前進し続けるマエストロが導く傑作2選の重厚な響き
日本の誇る名匠のひとりである小泉和裕の活動が、改めて注目されている。長く国内各地の楽団で重要ポストに就いてきた小泉が、この3月まで務め上げた九響音楽監督の仕事が一区切りしたことで、関わってきた楽団それぞれと新たな高みを目指すステージに入ったのである。先日マエストロへのインタビュー機会があったが、「みなさんの期待に応えていけるように、自分にプレッシャーをかけて、歳を重ねてもまだまだ変化していきたい」と新たな意欲がみなぎっていた。
5月には新日本フィルの定期に登壇。取り上げるのは2つの交響曲。まず、「音楽家のバイブル」と語るベートーヴェンから第8番。9曲中もっとも軽快な曲とみなされがちだが、小泉が学んでいたカラヤンとベルリン・フィルによる第8番が「16型のフルオーケストラで、それはもうものすごい音でした。本当に立派な音楽であり、そのように演奏するべき作品だと思います」と語っていた。常にドイツ音楽を中心としてきた小泉の作り上げる豊麗な第8番。いまこそ体験しておきたい。
もう一つのシンフォニーは、チャイコフスキー第4番。「運命の動機」と呼ばれる象徴的なモティーフで始まり、重厚な音響と心を捉えるメロディが展開し、最後は異様なまでの高揚感で終わる。小泉の得意演目でもあり、これまでも各地で本作を取り上げて成功を収めてきた。西欧的語法のなかにロシア民謡も現れる本作の底知れないエネルギー、深淵なメッセージまで伝わるような名演を期待してやまない。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年5月号より)
第656回 定期演奏会
〈トリフォニーホール・シリーズ〉
2024.5/18(土)14:00 すみだトリフォニーホール
〈サントリーホール・シリーズ〉
2024.5/19(日)14:00 サントリーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp