ミーガン・ミラー(ソプラノ) 新国立劇場 《死の都》

マリエッタを歌えると思うと興奮してぞくぞくします!


 19世紀末のベルギー、ブリュージュに暮らす紳士パウル。若くして逝った妻マリーの面影が忘れられない彼は、形見の金髪を抱きしめ恍惚とする。そこに突然現われたのが旅の踊り子マリエッタ。亡き妻と瓜二つの彼女に魅せられたパウルは現実と幻想の間で苦悩するが、妻の遺品を冒涜するマリエッタに怒り、いきなりその首に手をかけてしまう…しかし、気がつくとすべては元のまま。誰も死なず、変わらぬ日常が存在する。そこでパウルは、友人フランクの助言を受け入れ、「生と死は別物」と呟き、街からの旅立ちを決意する。
 オーストリア生まれの作曲家エーリヒ・コルンゴルトが20代前半で作曲した《死の都》(1920)は、死別の悲運を乗り越え、退廃的な世界観と決別する男の姿をロマンティックな響きで描いた傑作オペラ。劇中ではマリエッタとパウルのメロディアスな二重唱〈私に残された幸せが〉が抜群の知名度を誇るが、他にもピエロのフリッツが歌う耽美的なアリア〈わが憧れ、わが幻〉など、麗しいメロディと繊細なオーケストレーションが溶け合う名場面は多く、近代オペラの人気作として地位を確立している。
 さて、この3月、新国立劇場のステージでヒロインのマリエッタ&マリーの声役を歌うのは米国の新星ソプラノ、ミーガン・ミラー。2013年《タンホイザー》のエリーザベト役でも好評を博した彼女が、オペラ《死の都》への抱負を語り尽くす!
「デラウエア州のドーバー出身です。小さい街ですが私が入った高校は音楽のカリキュラムがとても充実していて、ドイツ語の授業も毎日あるという珍しい学校でした。卒業後は普通の大学に2年通いましたが、音楽への思いが強まったのでジュリアード音楽院に入り、歌を学んだのです。その頃も今も変わらず、人生で一番楽しい時間は『曲を勉強しているとき』ですね。だから、今回のオファーをいただいた際も、まずは楽譜を手にしてじっくり目を通し、自分の声や個性に合う内容かどうか確かめてから、お受けすることに決めました。マリエッタの名曲だけはコンサートで歌ったことがありましたが、全曲のスコアを読みながら、『ああ、この役を舞台で演じる日が来たのだわ』と思うと興奮でぞくぞくしてきたのです!」
 その中で特に強く感じたのが、オペラのテーマ「悲しみを乗り越える」ことの重み。
「主人公のパウルは、亡妻への想いにとらわれるあまり、おぞましい夢を見てしまうのですね。でも、その過程を経て、彼はやっと過去から解き放たれます。『克服のプロセス』は人それぞれ。でも、生きている限り、悲しみはいつか乗り越えねばならないですね。ちなみに、私自身は、もしも愛する人より私が先に死んだら、彼には次の女性を見つけて早く立ち直って欲しいと願うタイプですよ(笑)」
 ドイツもののレパートリーで名高いミラー。昨秋には《影のない女》の皇后役でMETデビューも果たしている。その一方で、《ランメルモールのルチア》や《西部の娘》でも注目されるという多能なソプラノ。喉の秘密はどこに?
「昔から好奇心が旺盛なのです。だからいろんな役に挑戦してみたいのですね。人生はあっという間に進み、声もどんどん変わっていきますから、まずは喉のトレーニングを怠らず、コロラトゥーラの技術も磨きながら、健康にも気をつけてという地道な生活ですよ。《死の都》は管弦楽の編成も大きいので音の色彩感をたっぷり味わって頂けますし、私の声のいろいろな個性も楽しんで下さればと願っています!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2014年2月号から)

《死の都》(新制作)
カスパー・ホルテン(演出) エス・デヴリン(美術)
ヤロスラフ・キズリンク(指揮) 東京交響楽団
トルステン・ケール(テノール) ミーガン・ミラー(ソプラノ)
アントン・ケレミチェフ(バリトン) 他

★3月12日(水)、15日(土)、18日(火)、21日(金・祝)、24日(月)
新国立劇場オペラパレス Lコード:32007
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 
http://www.nntt.jac.go.jp

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