ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

ヴィオラの妙技とラテンの香の稀なる交錯

左より:ジョナサン・ノット/青木篤子 ©Junichiro Matsuo/サオ・スレーズ・ラリヴィエール ©Clara Evens

 音楽監督ジョナサン・ノットと東京交響楽団のコンビも11年目のシーズンを迎えた。同コンビはまさに絶好調。緻密かつ迫真的な演奏で、いかなる楽曲にも生気を吹き込むノット指揮の公演は、必ずや足を運んだ甲斐がある。そしてもう1つの魅力が、斬新かつ意味深いプログラムだ。来る5月の東京オペラシティシリーズと名曲全集もその好例といえるだろう。

 それは、ベルリオーズの「イタリアのハロルド」、酒井健治のヴィオラ協奏曲「ヒストリア」、イベールの「寄港地」というユニークな内容。まずはヴィオラ独奏を有する作品が2曲並ぶ点が目を引く。「イタリアのハロルド」のソロは東響首席奏者の青木篤子、京響の委嘱で2019年に作曲された酒井の協奏曲のソロは、プラハの春国際音楽コンクール第1位ほか多数の受賞歴を誇るフランスの俊才、サオ・スレーズ・ラリヴィエールが受け持つ。つまり今回は、新旧の楽曲と名手の個性を聴き比べる稀有にして贅沢な機会となる。

 もう1つのポイントは、すべてフランス&イタリア関連の作品である点。フランス生まれの2人に加えて、エリザベート王妃国際音楽コンクール大賞等数々の賞を受賞している酒井もフランスで活動後帰国した作曲家だ。そして、「イタリアのハロルド」は当地の山中に因んだ作品だし、「寄港地」はローマを起点に地中海各地を描いた作品。しかも酒井を含めた全員が、ローマ大賞等の受賞に伴ったイタリア留学の経験を持っている。それゆえ各曲における両国の情緒や色彩感の表現も注目点となる。このノットならではのプログラム…今回も足を運ばずにはおれない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年5月号より)

東京オペラシティシリーズ 第138回
2024.5/17(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
名曲全集 第197回〈前期〉
2024.5/18(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp