スイスの名門とショパンコンクール覇者が奏でる鮮烈な響き
スイスの金融都市チューリッヒは、ヨーロッパのなかでも一、二を争う洗練された街だ。気が滅入るほど物価は高いが、落ち着いた雰囲気のなかに都会の品格を感じさせる。この街のランドマークの一つ、チューリッヒ湖のほとりにあるトーンハレは、こけら落としにブラームスが指揮した歴史あるコンサートホール。ここを本拠地とするオーケストラがチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団だ。
ドイツ語圏に属する地域だけに、ドイツ系のどっしりと構えたバランスを基本としながらも、滑らかに旋律を歌わせ、柔らかなサウンドを奏でることも得意だ。フレキシブルさを備えたオーケストラといっていい。
2019年から首席指揮者および音楽監督を務めるのは、パーヴォ・ヤルヴィ。NHK交響楽団の首席指揮者を7年にわたって務め(現在は名誉指揮者)、日本でも馴染みが深いマエストロだ。つねに引き締まった精悍なスタイルが持ち味で、それを生かした幅広いレパートリーを披露してきた。
ヤルヴィとトーンハレ管には、チャイコフスキーやブルックナーの交響曲のレコーディングがある。響きを几帳面に整理しつつも、ロマンティックさを香り立たせた演奏だ。どちらかといえばドライに響きがちなヤルヴィの演奏だが、トーンハレ管の潤いのあるサウンドによって、音楽の彫りの深さもよく際立つようになった。明確な輪郭を与えたフレーズをしっとりと繊細に歌わせるように。
今回、彼らが北九州国際音楽祭で演奏するのはベートーヴェンとショパンのプログラムだ。
ベートーヴェンの「献堂式」序曲で華々しく開始。次のショパンのピアノ協奏曲第1番には、ブルース・リウをソリストに迎える。2021年の第18回国際ショパン・ピアノコンクールで反田恭平や小林愛実を抑えて優勝した、現在26歳の中国系カナダ人だ。エネルギッシュで研ぎ澄まされた表現力を北九州ソレイユホールでも聴かせてくれるだろう。
この日のメインとなる作品は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」だ。かつてのヤルヴィは、ドイツ・カンマーフィルとの共演で、ピリオド・アプローチを駆使し、強烈なビート感みなぎるベートーヴェンを聴かせていた。今回のトーンハレ管との演奏は、そんな俊敏なスタイルは変わらないながらも、そこにオーケストラのもつデリケートで柔和な表現も加味されるのではないかと思われる。メリハリのきいた壮大な交響曲が築かれるはずだ。
文:鈴木淳史
【Information】
2023北九州国際音楽祭「新時代へ―」
2023.10/14(土)~12/10(日)
北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 ブルース・リウ(ピアノ)
2023.10/15(日)15:00 北九州ソレイユホール
●曲目
ベートーヴェン:「献堂式」序曲 op.124
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」 ハ短調 op.67
●料金
全席指定
S席:15,000円
A席:12,000円
B席:9,000円(完売)
C席:6,000円(完売)
U-25席(B&C席):2,000円(完売)
※当日各500円増
音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp