Kyoto Music Caravan 2023 「スペシャル・コンサート」
教育者・阪哲朗が語る京都の音楽シーン

京都市が誇る充実した教育機関・演奏団体が一堂に集結!

取材・文:編集部
写真提供:京都コンサートホール

 文化庁の京都への移転&京都市立芸術大学の新キャンパスへの移転を記念し、2023年4月から24年3月までの1年にわたり、市内11の行政区にある観光地などで市立芸大ゆかりのアーティストによるコンサートが行われた「Kyoto Music Caravan 2023」。3月30日には掉尾を飾る12公演目「スペシャル・コンサート」が同大学の堀場信吉記念ホールで開催され、京都市でクラシック音楽を学ぶ学生や子どもたちによる5団体(京都市少年合唱団、京都子どもの音楽教室、京都市ジュニアオーケストラ、京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学)が出演。公演のメインは、山形交響楽団常任指揮者、びわ湖ホール芸術監督で、母校・市立芸大の教授でもある阪哲朗の指揮のもと、各団体の合同演奏でジョン・ラター「グローリア」が演奏された。

♪プログラム♪
●京都市少年合唱団(指揮:大谷圭介./ピアノ:小林千恵)
槇原敬之(作詞・作曲)/若林千春(編曲):世界に一つだけの花 他
●京都子どもの音楽教室(指揮:明石幸大)
ラター:For the beauty of the earth(このうるわしき大地に)
●京都市ジュニアオーケストラ(指揮:大谷麻由美)
ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 op.21より 第1楽章
●京都市立京都堀川音楽高等学校(指揮:明石幸大)
ワーグナー:歌劇《タンホイザー》序曲
●合同ステージ(指揮:阪哲朗/出演:京都市立芸術大学 音楽学部・音楽研究科、京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市少年合唱団、京都子どもの音楽教室、京都市ジュニアオーケストラ)
ラター:グローリア

 当日出演した5団体は充実した教育体制を誇り、日本の音楽シーンを支える多数の音楽家を育てている。京都市少年合唱団はバリトンの黒田博らを輩出、京都子どもの音楽教室は市立芸大の教員や名誉教授が運営・演奏アドヴァイザーを、京都市ジュニアオーケストラは京都市交響楽団の楽団員が指導者を務めている。そして京都市立京都堀川音楽高校、市立芸大の卒業生には、指揮者の佐渡裕のほか、世界で活躍する音楽家も多く名を連ねる。
 今回のようにそれらの団体が一堂に会し、合同で演奏会を開催することは初めてだという。公演チケットは即日完売。各団体の演奏後、そして合同演奏の後には、ひと際大きな拍手が送られ、「Kyoto Music Caravan 2023」は幕を閉じた。

撮影:編集部

 公演の後、ラター「グローリア」を指揮した阪に話をきいた。

INTERVIEW 阪哲朗(指揮)

——子どもたちの演奏はいかがでしたか?

 ものすごくポテンシャルの高さを感じました。みんなエネルギーに溢れているので、僕はそのコントロールをするだけ。例えば、彼らの演奏は、次第にテンポが上がっていく傾向があるのですが、それ自体を制止するのではなく、立ち止まるところを作ればいい。彼らの個性を生かした音楽にしていくことを意識していました。

阪哲朗

——京都は本当に充実したクラシック音楽の教育環境が整っていますね。

 伝統を大事にしながらも新しいものを取り入れている街。そのバランスがウィーンと似ているような気がします。昔からいろんなものが集まって、文化が生まれましたよね。日本最初の路面電車が走ったのも京都です。様々な文化が混ざり、西洋音楽も上手に取り込む。「京響さんが日本一」という人がこの街にはたくさんいます。ウィーン・フィルを大切にするウィーンの人たちと同じだと思います。
 教育システムは各年代に揃っているので、相互の結びつきをもっと濃くしたい。今日のような演奏会を毎年やってほしいですね。京都で育ち、芸大で学んだ僕も京都に還元しないといけないと感じています。

——2023年10月、いよいよ新キャンパスでの市立芸大がスタートしました。

 郊外だった以前のキャンパスから京都市内の中心部に移転して、刺激という意味では今まで以上にあるでしょうね。京都駅の近くですから市外から演奏家も連れてきやすい。
 11月に行われた大学のホール(堀場信吉記念ホール)のこけら落とし公演には非常に多くの応募が来たそうです。それだけ市民の方にも関心を持っていただいているということだと思います。

——教授として、大学では生徒さんたちにどんなことを指導されていますか?

 僕はこの大学の作曲科卒業なのですが、日本の指揮科を知らない僕が母校で指揮を教えているというのも変な話ですよね。ですがポイントはここだと思います。指揮科の先生って指揮棒の振り方を教えることが多いと思うのですが、僕は方法そのものにはあまり興味がありません。やりたいことを叶えるために方法が必要になるわけで、例えば、登りたい山を登るためのテクニックを身につける。次はもう少し高い山、次は、と。こうしてテクニックが上がっていくんです。音楽も同じで、楽器の上手い人を作るのではなく、芸術家を作らないと意味がない。僕は理論と実際の演奏を結びつける指導をするために、母校に帰ってきたと思っています。

——今回の公演ではどのようなことを?

 今回の公演のリハーサルは楽語の説明から始めました。「スタッカート」(音と音を離す、分ける)といってもみんな語源までは知らない。「楽譜に書いてあるからスタッカートやりました」。これではお客さんの心には響かないと思うんです。こういうことについてみんなはどう思う? というディスカッションも行いました。「短く」と言えば3秒で終わるけど、それを5分かけて説明する。方法を伝えるのは簡単だけど、僕がいなくなって生徒が路頭に迷うのではだめ。考え方を伝えていれば、音楽家として生きていけるはずなんです。だから、教育者として“方法”は言わないようにしています。その辺りは作曲家の目線なのかもしれません。

——今日共演された子どもたちが、次の京都の音楽文化を担っていく存在になるかもしれません。子どもたちに期待することを教えてください。

 昔に比べたら本当にレベルが上がっていると思います。市立芸大の卒業演奏会も見事でした。
 ただ、みんな非常に優秀なのですが、人を感動させるところまで成長してほしい。そのために若い時は色々な経験が必要。たくさん考えて、音楽の本当の面白さに気づいてほしい。
 今回は、ちょっと噛み砕いてはいますが、いつも山響やびわ湖ホールのリハーサルで要求していることと同じことを言いました。次の世代を育てていかないといけないですし。本当にいくらでもポテンシャルを発揮してくれると確信しています。

京都コンサートホール
https://www.kyotoconcerthall.org


Kyoto Music Caravan 2023
https://www.kyotoconcerthall.org/kyotomusiccaravan2023/