まもなく開幕! ショパン国際ピアノコンクール 本大会展望

現地取材する音楽ジャーナリストが注目コンテスタントを一挙紹介!

 いよいよ10月3日に1次予選がスタートするショパン国際ピアノコンクール。日本人ピアニストも多数エントリーしており、心待ちにしているクラシックファンも多いことと思います。ワルシャワでの取材に出発する直前の飯田有抄さんに、今大会の見どころ・聴きどころをご紹介いただきました。配信で演奏を聴きながら、87名の若きピアニストたちを応援しましょう!

予備予選時のステージ

文:飯田有抄

 世界的なパンデミックにより2020年から1年延期の開催となった第18回ショパン国際ピアノコンクールの本大会が、いよいよ10月3日にポーランド国立ワルシャワ・フィルフハーモニーホールにて幕を開ける。7月に行われた予備予選に引き続き、本大会も1次から3次予選、そしてファイナルに到るまで、コンクールを主催する国立ショパン研究所の公式YouTubeチャンネルからライブ配信されるため、日本にいながらにしてその全貌を追うことができる。日本とポーランドの時差は7時間(日本の方が進んでいる)なので、現地の午前の部は日本の夕方からと鑑賞しやすいが、午後の部は終わりが朝の4時頃くらいまでの日もあるので、アーカイブ配信も上手に活用しながら楽しみたい。

 スケジュールをまとめておくと、1次予選は10月3日〜7日 。87名から40名に絞られる。国籍でみれば、中国勢が22名ともっとも多く、次いでポーランドは16名、日本は3番目に多く14名が出場する。2次予選は10月9日〜12日、ここで20名に絞られる。3次予選は10月14日〜16日。ショパンの172回目の命日(10月17日)をはさみ、選ばれし10名が10月18日~20日の本選ファイナルのステージでオーケストラとともに協奏曲を演奏する。見事入賞したコンテスタントは10月21日〜23日の入賞者披露演奏会に出演する。

 さて、日本人コンテスタント14名であるが、すでに名だたるコンクールでの実績があり、コンサート・ピアニストとしても活躍の幅を広げている奏者が多い印象だ。予備予選での演奏を振り返りつつご紹介しよう。

 第17回の同コンクールのファイナリストである小林愛実は、10代でCDデビューし、精力的な活動を続けながら、アメリカで研鑽を積んできた。今年は前回出場時と独奏曲目をすべて変えて臨むという。予備予選ではノクターン第14番などを安定感のある姿勢で落ち着いた響きで聴かせ、この6年における彼女の大きな変化・成長を感じた人も多いことだろう。

小林愛実 Aimi Kobayashi

 反田恭平は高校時代に日本音楽コンクールを制したのちロシア留学を経て、すでに国内外のオーケストラとの共演も多い。自身のCDレーベルやオーケストラを立ち上げるなど、独自性の強い活動でも注目を集めている。予備予選ではバラード第2番などを、貫禄すら漂わせる情感豊かな演奏で披露した。配信からでもでも伝わる圧倒的なダイナミクスで、一際存在感を放った。

反田恭平 Kyohei Sorita

 角野隼斗は2018年のピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリに輝いたことをきっかけに、本格的な演奏活動をスタート。クラシックのみならず、多様な音楽ジャンルでの創作活動で新しいピアニスト像を打ち出す。Cateen(かてぃん)名義のYouTubeチャンネルの登録者数は82万人に迫る勢いで、ピアニストとして群を抜いた人気を誇る。初の国際的大舞台となる本コンクールの予備予選では、緊張した面持ちを見せながらも、詩情に溢れたノクターン第13番や、情熱迸る「木枯らし」のエチュードを聴かせた。

角野隼斗 Hayato Sumino

 高松国際コンクール優勝、パデレフスキ国際コンクール第3位入賞など、その実力を着々と結果として残している古海行子は、ワルシャワの舞台でも落ち着いて自分の力量を発揮できた様子だ。マズルカ第17番や幻想曲を端正かつダイナミックにまとめあげた。

古海行子 Yasuko Furumi

 さて、もう一人忘れてはならないのは牛田智大だ。2018年の浜松国際コンクールで第2位に入賞した実績をもつ牛田は予備予選が免除されたため、本大会からいよいよ参戦である。

牛田智大 Tomoharu Ushida

 これから大いに花開く可能性をもった日本人コンテスタントたちもいる。この夏、サントリーホールでショパンの協奏曲第1番を熱演し、ピティナ・ピアノコンペティション銀賞および聴衆賞を獲得した進藤実優は、予備予選では集中度の高い演奏でスケールの大きな「舟歌」を聴かせた。医師とピアニストの二刀流を目指す沢田蒼梧は名古屋大医学科5回生。バラード第1番では理知的かつファンタジックな音楽性を示した。

進藤実優 Miyu Shindo
沢田蒼梧 Sohgo Sawada

 ここで紹介しきれないほど、日本人勢だけでも注目に値する奏者は多く、かなりハイレベルなステージが期待できるが、諸外国のコンテスタントの演奏も楽しみだ。

予備予選の審査員室 (c) Wojciech Grzedzinski for NIFC

 ラトビアのゲオルギス・オソキンスは、小林と同様に前回のファイナリストであり、室内楽や独奏で演奏活動を展開している。予備予選では繊細で多層的な音楽作りでバラード第3番などを聴かせた。イタリア/スロヴェニアのアレクサンダー・ガジェヴは2015年の浜松国際コンクール、そして今年のシドニー国際コンクールで優勝、日本の主要オーケストラとの共演も重ねている。予備予選のマズルカ第34番や第35番では生き生きとしたリズムを余裕をもって表現した。ロシアのニコライ・ホジャイノフは、前々回、つまり2010年の当コンクールのファイナリストであり、日本でも多数のコンサートやテレビ出演を果たしている。予備予選のノクターン第7番などでは、すでに中堅の域に入りつつある安定感と推進力に満ちた演奏を聴かせた。

ゲオルギス・オソキンス Georgijs Osokins
アレクサンダー・ガジェヴ Alexander Gadjiev
ニコライ・ホジャイノフ Nikolay Khozyainov

 有名・無名、奏者としての経験値に関わらず、すべてのコンテスタントが同じステージで熱演を繰り広げる本大会。ショパンの詩情に肉迫しながら、その音楽のもつ可能性をより深く感じさせてくれるのは誰なのか。一人ひとりの芸術性、持ち味を存分に聴き取りながら、深まる秋の夜を過ごしてはいかがだろうか。

All photos:(c) Narodowy Instytut Fryderyka Chopina 2020

第18回ショパン国際ピアノコンクール 18th Chopin Piano Competition
オープニング・ガラコンサート The Gala Opening Concert 10/2(土)
1次予選 STAGE I 10/3(日)〜10/7(木)
2次予選 STAGE II 10/9(土)〜10/12(火)
3次予選 STAGE III 10/14(木)〜10/16(土)
本選 FINAL 10/18(月)〜10/20(水)
入賞者披露演奏会 PRIZE-WINNERS’ CONCERTS 10/21(木)〜10/23(土)
(日付は現地時間)

Chopin Piano Competition
https://chopin2020.pl
Chopin Institute YouTube
https://www.youtube.com/c/chopininstitute