大植英次(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

充実のマエストロ、東京定期初登場!

 6月、大植英次が日本フィルの東京定期に登場する。彼は、海外公演も含めて同楽団をたびたび指揮しているが、東京定期を振るのは意外にも初だという。これは様々な点で見逃せない公演だ。

 まずは大植の進境ぶり。今年3月、彼は新日本フィルとのブルックナーの交響曲第9番で、壮大・深遠な至高の名演を聴かせた。この境地に達した大植がいかなる演奏を展開するのか? これが今回最大の注目点だ。そして短調系の名作が並ぶ深いプログラム。冒頭のワーグナー《トリスタンとイゾルデ》の「前奏曲と愛の死」は、大植がバイロイト音楽祭で指揮したオペラのエッセンスが詰まった作品で、彼も「日本フィルからバイロイトのような響きを引き出せたら」と語る(以下、同楽団のインタビューより)。メインはチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。この名曲は前記のブルックナー演奏からも感動的な凄演の予感が漂う。間に置かれたのはモダンな超難曲、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番。独奏は気鋭の阪田知樹が務める。フランツ・リスト国際ピアノコンクール第1位をはじめ多くの賞を受賞している彼は、最高度の技巧と的確な表現力を持つ若手随一の実力者。大植も「これほどの次元に達しているピアニストは、世界にも数えるほどしかいない」と絶賛するから、期待値は高い。

 今回はすべて大植が「東京で初めて指揮する」作品との由。ゆえに「作品を初演するような気持ちで演奏する」と語る。日本フィルも4月にインキネン指揮のシベリウス「クレルヴォ交響曲」で驚異的なパフォーマンスをみせたばかり。本公演は魅惑のポイント満載だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年6月号より)

第751回 東京定期演奏会〈春季〉【配信あり】
2023.6/9 (金)19:00、6/10(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp