国内外から名手たちが集結!
東京春祭2024のピアノ関連公演の聴きどころ

当代随一の巨匠から今をときめく若手まで、個性豊かなピアニズムを堪能

文:飯田有抄

 20周年を迎え、ますます充実したプログラムが楽しみな東京・春・音楽祭だが、東京文化会館の小ホールや周辺会場では例年、注目のピアニストたちや、個性的なピアノ作品によるコンサートが行われ人気を呼んでいる。

 2024年のピアノ関連公演でまず注目したいのは、現代最高峰のベートーヴェン・スペシャリストであるルドルフ・ブッフビンダーが、「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会」(全7回 3/15~3/22)を行うという記念碑的プログラムだ。ブッフビンダーはこれまでに世界中で60回以上もベートーヴェンのソナタ全32曲の公演を行い、3度の全集録音をリリースしている。近年ではアジアでも精力的に演奏し、2023年には中国と韓国でもベートーヴェン・ツィクルスを行った。真の巨匠とは、一つの作品から無限に新しい発見を生み、絶えずみずみずしさに溢れたプレゼンテーションを行うものだ。ウィーンの音楽遺産の継承者であるブッフビンダーの演奏は、「正統的」でありながらも、常に洗練された推進力や抒情性で聴衆の心を捉えてきた。今回もベートーヴェンのソナタの真髄を、あらためて鮮度の高い響きで届けてくれるに違いない。

ルドルフ・ブッフビンダー (c)Marco Borggreve

 今や日本の若手ピアニストたちの隆盛は、世界レベルでも目を見張るものがあるが、その注目株の一人が第11回東京音楽コンクール第2位、2021年リーズ国際ピアノコンクールで46年ぶりの日本人歴代最高位の第2位に輝いた小林海都だ。東京春祭では「小林海都と仲間たち」と題し、前半はピアノソロ、後半は室内楽という構成で聴かせる(4/6)。ソロでは、ハイドンのピアノ・ソナタ第38番、そしてシューベルトの「楽興の時」D780を取り上げる。きめ細やかに音楽の緩急を読み解き、すみずみまで表現力を行き渡らせる小林の演奏は、古典〜初期ロマン派のピアノ作品をキラキラと輝かせることだろう。後半は玉井菜採(vn)、佐々木亮(va)、佐藤晴真(vc)、吉田秀(cb)との共演で、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」を披露。生き生きとしたアンサンブルを響かせる。

小林海都 (c)Tsutomu Yagishita
左上より:玉井菜採、佐々木亮、佐藤晴真、吉田秀

 旧東京音楽学校奏楽堂に登場するヴァイオリンの中野りな、ピアノのルゥォ・ジャチンの公演も楽しみだ(3/23)。中野とジャチンは、ともに2022年に行われた第8回仙台国際音楽コンクールにおいて、それぞれヴァイオリン部門、ピアノ部門で優勝に輝いた俊英だ。中野はパガニーニの「24のカプリース」第4番・第24番、ジャチンはショパンのスケルツォ第2番でソロも演奏するが、シューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番やサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番で披露する二人のデュオは聴き逃せない。

中野りな (c)kisekimichiko
ルゥォ・ジャチン

 戸田弥生(ヴァイオリン)とアブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)は、長年にわたり共演を重ねてきた名手による豪華なデュオ(4/5)。今回二人はオール・ベートーヴェン・プロで聴かせる。ウィーン時代初期に書かれたみずみずしいヴァイオリン・ソナタ第3番、中期の創作へと歩みを進めたシリアスな表情をもつ第7番、そして不朽の名曲第9番「クロイツェル」というプログラムだ。ベートーヴェンの“ヴァイオリン・ソナタ”の凄みは、ピアノとヴァイオリンとが対等に活躍しながら、立体的で鮮やかな響きを構築し、鬼気迫る緊張感や、あふれるような歌心でぐいぐいと聴き手を引き込むところにある。戸田とエル=バシャのデュオは、互いの熱量とリリシズムとを測り合いながら、作品の魅力を余すところなく伝えてくれるだろう。

戸田弥生 (c)武藤章
アブデル・ラーマン・エル=バシャ (c)Alix Laveau

 坂本彩、坂本リサの姉妹ピアノ・デュオは、第70回ミュンヘン国際音楽コンクールピアノデュオ部門で日本人として初めて入賞、国内外のピアノデュオコンクールで優勝を重ね、数々のオーケストラとの共演を果たす成長目覚ましいアーティストだ。連弾、2台ピアノ双方の演奏で注目されるが、今回は「踊り」をテーマとして、オール連弾作品でプログラミング(4/13)。チャイコフスキーの三大バレエ音楽を、ドビュッシー、ラフマニノフ、アレンスキーがアレンジしたバージョン、スメタナの「モルダウ」など、オーケストラ作品を原曲とする連弾作品は聴き応え満点の予感だ。レーガーのチャーミングな連弾曲「6つのワルツ」や、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」など、1台のピアノで4手が織りなすゴージャスな響きも堪能したい。

坂本彩 & 坂本リサ

 佐野隆哉は、2023年に4枚組CD『山田耕筰ルネサンス』をリリースし、日本洋楽黎明期の作曲家にピアニズムの観点から光を当てた。そのアプローチを活かし、東京春祭では「山田耕筰と舞踊」をテーマにユニークなプログラムを組む(4/20)。山田の「彼と彼女—7つのポエム」「若いパンとニンフ—5つのポエム」「狐の踊り」といった作品群の前後に、ドビュッシー(ボーウィック編)の「牧神の午後への前奏曲」やストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3つの断章」、ジャック=ダルクローズの「ワルツ・カプリース」などを配置。近代の東洋と西洋で奏でられたピアノによる舞曲が今春、上野の森に鳴り響く。

佐野隆哉

ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 I~VII

東京文化会館(小)
●出演
ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
日時・曲目
I
2024.3/15(金)19:00
ピアノ・ソナタ
 第1番 ヘ短調 op.2-1
 第10番 ト長調 op.14-2
 第13番 変ホ長調 op.27-1
 第4番 変ホ長調 op.7
 第14番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」
II
3/16(土)15:00
ピアノ・ソナタ
 第5番 ハ短調 op.10-1
 第12番 変イ長調 op.26
 第22番 へ長調 op.54
 第17番 ニ短調 op.31-2「テンペスト」
 第18番 変ホ長調 op.31-3
III
3/17(日)15:00
ピアノ・ソナタ
 第3番 ハ長調 op.2-3
 第19番 ト短調 op.49-1
 第26番 変ホ長調 op.81a「告別」
 第7番 ニ長調 op.10-3
 第28番 イ長調 op.101
IV
3/19(火)19:00
ピアノ・ソナタ
 第6番 へ長調 op.10-2
 第24番 嬰ヘ長調 op.78
 第16番 ト長調 op.31-1
 第29番 変ロ長調 op.106「ハンマークラヴィア」
V
3/20(水・祝)15:00
ピアノ・ソナタ
 第2番 イ長調 op.2-2
 第9番 ホ長調 op.14-1
 第15番 ニ長調 op.28「田園」
 第27番 ホ短調 op.90
 第23番 ヘ短調 op.57「熱情」
VI
3/21(木)19:00
ピアノ・ソナタ
 第11番 変ロ長調 op.22
 第20番 ト長調 op.49-2
 第8番 ハ短調 op.13「悲愴」
 第25番 ト長調 op.79
 第21番 ハ長調 op.53「ワルトシュタイン」
VII
3/22(金)19:00
ピアノ・ソナタ
 第30番 ホ長調 op.109
 第31番 変イ長調 op.110
 第32番 ハ短調 op.111
●料金(税込)
各回券¥7,500 7公演通し券¥35,000
U-25¥2,000

小林海都(ピアノ)と仲間たち

4/6(土)15:00 東京文化会館(小)
●出演
ピアノ:小林海都
ヴァイオリン:玉井菜採
ヴィオラ:佐々木亮
チェロ:佐藤晴真
コントラバス:吉田秀
●曲目
ハイドン:ピアノ・ソナタ第38番 ヘ長調 Hob.XVI:23
シューベルト:
 楽興の時 D780
 ピアノ五重奏曲 イ長調 D667「ます」
●料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000

中野りな(ヴァイオリン)& ルゥォ・ジャチン(ピアノ)

3/23(土)14:00 旧東京音楽学校奏楽堂
●出演
ヴァイオリン:中野りな
ピアノ:ルゥォ・ジャチン
●曲目
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 op.105
パガニーニ:
 「こんなに胸騒ぎが」による序奏と変奏曲 イ長調 op.13(ロッシーニの歌劇《タンクレディ》より)
 24のカプリース op.1より
  第4番 変ホ長調
  第24番 イ短調
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 op.31
サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ短調 op.75
●料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000

戸田弥生(ヴァイオリン)& エル=バシャ(ピアノ)

4/5(金)18:30 旧東京音楽学校奏楽堂
出演
ヴァイオリン:戸田弥生
ピアノ:アブデル・ラーマン・エル=バシャ
曲目
ベートーヴェン:
 ヴァイオリン・ソナタ
  第3番 変ホ長調 op.12-3
  第7番 ハ短調 op.30-2
  第9番 イ長調 op.47「クロイツェル」
●料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000

坂本 彩 & 坂本リサ(ピアノ・デュオ)

4/13(土)14:00 旧東京音楽学校奏楽堂
●出演
Piano Duo Sakamoto
 ピアノ:坂本彩、坂本リサ
曲目
レーガー:6つのワルツ op.22
チャイコフスキー(ドビュッシー編):『白鳥の湖』よりロシアの踊り
チャイコフスキー(ラフマニノフ編):『眠れる森の美女』op.66aよりワルツ
チャイコフスキー(アレンスキー編):『くるみ割り人形』より
 金平糖の踊り
 葦笛の踊り
 花のワルツ
スメタナ:交響詩「我が祖国」よりモルダウ
ラヴェル(ジェマイン編):亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル(ガルバン編):ラ・ヴァルス
料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000

佐野隆哉(ピアノ)

4/20(土)14:00 旧東京音楽学校奏楽堂
●出演
ピアノ:佐野隆哉
曲目
「山田耕筰と舞踊」
ドビュッシー(ボーウィック編):牧神の午後への前奏曲
山田耕筰:彼と彼女―7つのポエム
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3つの断章
山田耕筰:若いパンとニンフ―5つのポエム
ショパン:4つのマズルカ op.33
ジャック=ダルクローズ:ピアノのための3つの小品 op.8 より No.3「ワルツ・カプリース」
山田耕筰:
 京の四季
 狐の踊り
 春夢
●料金(税込)
¥4,500
U-25¥2,000

【来場チケットご購入はこちら】
東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービス(web)座席選択可・登録無料
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)
チケットぴあ(web)

【お問合せ】
東京・春・音楽祭サポートデスク050-3496-0202
営業時間:月・水・金、チケット発売日(10:00~15:00)
※音楽祭開催期間中は、土・日・祝日も含め全日営業(10:00~19:00)
※サポートデスクではチケットのご予約は承りません。公演に関するお問合せにお答えいたします。

※ネット席チケットは2/23(金・祝)発売