濱田芳通が第53回サントリー音楽賞受賞

 公益財団法人サントリー芸術財団が、日本における洋楽の発展に貢献した個人や団体を顕彰する「サントリー音楽賞」の第53回(2021年度)の受賞者が、指揮者でリコーダー&コルネット奏者の濱田芳通に決定した。賞金は700万円。

Yoshimichi Hamada

 濱田は、桐朋学園大学古楽器科を卒業後、スイス政府給費留学生としてバーゼル・スコラ・カントールムに留学。リコーダー&コルネット奏者として国内外で幅広い演奏活動をおこなう。1994年に古楽アンサンブル「アントネッロ」を結成。中世からバロックまで幅広いレパートリーをもち、時代ごとの演奏習慣に関する広範な知識に裏打ちされた、即興性にとんだ躍動感みなぎるアンサンブルで常に古楽界に新風を吹き込んできた。録音も多く、スウェーデンのBIS、イタリアのシンフォニアなど海外のレーベルからリリースされたディスクは、いずれも「ディアパソン」誌で5つ星を獲得するなど、古楽の最前線を行くアーティストとして高い評価を受けている。とりわけ、コルネット奏者の草分け的存在としての功績は大きい。

 2013年に立ち上げたバロック・オペラ上演プロジェクト〈オペラ・フレスカ〉では、初期バロックの傑作、モンテヴェルディの三大オペラのほか、カッチーニ《エウリディーチェ》、レオナルド・ダ・ヴィンチが関わったとされる劇作品《オルフェオ物語》など、オペラ草創期の知られざるレパートリーの紹介にも努めている。また、戦国時代に日本に伝わった南蛮音楽にスポットを当てた芝居付きのステージ「天正遣欧少年使節」「エソポのハブラス」など、ユニークな企画でも知られる。

 最近では、昨年末の「メサイア」に続き、今年3月にも同じくヘンデルの歌劇《ジュリオ・チェーザレ》を上演し、大胆なアプローチで大きな話題を呼んだ。著書に『歌の心を究むべし』(アルテスパブリッシング)がある。

<贈賞理由>

 中世からバロック初期までのヨーロッパ音楽は、絶えず外部世界との関係をさまざまな移動の中で保ちながら聖と俗、社会の上下、国や地域といった狭間で変容しつづけていた。濱田芳通が創る音楽は、そうした時代の姿を映し出す。天正少年使節がもたらした音楽に日本の現在の音楽の源流を探り、ペルーに赴任した司教による採譜から南米音楽のルーツを探ることで、音楽のダイナミックな変成と流転の姿をとらえようとする。ヨーロッパ音楽へのグローバルな視点は、豊かな知識に裏付けられながらも、そこから実演へと飛翔する際には最大限の想像力が駆使され、また影響関係のあらゆるネットワークを知悉しながらの思い切った即興性や、一見異分子的な要素の突き合わせが行われる。それによって当時の音楽が思いもよらぬ生々しさと共にせまってくる。
 卓越したリコーダー奏者、コルネット奏者でもある濱田は、同様の生々しさを自身の演奏によるヤコブ・ファン・エイクの《笛の楽園》における、愉悦に満ちながらも超絶的な技術の披瀝によっても、より直接的な感覚に訴えて追求しているが、近年のバロック・オペラ上演では、楽譜から得られるあらゆる情報や、楽譜を超えた情報を取り込み、その生まれた時代の想像される環境に作品をふたたび置くことによって、そこに新たな生命力を吹き込み、新鮮な感動を与え続けている。その大胆な演奏形態は世界的な視野で見ても画期的である。2021年に採り上げた《メサイア》では、楽譜資料への深い洞察を踏まえながら、最小限の精鋭アンサンブルと合唱を用いて響きの上でも特筆すべき斬新さを打ち出し、機動性と柔軟性の両面に秀で、即興性、意外性に富んだ驚くべき演奏を披露した。作曲当時の上演習慣に則り、あくまでも作品の核心を突きながらも現代的な感覚での自在を見せ、これまで耳にしたことのない、現代に奔放に息づくバロック世界を創り上げた。それは本賞にふさわしい成果をあげたと評価できる。
(長木誠司委員)

サントリー音楽賞
https://www.suntory.co.jp/sfa/music/prize/

古楽アンサンブル アントネッロ
https://www.anthonello.com