中谷美紀が公式アンバサダー就任 〜ウィーン国立歌劇場 2025年日本公演

 俳優の中谷美紀が、10月に開催されるウィーン国立歌劇場2025年日本公演の公式アンバサダーに就任することが発表され、4月4日、都内で記者会見が行われた。同歌劇場の日本公演は2016年以来9年ぶり、《フィガロの結婚》《ばらの騎士》と劇場が誇る豪華2本立ての上演だ。中谷は今後、10月までの約7ヵ月、同歌劇場の魅力を日本の観客に伝えるべく活動していく。

 アンバサダー就任にあたり、「ウィーン市民にとって窮屈な日常を忘れさせてくれる心のよりどころであり、時代を映す鏡でもあるウィーン国立歌劇場は、最高のエンターテインメントです。この劇場のオペラの魅力をお伝えする役目をいただき大変光栄です。クラシック音楽は子どもの頃から大好きでしたが、ただ私は素人で、音楽を体系的に学んだことはありません。一ファンとして、このオペラの魅力を皆さまにお伝えしていきたい」と抱負を語る。

 主催者を代表して登壇した日本舞台芸術振興会 専務理事の髙橋典夫も、「従来のオペラファンではない方々にも、オペラの魅力を伝えていかなければならない。中谷さんほどアンバサダーに適任な方はいない」と太鼓判を押す。

右:髙橋典夫(日本舞台芸術振興会 専務理事)

 結婚後、オーストリアと日本の2拠点で活動する中谷だが、劇場やホールに足を運ぶことはまさに日常だ。自身のSNSでも発信し続けている。
「ミラノ、ドレスデン、ベルリン、ニューヨーク、パリとさまざまな素晴らしい劇場があり、いずれか優劣をつけるつもりはありませんが、あえてウィーン国立歌劇場の音楽、オペラに触れる意味を申し上げるならば、ウィーン・フィルというある意味主役である彼らの音楽を、伴奏として聴くことができる大変贅沢な機会だということです。
 夫(ヴィオラ奏者のティロ・フェヒナー)が所属するウィーン・フィルは、ステージの上では壮大なシンフォニーやアンサンブルを演奏しますが、オペラではあくまで縁の下の力持ち。オーケストラピットで息を潜めて、歌手の方の呼吸に合わせて5階の天井桟敷まで届くようにみんなで一体となって音楽を作る、そこにドラマがあります。
 国立歌劇場管弦楽団の音楽を皆さんが信頼していらっしゃるからこそ、世界屈指の指揮者やオペラの歌手がステージに立ちたいと、こぞって願う場所でもあるのだと思います」


 帰国の前には、今回の日本公演にも出演する友人、ハンナ=エリザベット・ミュラー(《フィガロの結婚》のアルマヴィーヴァ伯爵夫人)に誘われて、バリー・コスキー演出の《フィガロの結婚》を観てきたばかりだという。
「今回の二作品はいずれもとてもわかりやすく、お笑い番組とミュージカル、宝塚歌劇と、全部が同時に見られるような、それでいて、ストレートプレイの真摯な、心の機微をきちんと見せてくれる、贅沢な企画です。
 《フィガロの結婚》は、250年近く前に、モーツァルトが作曲したオペラであるにもかかわらず、なぜか今まさにこの時代を反映しているようでもあります。《ばらの騎士》とは対になるような作品で、いつの時代も変わらない男女のいざこざを面白おかしく描いています。それでありながら、私たち人間の心情、人間の生きるありさま、本質をありありと描き出す。思わずハッとさせられ、自らを顧みる機会をいただき、また時には涙させられることが多いです」

 もうひと作品の《ばらの騎士》は今年1月に亡くなったオットー・シェンク演出による、1968年の初演以来変わることなく上演される名プロダクションだ。日本では94年にカルロス・クライバー指揮で上演されたことでも広く知られている。中谷は6月にウィーンで上演される本作を観て、現地レポートを寄せるという。

「本当に皮肉なことに、オペラもまた時代遅れなのかもしれないという、そんな思いも少し込められた作品なのではないかなと思います。奇しくもマリア・カラスが『オペラは死んだ』と述べたことがあります。だからこそ、失われていくものを、まだまだあともう少し・・・と踏ん張って手がけてくださる方がいると思うのです。
 私はオペラのことを、『勝敗のないオリンピック』と呼んでいます。人間の極限の声、いつ失われるかもしれない、そんな恐怖を覚えながら歌手の皆さまは舞台に立たれています。儚い歌手生命をかけている皆さまの歌声を、AIに取って代わられてしまう前に、ぜひ味わっていただきたい」と涙ながらに語った。

涙を浮かべて想いを語る中谷

 今回のウィーン国立歌劇場日本公演は、東京文化会館改修前の最後の本格的なオペラ引っ越し公演となる。同財団は1974年からオペラ引っ越し公演を行ってきたが、東京近郊の会場不足は日に日に問題が募るばかりだ。髙橋専務理事も常日頃、いま起きている劇場不足を訴えてきた。

「オペラ公演は準備期間を要するため、これまで2つの劇場・ホールを使用してきましたが、今回は東京文化会館のみ。東京文化会館も向こう3年間改修工事に入り、東京近郊でオペラが上演できるところはありません。韓国、中国には新しい劇場ができ、文化政策がそちらに動きつつある。日本では文化が軽視されているのではないか」と改めて問いかけた。

取材・文&写真:編集部

ウィーン国立歌劇場2025年日本公演
《フィガロの結婚》

2025.10/5(日)14:00、10/7(火)15:00、10/9(木)18:00、10/11(土)14:00、10/12(日)14:00
《ばらの騎士》 
2025.10/20(月)15:00、10/22(水)15:00、10/24(金)15:00、10/26(日)14:00
東京文化会館 

4/18(金)発売
問:NBSチケットセンター03-3791-8888
https://www.nbs.or.jp
*各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。