東京オペラシティ B→C 對馬佳祐(ヴァイオリン)

自身の感性を通して、それぞれの時代の音楽をありのままに

©Ayane Shindo

 ヴィルタス・クヮルテットのメンバーでオケへの客演などの実績も豊富な對馬佳祐。一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では對馬の弾くヴァイオリンが映像を彩ったので、それと知らずに耳にしている人も多いだろう。そんな実力者が満を持して東京オペラシティの「B→C」に登場する。

 「B→C」は「バッハからコンテンポラリーへ」の意で、出演者にはそれを踏まえたプログラミングが求められる。對馬の答えは前半がチェンバロ伴奏(永野光太郎)による2作(バッハ「ソナタ第1番 BWV1014」、シュニトケ「古様式による組曲」)、後半が無伴奏作品(モーツァルト/對馬編「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、エスケシュ「いざ来たれ」、三善晃「鏡」、土田英介・委嘱新作)。一見、古典と現代の対比が効いているようだが、對馬は「選曲自体に不要な意味を持たせない」「バッハと現代を対比構造に置かない」と述べている。

 当シリーズでは企画の性格上、選曲は対比関係でとらえられがちになるが、對馬はどんな音楽であれ、それが作曲された時代や環境に思いを巡らせ、聴衆に作品をできるだけありのままの姿で届けたいのだ。だからチェンバロを用いた作品で時代性を相対化し、また厳格さと新奇性がせめぎあうこれらの無伴奏曲からは、バッハ、パガニーニ、イザイ、バルトークといった伝統が浮かび上がってくるのだと述べる。音楽にわが身を捧げ、作品を深く掘り下げようとする求道者の姿が浮かんでくる。襟を正して耳を傾けたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年5月号より)

2024.5/14(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp