親密な空間で感じる俊才のインスピレーション
日本のピアノファンの間では、2015年の浜松国際ピアノコンクール優勝以来注目されていた1994年イタリア生まれのピアニスト、アレクサンダー・ガジェヴ。その後、2021年のショパン国際ピアノコンクールで反田恭平とともに第2位に入賞し、いっそうの人気を集めることになった。そんな彼の特徴であり大きな魅力は、今も昔も変わらず、ステージで湧き起こるインスピレーションを大切にした生きた音楽を創出できることだ。
この秋の来日では、北九州国際音楽祭に出演。北九州市立響ホールにおけるリサイタルで、ガジェヴの個性を多方面から味わうことができる曲目を披露してくれる。
プログラムは「『心の動き』を巡る」をテーマとしているという。J.S.バッハのフランス組曲第4番にはじまり、フランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」へと続け、軽やかさ、厳かさを持つ音楽の中で、聴くものの気持ちを高める。もともと数学や哲学にも関心があるという彼のことなので、しっかり音楽を構築してみせるだろう。
コンクール入賞者として期待されるショパンからは、表情の異なる第4番、第5番、第13番のノクターンと、エモーショナルながら「冒頭のバッハと繋がる世界」というスケルツォ第3番を選んだ。多様な心象風景をのびのびと描き、さまざまな感情を体験させてくれそうだ。
そして何より楽しみなのが、ムソルグスキーの「展覧会の絵」。ガジェヴはイタリアで生まれ育っているが、子どもの頃は、モスクワ音楽院で学び教鞭をとった父のもと教育を受け、その後、ザルツブルク・モーツァルテウムでパヴェル・ギリロフに師事している。ロシア音楽への理解もあり、明晰な頭脳の持ち主なので、民族的な感性や宗教観も取り入れながら構想を練り上げるのだろう。ただ、それ以上に期待するのは、この幅広い解釈の可能性を秘めた楽曲で、本番中にガジェヴがどんなひらめきを得て、どこまで攻めた表現をしてくれるのかというところ。どんなに計画していてもステージではそれを捨て、自然発生的な演奏をするのが彼の魅力だからだ。
かつてガジェヴは、「さまざまな経験をし続けることは、音楽に新しい呼吸を吹き込むために必要なこと」だと語っていた。今回は約1年ぶりの来日。その間に経験してきたさまざまな出来事のすべてを糧にして、ショパンコンクールのときはもちろん、前回の来日公演ともまったく違った音楽を聴かせてくれることだろう。
文:高坂はる香
【Information】
2023北九州国際音楽祭「新時代へ―」
2023.10/14(土)~12/10(日)
北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他
アレクサンダー・ガジェヴ(ピアノ)
2023.11/4(土)15:00 北九州市立響ホール
●曲目
J.S.バッハ:フランス組曲第4番 変ホ長調 BWV815
C.フランク:前奏曲、フーガと変奏曲 op.18
ショパン:ノクターン第4番 ヘ長調 op.15-1
ノクターン第5番 嬰ヘ長調 op.15-2
ノクターン第13番 ハ短調 op.48-1
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 op.39
ムソルグスキー:組曲『展覧会の絵』
曲目一部変更
※種々の事情により、予定されていた曲目のうちの1曲、「ショパン:夜想曲 ハ短調 Op.48-1」は演奏しないことになりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.novellette-arts.com/gadjiev-programinfo2023
●料金
全席指定
S席:5,000円
A席:3,500円(完売)
U-25席(A席):2,000円(完売)
※当日各500円増
音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp