加藤訓子(マリンバ)

打楽器と韓国伝統楽器のエネルギー漲る融合

©︎ Michiyuki Ohba

 意欲的な活動を続ける打楽器奏者・加藤訓子が、5月にイリャン・チャンの作品による2公演を行う。共に「韓国伝統と現代音楽の邂逅」を掲げた興味津々の内容だ。

「イリャンはドイツで生まれ育った、韓国にルーツを持つ作曲家。2009年の『サントリーホール サマーフェスティバル』で、テーマ作曲家ウンスク・チンの委嘱による『BENU』を演奏し、強烈なインパクトとエネルギーに惹かれました。すると2014年に本人から誘われて、同国伝統の横笛デグン、打楽器チャングとの『MOTION』による韓国ツアーに参加したのです。以後日本に紹介する使命感を抱いていました。彼の音楽の基盤は韓国伝統のリズム。根底にある騎馬隊風の速い3拍子のリズムのサイクルやポリリズムがとてもエネルギッシュです」

 今回1つ目は脈動を間近で感じられるライブハウス「KIWA TENNOZ」での公演。加藤、デグン、チャングの各奏者とギターの佐藤紀雄が出演する。

「1曲目の『BLACK BIRD』(日本初演)は、大きな拍のあるゆったりしたテンポの中で、デグンの音に装飾や琴のようなギターが絡みます。次の『BINARY GROOVE』(世界初演)は、マリンバ・ソロのための委嘱作。先ほど話した速い3拍子を主軸にした曲で、色々な楽器の要素をマリンバだけで表現します。そしてマリンバ、デグン、チャングによる大曲『MOTION』(日本初演)。異なるリズムの3拍子が絡み合うグルーヴ感のある音楽で、複雑なリズムが様々な景色をもたらします」

 2つ目は神奈川県立音楽堂での公演。韓国の2人のほか、加藤のもとに集う若い打楽器奏者たちとアンサンブル・ノマドが出演し、「BINARY GROOVE」「MOTION」に加えて、「GLUT」(日本初演)、「BENU」(前述の2009年演奏曲)というアンサンブル作品が、大きな見どころとなる。

「『GLUT』は、政治的理由で非業の死を遂げたイリャンの父に捧げられた、6人の打楽器奏者とアンサンブルのための作品、『BENU』は『不死鳥』を意味する大規模な作品です。共に彼のメジャーピースで、繋げての演奏が望まれていました。これらは、リズムのパルスだけでなく音色がポイントで、じっくりと進みながら速くなっていく形。『GLUT』で燃えていき、『BENU』で不死鳥が羽ばたきながら天に昇るといったイメージでしょうか。ただ、いずれも打楽器のコンチェルトとして聴いてもらいたいと思います」

 4月のCDリリースや6月からの公演など看板であるライヒの演奏にも力が入る加藤だが、まずは「未知の人が聴いても楽しめる」と語る両公演で、他にない音楽を体験したい。
取材・文:柴田克彦

Portrait of Il-Ryun Chung
2024.5/25(土)19:00 東京/KIWA TENNOZ
日・韓・独共同制作「イリャン・チャンの肖像」
2024.5/31(金)19:00 神奈川県立音楽堂
問:芸術文化ワークス事務局 080-5075-5038
https://kuniko-kato.net