ドイツ・ロマン派ふたつの英雄物語
N響定期に大植英次が帰ってくる。大植は2021年4月、コロナ禍のなか定期公演に代わって開催された演奏会で久々にN響に招かれ、シベリウスの交響曲第2番ほかを指揮した。その好評を受けて、この2月に1999年の初共演以来四半世紀ぶりとなるN響定期出演が実現することになった。大植は大阪フィル桂冠指揮者、ハノーファー北ドイツ放送フィル名誉指揮者。恩師レナード・バーンスタインの薫陶を受け、ミネソタ管弦楽団音楽監督やハノーファー北ドイツ放送フィルの首席指揮者、大阪フィル音楽監督、バルセロナ交響楽団音楽監督といった要職を歴任してきた。
今回のプログラムはワーグナーの「ジークフリートの牧歌」とリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。得意の作曲家ふたりの名曲を並べ、19世紀後半のドイツ音楽の系譜をたどる。「ジークフリートの牧歌」はワーグナーが長男ジークフリートの誕生の翌年、妻コージマの誕生日を祝った作品。シュトラウスは少年時代からワーグナーに夢中になり、やがてコージマの知遇を得てバイロイト音楽祭で指揮者を務めた後、大作曲家への道を歩んだ。
オーケストラの機能性を最大限に要求する「英雄の生涯」は、N響にとっても得意のレパートリーだ。現在の首席指揮者ファビオ・ルイージも前任のパーヴォ・ヤルヴィもこの曲で名演を聴かせてくれた。だが、大植の「英雄の生涯」は彼らとはまた違ったタイプの雄弁な演奏になるのではないか。新たな英雄の誕生を期待したい。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2024年2月号より)
第2005回 定期公演 Cプログラム
2024.2/9(金)19:30、2/10(土)14:00 NHKホール
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp