【WEBぶらあぼ特別インタビュー】新国立劇場オペラ《死の都》 パウル役、トルステン・ケール(テノール)

 亡き妻の思い出に浸って暮らしながら、妻と瓜二つの踊り子マリエッタの魅力に屈していくパウル。この役を2001年のストラスブール上演以来世界中で手掛けてきたトルステン・ケールは、新国立劇場の《死の都》で100回目のパウルを歌う。

「このオペラの魅力の一つは、現実味があって普遍的なところです。登場人物は、ワーグナーのオペラに出てくるような神や理想化された人物とは違って、欠点を抱え間違いを犯してしまうリアルな人間。パウルは妻を亡くした喪失感から立ち直れないせいで、マリエッタの中に妻を見ようとします。誰でも家族や最愛の人を失った経験はあるはずですから、彼の気持ちに寄り添えるでしょう。一方、マリエッタはパウルに対して、一緒にいる楽しさだけではなく何か“確かさ”のようなものを求めています。二人とも自分だけの欲望に従って生きているのです」

《死の都》の音楽についてはこう語る。
「〈マリエッタの歌〉や〈ピエロの歌〉といった有名どころはオペレッタのように美しく、ウィーンの古き良き時代を追憶するような雰囲気に満ちています。でも、オペラのそれ以外の部分はずっと現代的。コルンゴルトは、そうやって意図的に音楽のスタイルを組み合わせているのではないでしょうか。そこにはちょっとした皮肉さえ感じられることもあります。言うなれば、コルンゴルトは音楽のスタイルを繋ぎ合わせる名人です」

今回のカスパー・ホルテンによる演出はとても気に入っているという。
「他のどの演出よりも視覚性に富んでいて、美しい舞台装置や照明で物語の様々な要素を象徴的に表していますね。ローデンバックの原作は象徴主義の作品ですから、《死の都》によく合っている演出だと思います。加えて、オペラ全体がパウルの視点で描かれるのもとても良いアイディアです。全幕を通して舞台に登場するマリーの幻影は、パウルと客席からしか見えない。そうすることで、パウルと観客との間に仲間意識が芽生えるのです。僕たちは分かり合っているよね、フランクやブリギッタは何にも分かっちゃいないよね、というように」

伝説的とも言うべきパウル歌いのケール。彼と「仲間意識」を持つことのできるこの機会を逃すわけにはいかない。

取材・文:中村伸子(音楽学・コルンゴルト研究) 撮影:M.Terashi/TokyoMDE

新国立劇場 2013/2014シーズン
エーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト《死の都》全3幕
【ドイツ語上演/日本語字幕付】

2014年3月12日(水)19:00、15日(土)14:00、18日(火)19:00、21日(金・祝)14:00、24日(月)14:00
新国立劇場 オペラ劇場
予定上演時間:約3時間10分(休憩含む)

■指揮:ヤロスラフ・キズリンク
■演出:カスパー・ホルテン

■キャスト
【パウル】トルステン・ケール
【マリエッタ/マリーの声】ミーガン・ミラー
【フランク/フリッツ】アントン・ケレミチェフ
【ブリギッタ】山下牧子
【ユリエッテ】平井香織
【リュシエンヌ】小野美咲
【ガストン(声)/ヴィクトリン】小原啓楼
【アルバート伯爵】糸賀修平
【マリー(黙役)】エマ・ハワード
【ガストン(ダンサー)】白鬚真二

合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
管弦楽:東京交響楽団

■チケット
S 26,500円 A 21,000円 B 14,700円 C 8,400円 D 5,250円 Z 1,500円
新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999
ローソンチケット Lコード:32007

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