「キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO」が7月5日、東京・昭和女子大学人見記念講堂で開催される。公演に先立ち6月17日に行われた記者会見には、このプロジェクトの発起人である草刈民代、キエフ・バレエ(タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立歌劇場バレエ)副芸術監督の寺田宜弘、出演ダンサーを代表して元バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパルの厚地康雄らが登壇した。
本公演はウクライナ侵攻により危機にあるキエフ・バレエへの支援を呼びかけるチャリティー公演で、芸術監督を務める草刈の呼びかけにより、国内外で活躍する日本人ダンサー18名に、キエフ・バレエのダンサー2名が出演。観客は約1800人が無料招待され、学生を除き1名5000円以上の寄付を募る(招待のWEB申し込みはこちら/6月22日(水)23:59締切)。その全額はキエフ・バレエに寄付される。
草刈はロシアのバレエ団に長年客演し、ロシアとウクライナ両国のバレエ界と交流がある。会見冒頭では本公演の立ち上げに至る経緯を説明。侵攻によりまず両国が「分断」されてしまうことに複雑な心境を吐露する。
かつて一度共演したことのあるキエフ・バレエのアルテム・ダッツィシンがロシア軍の砲撃で亡くなったことを知り、「一気にこの侵攻を自分の近くに感じるようになった」。さらに、ボリショイ・バレエの芸術監督を務めたこともある、欧米で活躍するロシア人の振付家アレクセイ・ラトマンスキーが、「ロシアにおける芸術家と政府との関係についてもFacebookで積極的に投稿していた」ことにも、影響を受けたという。
「一番心動かされたのは、ラトマンスキーさんの『ダンサーには綺麗な脚だけではなく、心も頭もあるはずだ』という言葉です。このような状況下でただ踊ることだけに甘んじているべきではない。バレエを通じてワールドワイドな活動をできる人は、もっと自分で考え、選択していくべきではないか、という発信がすごく響きました。
日本のバレエの歴史を考えると、ロシアやウクライナとは切っても切れない関係性を築いてきました。ならば自分たち日本人のダンサーには何ができるか、きちんと模索すべきではないか。そのひとつとして、まずはキエフ・バレエをサポートするような活動をと考えました」
出演ダンサーは企画に賛同し、公演日の7月5日に出演可能な国内外の日本人ダンサーが集まった。草刈自身がSNSやウェブサイトを駆使して出演交渉を行ったという。
「この十数年でダンサーのレベルがものすごく変わっていると思いました。今回のプログラムや出演者から日本のバレエのレベルがここまで上がってきたということを皆様にご理解いただけるのではないかと思います」
キエフ・バレエ副芸術監督の寺田宜弘は、11歳の時にウクライナに国費留学してから35年が経つ。2月23日に日本大使館と外務省から勧告をうけウクライナを出国、翌日には侵攻が始まった。バレエ学校の教え子たちなどからは連日「助けてほしい」と電話があったという。
「ウクライナの、世界の芸術がなくなってしまう、サポートしないという思いで、ヨーロッパの友人と協力して125人のウクライナの子どもたちをヨーロッパのバレエ学校に無料で留学させました。
ダンサーというのは18歳でバレエ学校を卒業してバレエ団に入り、38歳くらいには舞台を去って年金生活になります。その非常に短いバレエ人生において、25歳までに国際的なダンサーにならないと先が見えなくなってくる。そのためにまずすべきことは、ダンサーたちがトレーニングできる場所を作ること。そして各地のカンパニーに連絡して、仕事が見つかるようにサポートすること。この100日間は、ハンブルクやミュンヘンでチャリティー公演を行い、自分の力、芸術の力でウクライナをサポートできるような活動をしてきました。心の中で『日本でもチャリティー公演をやるべきだ』と思っていたところ、草刈さんから10年ぶりにお電話をいただき、遠い日本のバレリーナがウクライナのためにチャリティー公演をしてくれる、夢と希望を与えてくださいました」
寄付金の用途については草刈とも相談し、新レパートリーの拡充のために活かしたいと語る。
「新しいレパートリーで、新しいキエフ・バレエの時代を創っていく。今までにない国際的な振付家をキーウ(キエフ)に招き、振付をしてもらう。日本人ダンサーたちの踊りのおかげで集まったお金で、キエフ・バレエの新しい作品を創っていく。そうすれば、より一層ウクライナと日本が近くなっていく。今後はキーウ(キエフ)にも日本人ダンサーに来ていただいて、芸術と文化、国際交流を一緒に行っていきたい」
出演者の一人、今年2月末までバーミンガム・ロイヤル・バレエに所属していた厚地康雄は、フレデリック・アシュトン振付『二羽の鳩』を踊る。直接会ったことがなかった草刈から突然電話があり、出演依頼があったという。
「僕はバレエダンサーなので、踊ることしかできません。いまもニュースを見る度に胸を締めつけられるような思いですが、力になれることがあれば踊りたい、僕の踊りでそういう方々の一人でも救いになればと思いました。
ウクライナ人のダンサーに配慮してロシアの作曲家の音楽を使わないという趣旨があったため作品選びは苦労しました。アシュトン振付の『二羽の鳩』は本物の鳩が2羽出てくる作品で、平和の象徴である鳩と一緒の舞台、このガラにぴったりなんじゃないかなと思っています」
本公演にはキエフ・バレエから、プリンシパルのアンナ・ムロムツェワとニキータ・スハルコフが出演し、ウクライナの詩劇に基づく『森の詩』を披露する。
草刈は「彼らは今回最後に踊ります。侵攻の渦中にいるダンサーが踊る。それはいま起こっているロシアの侵攻を、舞台という形で体験することでもあります。舞台に立つ人と客席で観る人それぞれが何を感じるか、それぞれの想いで劇場の空気が埋まっていく。これこそがチャリティー公演の意味でもあるので、ぜひそれをマックスで感じていただけるような公演にしていきたい」と意欲を示した。
8月にはキエフ・バレエのダンサーが来日して、『キエフ・バレエ・ガラ 2022』(光藍社主催)が全国で開催される。寺田のところにはダンサーから「夏の日本公演はあるのか」「日本で踊りたい」と連絡があり、「絶対成功させたい」と意気込む。
「侵攻が始まって以来、一度もバレエ団がひとつになって舞台に立つことがなく、絶対に、100%成功させたいと思いました。キエフ・バレエは本来120名いますが、いまウクライナに残っているのは30名だけです。バレエ団がひとつになって日本で公演し、それをSNSで発信する。世界中に住んでいるウクライナの人たちに、ウクライナの芸術が生きていることを証明できるのです」
【Information】
キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO
2022.7/5(火)18:30 昭和女子大学人見記念講堂
入場:無料招待(全席指定・特製プログラム付)
問:キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA 事務局(パシフィック・コンサート・マネジメント) 03-3552-3831
https://www.classics-festival.com/rc/kyiv-ballet-gala-in-tokyo/
※入場者(学生を除く)は5000円以上の募金が必須。
※チケット申込の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
芸術監督:草刈民代
指揮:井田勝大
管弦楽:シアターオーケストラトーキョー
●出演
アンナ・ムロムツェワ(キエフ・バレエ)
佐久間奈緒(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)
青山 季可(牧阿佐美バレヱ団)
佐々晴香(スウェーデン王立バレエ)
藤井彩嘉(チェコ国立バレエ)
佐藤碧(マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー)
芝本 梨花子(デンマーク王立バレエ)
大谷遥陽(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
中野伶美(シビウ劇場バレエ)
ニキータ・スハルコフ(キエフ・バレエ)
平野亮一(ロイヤル・バレエ)
厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
菊地研(牧阿佐美バレヱ団)
松井学郎(ノルウェー国立バレエ)
江部直哉(カナダ国立バレエ)
猿橋賢(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
福田昂平(元ノヴォシビルスク・バレエ)
水井駿介(牧阿佐美バレヱ団)
二山治雄
他
●上演作品
『デューク・エリントン・バレエ』The Opener(振付:ローラン・プティ)
『海賊』より
『バラの精』
『And… Carolyn.』(振付:アラン・ルシアン・オイエン)
『Deep Song』(振付:マーサ・グラハム)
『ノートルダム・ド・パリ』(振付:ローラン・プティ)
『ジゼル』アダージョ
『小さな死』(振付:イリ・キリアン)
『二羽の鳩』(振付:フレデリック・アシュトン)より
『祈り』(アメリカン・バレエ・シアター版『コッペリア』より)
『森の詩』より
他