熟練のタクトが発する60年の重み
23歳の秋山和慶が東京交響楽団を指揮してデビューしたのは、1964(昭和39)年2月12日のことである。10月には東京オリンピックが開かれ、東海道新幹線が開通する、高度経済成長の真っ只中の年だ。
曲目はブラームスの交響曲第2番、潮田益子独奏のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲。これは秋山が東響の専属指揮者に就任したお披露目も兼ねる特別演奏会だった。
じつはこのころ、東響は世の好景気とは裏腹に、経営危機の瀬戸際にあった。翌月には財団法人を解散、自主運営の団体として再出発するのだが、秋山は指揮者陣の主柱となって、混乱期を乗りきった。以後の東響の歴史は、秋山とともにあったといっても過言ではない。
その秋山が、指揮者生活60周年記念の演奏会の曲目に選んだのは、竹澤恭子を独奏とするベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」と、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。若き日の秋山がブルックナーの作品を勉強しはじめたとき、師の齋藤秀雄に第4番からやりなさいと教えられたという。この曲こそが、秋山のブルックナー演奏の原点なのだ。
ベルクの耽美とブルックナーの雄大。83歳の名匠は、篤い信頼関係に結ばれた東響を指揮して、この2曲でどんな景色を見せてくれるだろうか。近年の秋山は年輪を重ねるにつれ、持ち前の明確さに加えて、より闊達な音楽づくりをするようになっているだけに、期待は大きい。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2024年8月号より)
第724回 定期演奏会 秋山和慶指揮者生活60周年記念
2024.9/21(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp