triphony.com