濱田芳通(指揮)

アントネッロがヘンデル傑作2篇に挑む

 濱田芳通とアントネッロがヘンデルの「メサイア」と歌劇《ジュリオ・チェーザレ》をそれぞれ12月と来年3月に取り上げる。

 濱田はこれまでモンテヴェルディのオペラや宗教曲など初期バロックの音楽を手掛けてきたが、ヘンデルは盛期バロック。

 「突然18世紀の音楽をやりたいと思うようになりました。『メサイア』は小さい頃から父の演奏を聴いていたので、自分にとって懐かしい曲です」

 濱田の父、故・濱田徳昭氏は、日本オラトリオ連盟の創始者で同合唱団の指揮者。今からおよそ半世紀まえにバッハ・コレギウム東京というオリジナル楽器の合奏団を結成し、音楽監督としてバッハやヘンデルの宗教曲の大作の演奏を数多く指揮した日本の古楽の草分け的な存在なのだ。

 「世界ツアーについていってナチュラル・トランペットで共演したこともあります。現天皇陛下の浩宮様もご一緒でした。陛下はヴィオラを弾かれていました」

 「メサイア」はヘンデルのオラトリオの中でも異色の作品と言える。新旧約聖書を使ってイエス・キリストそのものを取り上げ、ダブリンでの初演の際の収益金は、当時の経済の悪化で借金が返済できず監獄に入れられた人たちや孤児院の救済に当てられた。世のなかを救いたいという作曲家の心意気が感じられる。

 「実はこのコンサートはコロナ禍の前に企画されたのですが、このような状況ですから、この公演を通して皆さまに元気になっていただきたい。声楽は13名で均等にソロをとり、他の箇所では合唱を担当します。この曲はオペラのような音楽ドラマだと考えていて、たとえ編成は小さくても音楽のスケールは大きい。それからフランス風やイタリア風のリズムの扱いや舞曲的な要素を強調するなど新しいアイディアを出して従来の解釈に一石を投じたい。これまでの演奏とは違うものになると思います」

 《ジュリオ・チェーザレ》も屈指の名曲だ。シーザーやクレオパトラなどよく知られたキャラクターが出てくるし、ストーリーもわかりやすい。なにより魅力的なアリアがふんだんにある。 

 「初期のオペラから順に演奏していくと、レチタール・カンタンド(歌い語り)から歌の部分がどんどん拡大されていった過程が実感としてわかります。話の展開と歌を披露する部分が分かれていった。そこでレチタティーヴォ・セッコをじっくり聴かせるなど工夫をします。キャスティングは歌手の持ち味と個性を生かしました。モティーフはモンテヴェルディの《ポッペアの戴冠》に通ずるところがあり、クレオパトラはコミカル。音楽的にはフランス的な要素も強調したいと思います」

 「きっと濱田さんの場合はそこにラテンの情熱が加わるのでしょうね」と言うと「そうだと思います」と頷き、こう付け加えた。

 「ヘンデルの頃のオペラは当時の社会的な事柄が反映されていました。こうした作品の持つ歴史的な背景を、今の自分の視点でとことん納得して舞台に掛けるのですが、きっと現代にも通じるものがあると思います」

 キャストは、題名役に坂下忠弘(バリトン)、クレオパトラ役に中山美紀(ソプラノ)ほか、若手主体の充実した布陣。これまでにもアントネッロのオペラを手掛けている中村敬一の演出も楽しみだ。
取材・文:那須田 務
(ぶらあぼ2021年11月号より)

濱田芳通&アントネッロ G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」全曲
2021.12/4(土)14:00 川口リリア 音楽ホール
問:リリア・チケットセンター048-254-9900
https://www.lilia.or.jp


アントネッロ〈オペラ・フレスカ 7〉 G.F.ヘンデル オペラ《ジュリオ・チェーザレ》
2022.3/3(木)18:30、3/5(土)14:00 川口リリア 音楽ホール
問:アントネッロ anthonello.concert@gmail.com
https://www.anthonello.com