藤井香織(フルート)& 藤井裕子(ピアノ)

“藤井ファミリー勢揃い”のアルバム


 ニューヨークを拠点に活躍するフルーティスト藤井香織の、前作から実に7年ぶりのCD『Voyage』がリリースされた。姉・裕子との初めてのデュオ・アルバムには、シューマン「アダージョとアレグロ」、メンデルスゾーン「無言歌」op.85-4、フランク「ソナタ」などロマン派の、つまり音楽が一番濃くて美味しい時代の作品が並ぶ。
香織: (以下 K)「ロマン派はすごく好きで、恩師のパウル・マイゼン先生にもたくさん教わったのに吹く機会がそんなになくて…。だから今回は好きな曲を並べました」
 オリジナルがフルート以外のための作品が大半だが、本人にこだわりはない。
K「曲が良ければいいじゃないかと。フルートは意外にレパートリーが少ないので」
裕子: (以下 Y)「香織は、幅広い方々に聴いてほしいという気持ちがあったんでしょ? オリジナルにこだわるより、曲を知らない方が聴いても『いいね!』と思っていただけて、でもイージーリスニングではなく、専門家にも満足してもらえるクオリティの作品を選んで」
K「それもあるし、よくマイゼン先生が、フルートだけのレパートリーばかりを吹いていくより、自分の音楽が曲によって育てられる作品を吹くといいよとおっしゃっていたので」
 録音ディレクターはクラリネット奏者である父・一男が務めた。
Y「父は冷静で指示がうまいんですよ。親子だからということではないと思いますけど。全然ピリピリせず、のびのびやらせてもらいました」
K「ピアニストの母が譜めくりをしてくれたので、藤井家勢揃いです(笑)。姉とはとにかく演奏しやすいんです。姉が敷いてくれる心地よい絨毯の上で自由に吹ける。私がどう吹いても絶対に付いてきてくれて、ずれようと思ってもずれられない安心感・信頼感があります」
Y「子供の頃から一度も喧嘩したことがないほど仲良しだったし、本番だけでなく、香織が受けるレッスンも含めて、数知れず一緒に弾いてきましたから」
K「間違いなく共演が一番多いパートナーなんです」
 香織は今年、開発途上国の音楽教師を育成するためのNPO「ミュージック・ビヨンド」を起ち上げ、その最初のプロジェクトをコンゴ民主共和国(旧ザイール)で開始した。アフリカの貧困国での活動は容易ではないはず。そんな力みを一切感じさせない、さらりとした口調だが、音楽の社会的な役割に正面から向き合う尊い活動を、しかも当面は自費で行なっているというから心から頭が下がる。活動のための募金も始まっているので、「musicbeyond.org」をぜひ検索してほしい。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

【CD】『Voyage』
コジマ録音 
ALCD-3101
¥2800+税