ポップなおもちゃの世界で胸躍る“ラブコメ”・オペラ〜NISSAY OPERA 2024《連隊の娘》GPレポート

 11月9日より日生劇場で上演されるNISSAY OPERA 2024《連隊の娘》(新制作)、初日組の最終総稽古を取材した。おもちゃ箱をひっくりかえしたような楽しさと、涙をさそわれる感傷の両方を味わえる、胸踊る舞台が展開しそうだ。
(2024.11/7 日生劇場 取材・文:井内美香 写真:寺司正彦)

 《連隊の娘》は、イタリアの作曲家ドニゼッティがフランス語で書いたオペラ。通常オペラは、全場面を歌でつづることが多いが、この作品は芝居のように台詞を話すところと、歌う部分が分かれているのが特徴だ。

中央左:金澤桃子(ベルケンフィールド侯爵夫人) 右:加藤宏隆(オルテンシウス)
左:砂田愛梨(マリー) 右:山田大智(シュルピス)
中央:澤原行正(トニオ)

 物語はチロルの山村が舞台。今回の粟國淳演出は、ストーリーをおもちゃの世界で描いている。序曲が終わり幕が上ると、背景に雪山が描かれたパズルが現れる。舞台で目立つのは木製の大きなクマの人形。同じ木目調の家もある。
 そこに登場するのはおもちゃの兵隊たち! ピンクとブルーに塗り分けられた兵士や、バレエ『くるみ割り人形』に出てきそうな赤い軍服の兵士などに混ざって、アニメのキャラクターがフィギュアになったような兵士たちもいる。個性豊かな見た目になっているところが面白い。

 戦場に置き去りにされていた赤ん坊マリーを見つけて育ててきた兵士たちが、おもちゃの兵隊として描かれているのは楽しい。だがその後、マリーの高貴な出自が明らかになった際には、彼らとの別れがまるで子ども時代との訣別のように描かれていて、ドニゼッティの哀感あふれる音楽とあいまって涙をさそわれる。

 今回、キャストについては、最終総稽古の直前にトニオ役の糸賀修平が稽古中の怪我により降板という告知があった。糸賀のトニオはきっと素晴らしかったであろうだけに残念だが、またの機会があることを願う。
 トニオ役は、カバーキャストだった澤原行正が歌った。澤原はポップな衣裳が似合う、ヒロイックな響きの美声の持ち主。第一幕の有名なハイCが連続するアリア、第2幕の抒情的なアリアも歌いこなし、演技も堂に入ったもの。

 題名役のマリーは砂田愛梨。イタリアで活躍中のソプラノで、特にドニゼッティを得意にしている。演技が溌剌としていてパワフルなのに可愛らしい。声は広い音域で輝きと音の勢いがある美声だ。初めからエネルギッシュな歌唱だったが、終わりまでスタミナは充分だった。圧倒的だったのは第1幕の最後にマリーが出発する場面で歌われるロマンスで、声の純度の高さと表現力でヒロインの嘆きが胸に迫ってきた。

中央:澤原行正(トニオ)

 ベルケンフィールド侯爵夫人の金澤桃子は達者なフランス語と艶のある声。シュルピスの山田大智は声も演技も“いい奴”を体現して上手い。オルテンシウスの加藤宏隆はユニークな役柄を演じ、まろやかな声も良かった。

 両日ともに出演するクラッケントルプ公爵夫人の金子あいは、舞台俳優で台詞も動作もさすがだった。伍長の市川宥一郎はスタイリッシュな声と歌。農民の工藤翔陽も豊かな声のテノールで印象に残った。その他の役も皆、適材適所。ピアニストが舞台に出演するのも楽しい。
 合唱はC.ヴィレッジシンガーズ。ひとりひとりが個性を持った登場人物としての演技と歌が光っていた。

 音楽面を支えたのは読売日本交響楽団と指揮の原田慶太楼だ。序曲のホルンの活躍に始まり、各楽器の聴かせどころにおける質の高さは随一である。原田の指揮は明るく、全体を牽引する力があるが、それだけでなく常に歌手と一緒に歌う姿勢がオペラ指揮者としての資質を感じさせた。

 出演者たちのフランス語も美しかったが、まだ総稽古なので少し生真面目な感じが出ていたかもしれない。本番の公演ではきっと楽しく弾けた舞台になるだろう。

NISSAY OPERA 2024 
ドニゼッティ《連隊の娘》新制作
(全2幕/原語[フランス語]上演・日本語字幕付)
2024.11/9 (土)、11/10 (日)各日14:00 日生劇場

指揮:原田慶太楼
演出:粟國淳(日生劇場芸術参与)

出演
マリー:砂田愛梨(11/9) 熊木夕茉(11/10)
トニオ:澤原行正(11/9) 小堀勇介(11/10)
ベルケンフィールド侯爵夫人:金澤桃子(11/9) 鳥木弥生(11/10)
シュルピス:山田大智(11/9) 町英和(11/10)
オルテンシウス:加藤宏隆(11/9) 森翔梧(11/10)
伍長:市川宥一郎
農民:工藤翔陽
クラッケントルプ公爵夫人:金子あい
公証人:阿瀬見貴光
従者:大木太郎

カヴァー:川越未晴 (マリー)、澤原行正 (トニオ)

管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ

問:日生劇場03-3503-3111
https://opera.nissaytheatre.or.jp