【WEBぶらあぼ特別インタビュー】新国立劇場 《死の都》再演演出、 アンナ・ケロ

 新国立劇場の《死の都》は、2010年にフィンランド国立歌劇場で上演されたカスパー・ホルテンの演出。同地ではオペラ・ファンのみならずオペラにあまり親しみのない観客からも絶大な人気を得て、2013年秋に再演された。新国立劇場での再演演出を務めるのは、ホルテンのアシスタントとしてこのプロダクションを知り尽くしたフィンランド出身のアンナ・ケロである。

「今回の演出にとって特別なのは、主人公パウルの亡き妻マリーが役者として登場することです。通常はマリーの肖像画か写真が舞台に置かれますが、ここではオペラのはじめから終わりまでずっと舞台上にマリーの亡霊を演じる女優がいるのです。時には亡霊らしくひっそりと佇み、時には彼女に焦点が当たってパウルと接触します。マリーはパウルと観客にだけ見えていて、他の登場人物には見えません。つまり観客の視点とパウルの視点は同じなのです。パウルに亡き妻が見えるのは、彼の頭の中でマリーがまだ生きているというだけのことであって、彼が狂っているからではありません」

フィンランド国立歌劇場公演より photo: Stefan Bremer

フィンランド国立歌劇場公演より photo: Stefan Bremer

 セットは全幕を通してパウルの部屋を基本としている。中央に大きなベッドが置かれ、周りに亡き妻の思い出の品が所狭しと飾られ、奥にはブラインド越しにブリュージュの街並みが見える。このデザインは、ロンドン・オリンピックの開会式のセットも担当したエス・デヴリンによるもの。グレーを基調とした落ち着いた色合いの中に、ばらの花束やマリエッタの傘が真紅の差し色を添える。

「私が知る中で視覚的に最も美しいプロダクションのひとつです。驚くほど優雅でスタイリッシュで、まるで映画を観ているみたい。そういった全体の雰囲気やコンセプトはフィンランド上演の時と同じです。ただ、この演出はリアルで自然な演技のスタイルを採っていて、役柄の心情を信じて自分のものにしないと演じ切ることはできないので、その意味では違いもあります。演出の内容とソリストの意見が合わないこともありますが、私は『こう演じなさい』と圧力をかけるようなことはしたくないし、かといって妥協もしたくありません。ですから歌手たちの意見を聞き、よく話し合い、最善の解決策を見つけています」

フィンランド国立歌劇場公演より photo: Stefan Bremer

フィンランド国立歌劇場公演より photo: Stefan Bremer

 コルンゴルトがアメリカへ渡ってアカデミー作曲賞を得た『ロビンフッドの冒険』(1939)を子どものころに観ていたというケロも、このプロダクションで初めて《死の都》と出会い、作曲家の名前を知った。

「なぜこんなに音楽も内容も素晴らしい作品が最近まであまり上演されなかったのか不思議です。コルンゴルト父子による台本は歪んだ愛、孤独、幻想、夢、そして拒絶の物語ですが、とりつかれるような美しさがあります。パウルのその後については様々な解釈ができるでしょう。ホルテンの演出には、マリエッタと出会い悪夢を見たことによって成長し自立し、希望をもって未来を切り開いていく、という美しいメッセージが込められているのです」

 インタビューを行ったのは舞台稽古が始まる前日。稽古は順調に進んでおり、ケロも絶賛するソリストたちに至っては、もし明日が本番だとしても平気なほど準備万端だという。
「涙を拭くためのハンカチを用意して観にいらしてください。必ずお楽しみいただけます!」

取材・文:中村伸子(音楽学・コルンゴルト研究) 撮影:M.Terashi/TokyoMDE

新国立劇場 2013/2014シーズン
エーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト《死の都》全3幕
【ドイツ語上演/日本語字幕付】

2014年3月12日(水)19:00、15日(土)14:00、18日(火)19:00、21日(金・祝)14:00、24日(月)14:00
新国立劇場 オペラ劇場
予定上演時間:約3時間10分(休憩含む)

■指揮:ヤロスラフ・キズリンク
■演出:カスパー・ホルテン

■キャスト
【パウル】トルステン・ケール
【マリエッタ/マリーの声】ミーガン・ミラー
【フランク/フリッツ】アントン・ケレミチェフ
【ブリギッタ】山下牧子
【ユリエッテ】平井香織
【リュシエンヌ】小野美咲
【ガストン(声)/ヴィクトリン】小原啓楼
【アルバート伯爵】糸賀修平
【マリー(黙役)】エマ・ハワード
【ガストン(ダンサー)】白鬚真二

合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
管弦楽:東京交響楽団

■チケット
S 26,500円 A 21,000円 B 14,700円 C 8,400円 D 5,250円 Z 1,500円
新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999
ローソンチケット Lコード:32007

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