調布国際音楽祭2024 スペシャル座談会
鈴木優人(調布国際音楽祭 エグゼクティブ・プロデューサー)×廣津留すみれ(ヴァイオリン)×佐藤天彦(棋士)

前代未聞の“音楽将棋” 公開対局!

 6月の調布の風物詩としてすっかり定着した調布国際音楽祭。今年は“MUSIC WITHOUT BORDERS”をテーマに掲げ、多彩なコンサートが用意されている。なかでも異彩を放っているのが6月21日の「将棋×音楽 スペシャルコラボイベント 駒音に耳をすませて」。ウェブサイトには「クラシックファンの佐藤天彦と将棋ファンの鈴木優人がタッグを組むことで実現した『将棋×音楽』の世界初!? のオリジナル企画」との説明があるが、どういうコンサートになるのか。この公演に出演するエグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人、棋士の佐藤天彦九段、そしてヴァイオリンの廣津留すみれの3名に語ってもらった。

取材・文・構成:林昌英 写真:野口博

左より:佐藤天彦、鈴木優人、廣津留すみれ

鈴木 僕は将棋が大好きで、音楽家の巨匠を見上げるように将棋の先生方を尊敬しています。棋譜を見ると、バッハの楽譜のように考え抜かれた軌跡があり、芸術性で似ている部分があると思うんです。そこで今回、将棋と音楽ということで、クラシックに非常に造詣が深い佐藤天彦先生とのプロデュース公演を考えました。そして、大人気の女流棋士、香川愛生先生が調布市の出身で、そのご縁も活かせればと。さらに、棋士の青嶋未来先生、演奏者はアソシエイト・プロデューサーの森下唯くん(ピアノ)、音楽祭のレギュラーゲストである廣津留すみれさんにも出演していただけることになりました。作曲家・指揮者の中島章博さんもフルートで出演してくれます。

廣津留 私は具体的なことはこれから伺うのですが、どんなコンサートになるんでしょうか?

鈴木 では発表します! クロスオーバーで、まず、僕は将棋を舞台でやります! そこで超一流の棋士の先生からダメ出しをいただく(笑)。そして、佐藤天彦先生の新曲を披露します!

廣津留 え、新曲?! 対局の「局」のお話じゃなくて?

鈴木 そう、音楽の「曲」。

佐藤 実は、今回出演される中島章博さんに作曲を習っているんです。まったくのゼロからですが、理論を学んでいて、カデンツ、機能和声から始めています。作品として作るのは初めてで、中島さんにしっかり見ていただいて、助けてもらいながらできれば…。それで、お恥ずかしいんですが、私の作った“なにか”を、すみれさんに演奏していただく可能性をイメージしているんですけれども…(笑)

廣津留 そうなんですか! 佐藤先生の“なにか”を演奏できるなんて光栄です…!

鈴木 僕は将棋のレッスンを香川先生にお願いしようかな(笑)

将棋会館での取材時には盤を囲んで対局も!

 鈴木は「駒音に耳をすませて」のコンセプトを説明。目的は「異なる二つの芸術形態——音楽と将棋——の共通点を探求すること」。目標は「音楽の調和と将棋の戦略的な美しさを融合させ、両者の間にある意外なシナジーを探ることで、新たな芸術的表現を創出すること」。前例のない内容になりそうだ。

鈴木 まず、トークコーナーと、先生方のリクエスト曲を演奏します。そして「音楽将棋」というコーナーを考えています。ⅠからⅢまであり、「Ⅰ」は対局を序盤・中盤・終盤に分けて、それぞれに名曲を演奏する。「Ⅱ」は結構な実力者という中島先生と僕が舞台上で将棋をやりまして、相手が「長考します!」と宣言したら即興演奏をしようと。「Ⅲ」では将棋のJT杯の人気企画のように「次の一手」クイズを行い、その間に演奏します。いろいろ合わせると、全体で10曲以上演奏することになりますね。

佐藤 優人さんは将棋、僕は作曲で新作を作る。お互いが専門外のことでさらけ出すことになりますが(笑)、それもいいのかなと思います。

廣津留 将棋の知識はありません、という人でも今回のコンサートは楽しめますよね?

佐藤 一手ずつ、または一音ずつ、頭の中で構築して大伽藍を築き上げていくというプロセスは、将棋も音楽も似ていると感じています。また、将棋の戦況はソナタ形式みたいな感じかもしれません。序盤は主題を提示するようにゆったり組み立てて、中盤は入り組んで展開していき、終盤はテンポを上げて走り出し、勝負としての側面が高まってフィナーレを迎える。将棋のルールを知らなくても、こういう状況かなと音楽でわかるようにできれば。

鈴木 音楽祭は“お祭り”で、誰もやっていない、うまくいくかもわからないようなことをできる場でありたいと思っています。これは誰もトライしたことのない、盤面の勝負と譜面の勝負。どんな方も楽しめるように挑戦します!

廣津留 私は大学で講義をするとき、「音楽 × 教育」「音楽 × スポーツ」のように異なるトピックを掛け合わせますが、音楽を違う側面から見られる機会は意外と少なくて、本当にレアなチャンスです。この公演なら“「音楽 × 将棋」も意外と共通点あるじゃん!”と感じられるはずだし、楽しいコンサートになると思います!

フェスティバル・オーケストラ公演より ©K.Miura

 公演についての話題の間にも新たなアイディアが出て盛り上がったり、将棋の長考、即興演奏、将棋と作曲の共通点の考察などに話が展開していったり…。なかでも「即興」をテーマとしたトピックは興味深いものがあった。

廣津留 ジュリアード音楽院の仲間、特にジャズ科の友人はいつも即興していました。最初は見よう見まねでやって、考えすぎるとうまくできないけど、ノリでやってみると“いいじゃん!”となったり。(理論は即興につながる?)両方だと思います。理論は身につけたうえで、頭で考えてもあえて固めず、あとは手のマッスルメモリーとでもいうのか、“こう来たらこう弾く”というバリエーションの積み重ねで勝手に手が動く、それがマッチしたときにうまくいくという感覚です。

佐藤 将棋だと持ち時間を使い切ったら、一手を60秒とか30秒以内に指しなさいという世界に入る。読むべき膨大な情報量からすると即興に近いような時間で、それを追い込まれた中でやる。そうなると、いまのマッスルメモリーではないけど、将棋でいう大局観の感覚をこどもの頃から養ってきたことで、“この盤面ならABCの三択かな”と指し手の候補が浮かんできて選ぶという形です。

鈴木 僕みたいなアマチュアだと、単純に長考する方がいい手が浮かぶこともあるかもしれないけれど、プロは最初に直感で候補を絞りこめるんですね。

佐藤 最後の三択の精度の高さこそ、プロの技術なのかなと思います。そこでいかに正確な手が浮かぶかどうか。例えば60秒以内のとき、50秒間Aだと考えていたのに、急にAはダメだと気付いて、どうしようもなくいきなりBかCを選ぶことになるのが一番怖いシチュエーション。でもその方が相手も驚いて惑わされたりするので、そういう意味では意識的というより即興的といえるかもしれません。

 最後に調布国際音楽祭全般について、常連となった廣津留と音楽祭の顔である鈴木が、“お祭り”としての意義を語った。

廣津留 そこに行けばみんながいるのが“お祭り”ですよね。調布は出演者もスタッフさんも、いつもいる仲間が迎えてくれる空気があります。気心知れた人と一緒に音楽をつくるのは最高に楽しいので、毎年また帰って来たなと思いますし、調布に関しては特にコミュニティの方々が、「本当に楽しみにしていました!」という顔をしてくださいます。年に一度のお祭り感があり、6月になれば音楽祭の時期が来たなと楽しみになります。

鈴木 なんでもできる“お祭り”である調布国際音楽祭は、手づくりでオーガニックなチャレンジを目指しています。調布で育つ野菜のように、だんだん大きくなりますから、長い目でみていただければと思います。

取材協力:日本将棋連盟

Information
調布国際音楽祭2024
2024.6/15(土)~6/23(日) 調布市グリーンホール、調布市文化会館たづくり、調布市せんがわ劇場、深大寺本堂 他

将棋×音楽 スペシャルコラボイベント 駒音に耳をすませて
2024.6/21(金)18:30 調布市文化会館たづくり くすのきホール

出演
鈴木優人(ピアノ) 森下唯(ピアノ) 廣津留すみれ(ヴァイオリン) 中島章博(フルート)
佐藤天彦(棋士) 青嶋未来(棋士) 香川愛生(棋士)

問:チケットCHOFU 042-481-7222
https://www.chofumusicfestival.com
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。