こだわりのプログラムで飾るラストステージ
山田和樹が読響を振ると、楽曲の細部までクリアになるばかりか、鳴りっぷりだってよくなる。バルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」では、そんな特徴がいちだんと際立つはずだ。民俗的なイディオムを忍ばせつつ、古典的なフォルムにしっかりと落とし込んだ楽曲だ。
これまでも日本人作曲家の作品を精力的に取り上げてきた山田。今回は、この分野の古典的名作といえる武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を演奏する。邦楽器を独奏にした、東西の文化が混交する音楽だ。この曲といえば、かつては薩摩琵琶の鶴田錦史、尺八の横山勝也が長らく定番のコンビだった。今回は新しい世代の名手たちが「伝統」に挑む。鶴田錦史の弟子である友吉鶴心、そして尺八をフルートのようにコントロールする藤原道山だ。山田と読響の洗練された響きと相まって、演奏史に新たな1ページを刻む。
プログラム最後は、これまでマーラーなどの大規模な大曲や、珍しい曲を取り上げることが多かった山田が、初心に帰ったように、ベートーヴェンの交響曲に正面から向き合う。第2番は、「総決算」としてのプログラムの掉尾を飾るのにふさわしい選曲だ。
バーミンガム市交響楽団でのポストが忙しくなるであろう山田にとっては、首席客演指揮者としての最後の定期演奏会がこの公演となる。もちろん、読響との共演はこれからも続くだろうが、一つの節目として耳に焼き付けておきたい公演だ。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2024年2月号より)
第635回 定期演奏会
2024.2/9(金)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp