2023北九州国際音楽祭
日本を代表するアーティストが北九州に大集合!

 1988年に北九州市制25周年を記念して創設された北九州国際音楽祭が、今年で36年目を迎えた。由緒ある音楽祭となり、国際的な楽団や奏者たちの招聘から、北九州市にゆかりのあるアーティストたちを中心とした独自性の高い、ここでしか体験できない公演まで、幅広い演奏会を用意している。本稿では「ここでしか体験できない公演」のうち、少人数のアンサンブルから本格的なオーケストラまで、音楽の楽しみにあふれる3公演に注目したい。

南紫音(ヴァイオリン) 福田悠一郎(ヴァイオリン) 佐々木亮(ヴィオラ) 横坂源(チェロ)

上段左より:南紫音、福田悠一郎
下段左より:佐々木亮、横坂源

 10月29日に行われるのは弦楽四重奏のコンサート。メンバーは国内でソリストやオーケストラの要として活躍中の奏者たちで、ヴァイオリンの南紫音と福田悠一郎、ヴィオラの佐々木亮、チェロの横坂源。中心となる南は、ロン=ティボー国際音楽コンクールとハノーファー国際コンクールで第2位等の受賞歴をもち、大活躍中のソリスト。彼女は北九州市出身で、同市から羽ばたいた世界的アーティストとして、本音楽祭でも重要な役割を果たしている。今回は彼女が長きにわたり機会をうかがってきた「弦楽四重奏」にいよいよ取り組むということで、その意気込みは相当に強い(インタビュー記事参照)。それは彼女が集めたというメンバーの豪華さと、弦楽四重奏の精髄というべき作品が集められたプログラムに強く表れている。

 演目は3曲。ハイドンの第75番は、彼が到達した精緻な技法と深遠な情感が発揮された最高傑作のひとつ。ボロディンの第2番は、弦楽器の魅力を引き出す、美しくも優しいメロディにあふれた名品中の名品。そしてベートーヴェンの第8番「ラズモフスキー第2番」は、作曲家中期の力強い作風に深い情感やユーモアも込められた究極的な大作。南のほか、福岡県出身でソリスト活動を各地で展開する俊英・福田、N響ヴィオラ首席の名匠・佐々木、世界中でソロを聴かせてきた名チェリスト・横坂という達人たち4人が集い、新たなカルテットの境地に挑戦する、期待の公演だ。

サロン・コンサート 笹沼樹(チェロ)&菅沼希望(コントラバス)

左:笹沼樹 右:菅沼希望

 11月1日の「サロン・コンサート」には、チェロ笹沼樹とコントラバス菅沼希望という低音弦楽器のデュオが登場する。珍しい組み合わせだが、実は古くから意外と作品が多い編成でもある。この日に演奏されるのは、この編成の代表作であるロッシーニをはじめ、ゴルターマンやバリエールなどの作品群。低く深い弦の響きに浸りながら、そのイメージとは裏腹に俊敏な超絶技巧の連続にも驚かされるはず。むろん、その魅力を味わうためには演奏者の技量が重要になるが、この二人なら何の心配もない。それどころか、いま屈指のコンビと断言できる。笹沼はカルテット・アマービレ、東響客演首席奏者、そしてソリスト活動など、いま各地でひっぱりだこの最も多忙な人気チェリストだ。最近はスロヴァキア・フィルの日本ツアーでドヴォルザークの協奏曲のソリストを務めるなど、国際的な存在になりつつある。菅沼はまだ20代ながら、東京藝大在学中に新日本フィルに入団し、現在同楽団首席奏者の重責を務めている。会場は西日本工業倶楽部という明治時代の洋館で、趣きある環境のなか、逸材たちによるサロン風のコンサートを味わえる、贅沢な機会となる。

マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ

マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ ©2022北九州国際音楽祭

 祝日の11月23日に開催されるのは、本音楽祭ならではの注目公演、「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ」の演奏会である。「マイスター・アールト」は国内オーケストラのトップ奏者たち、「ライジングスター」はオーディションで選ばれた若手演奏家たちのことを表しているという。世代や経験値を問わず集った演奏家たちが、指揮者は置かずに、自発性と表現意欲にあふれた演奏を繰り広げる。その現場をすべてまとめる役割のコンサートマスターは篠崎史紀。現在NHK交響楽団特別コンサートマスターを務め、北九州市文化大使も務める篠崎は、「まろ」の愛称でも親しまれる名物アーティストである。そういえば、このオーケストラの名前、4単語の原語の頭文字を並べると「MARO」に!

篠崎史紀 ©井村重人

 この日に彼らが演奏するのは、モーツァルト第25番、シューベルト第5番、メンデルスゾーン第3番「スコットランド」という古典・初期ロマン派のシンフォニー3曲で、何度聴いても発見の尽きない名曲ばかり。愛好家も初心者もオーケストラの喜びに浸れるプログラムを、「MARO」オケの熱き演奏でたっぷりと味わい尽くす。
 10月29日と11月23日の会場は北九州市立響ホール。同市の文化拠点であり、2023年度に開館30周年を迎えた同ホールは、北九州国際音楽祭でもメイン会場の役割を果たす。室内楽から室内オーケストラまで最適な音響で楽しめる、720席の響ホールで、ここだけの公演をゆっくり堪能したい。

文:林昌英

【Information】
2023北九州国際音楽祭「新時代へ―」
2023.10/14(土)~12/10(日)
北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他

南紫音(ヴァイオリン) 福田悠一郎(ヴァイオリン) 佐々木亮(ヴィオラ) 横坂源(チェロ)
2023.10/29(日)15:00 北九州市立響ホール
●曲目
ハイドン:弦楽四重奏曲第75番 ト長調 op.76-1 Hob.Ⅲ-75
ボロディン:弦楽四重奏曲第2番 ニ長調
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 op.59-2「ラズモフスキー第2番」

●料金
全席指定
一般:4,000円
ペア券:7,000円
U-25席:2,000円
※当日各500円増
※ペア券は前売りのみ

サロン・コンサート 笹沼樹(チェロ)&菅沼希望(コントラバス)
2023.11/1(水)14:00 西日本工業倶楽部
●曲目
ゴルターマン:チェロとコントラバスのための「ベッリーニの思い出」
ロッシーニ:チェロとコントラバスのための二重奏曲 ニ長調
バリエール(バウマン編):2台のチェロのためのソナタ ト長調(チェロ&コントラバス版) 他

●料金
全席自由席 ※完売
※当日券の販売なし
※お茶・菓子付き

マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ
2023.11/23(木・祝)15:00 北九州市立響ホール
(14:15~ プレ・ステージコンサート)
●出演
篠崎史紀(コンサートマスター) 他

●曲目
モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183(173dB)
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D.485
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56「スコットランド」

●料金
全席指定
S席:5,000円
A席:3,500円(完売)
U-25席(A席):2,000円(完売)
※当日各500円増

音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp