荒井里桜ら若き実力派によるアルヴェン・カルテットが浜離宮朝日ホールで始動!

INTERVIEW
荒井里桜×石原悠企×湯浅江美子×水野優也

左より:荒井里桜/©AMUSE_Photo Takahiro Sakai、石原悠企湯浅江美子水野優也/©Yuji Ueno

 近年、若手・中堅奏者による弦楽四重奏団が多く生まれている。そんな中、実力・実績ともに注目される名手たちによる弦楽四重奏団「アルヴェン・カルテット Arven Quartet」が結成された。その旗揚げ公演が4月、浜離宮朝日ホールで開催される。

 メンバーは、「東京」と「日本」の両音楽コンクールで優勝、2024年にハチャトゥリアン国際コンクール第3位・特別賞を受賞、ソリストとして活躍する荒井里桜が第1ヴァイオリンを務める。第2ヴァイオリンは読売日本交響楽団首席第2ヴァイオリン奏者で、作曲・編曲でも活躍するなど多才を発揮する石原悠企。ヴィオラはヒンデミット国際コンクール優勝、東京国際ヴィオラコンクール第2位、2024年からバイエルン放送交響楽団第1ソロ奏者を務める(同年来日公演での鮮烈な演奏姿も話題になった)湯浅江美子。チェロはやはり「日本」と「東京」両音楽コンクールを制覇、昨年プラハの春国際コンクールでアジア人初の優勝を果たした水野優也。全員が優れたソリストであり、アンサンブルも経験豊富な4人だ。

精鋭たちが語るカルテットへの思いと結成秘話

荒井 結成の経緯は、実は以前、石原さんとカルテット結成を考えたことがあり、それが今回の始動のきっかけにつながりました。

石原 私は以前から荒井さんの演奏が好きで、いつか一緒に演奏できればうれしいですと話したんですが、それを覚えていてくれて、カルテットをやりましょうということになりました。荒井さんからお話をいただいたとき、ぜひ湯浅さんと水野さんに声をかけましょうと提案して、お二人にもすぐにお受けいただけました。このメンバーでカルテットができるなんて、こんなにうれしいことはありません。

湯浅 石原さんからお話をいただいて、もう即断即決でお受けしました。石原さんには高校時代からお世話になっており、彼がいるならと本当に即決でした。

水野 荒井さんから連絡が来たのは留学中の少し孤独を感じていた時期で、誘われてうれしかったことを覚えています。カルテットは高校時代から取り組んでいて、7年ほどの留学の間もカルテットをやりたいと思い続けていたので、ぜひ参加したいとすぐに返事をしました。

荒井 私自身、一緒に音楽をやりたいと思う方々と活動できることがとてもうれしく、せっかくご縁がつながったメンバーなので、きちんと意思疎通をしながら、全員で作っていけるカルテットでありたいと思っています。

荒井里桜 ©AMUSE_Photo Takahiro Sakai

 名前は、メンバー全員でかなり検討を重ねて、荒井の提案した「アルヴェン」(スウェーデン語で「受け継がれたもの」の意)に決まったという。そのように各自が意見を重ねていくのが「カルテット」で、そこへの思いやこだわりもそれぞれに強い。

湯浅 カルテットは自分の活動の核であり、ぶれない軸です。高校生のときからやっていましたし、ヴァイオリンからヴィオラに替わったのも、カルテットの面白さが一番大きかった。オーケストラで弾くときも音楽の作り方から理念といった精神的なものまで、その経験がベースになっています。カルテットなくしていまの自分はありません。その思いが自分をここまで運んできてくれました。

水野 チェロ奏者にとってカルテットは「土台から作る音楽」というべきものです。他の編成ではなかなか意識しにくい土台の部分を、4人という少ない単位で責任感を持って作り続ける必要があります。自分にとってもいいタイミングで、その深みに新たにチャレンジしていきたいです。

水野優也 ©Yuji Ueno

荒井 音楽の対話や弦楽器4本ならではの魅力が、はっきりと聴こえる編成だと思います。誰かが主役というよりも、常に4人が同じ重みで存在していて、そのバランスが少し変わるだけで音楽の景色も変わります。ひとつの音楽が立ち上がっていく瞬間の喜びは大きく、室内楽の醍醐味です。

石原 ヴァイオリン奏者としては以前からカルテットに積極的に取り組んでいました。留学を機に中断しましたが、カルテットにはずっと強烈な憧れをもっています。普段オーケストラで弾くときも大きな室内楽として捉えていて、カルテットの経験で培われたことは演奏活動にとても役立っていると実感します。

石原悠企

ハイドン&メンデルスゾーン&ブラームスで
「アルヴェンの音」を創る

 彼らが旗揚げ公演で取り組むのは、ドイツの古典派からロマン派の四重奏曲の伝統を体感できる3曲。幕開けの曲となるハイドンの第79番は最円熟期の作で、感動的な嬰ヘ長調の緩徐楽章をもつことから「ラルゴ」とも呼ばれる。メンデルスゾーンはアルヴェンQが継続して取り組んでいきたい作曲家とのことで、今回は作曲者が20歳で完成した、優しく淡いロマンが美しい第1番。そして、4人が望んだというブラームスから、渋いロマンと情熱が融合した第2番。彼らの意欲と自信も感じられる3曲だ。

荒井 今回は、ハイドン、メンデルスゾーン、ブラームスと、弦楽四重奏の流れを辿るプログラムになりました。それぞれの作品で求められる音楽のアプローチは異なりますが、この3曲を通して、カルテットという形の奥行きと、私たち4人の今の音をお届けできたら嬉しいです。

湯浅 初回ということで、自分たちの音作りをどうしていくかを考えて選曲しました。結果的にドイツものになりましたが、ハイドンはすべての基礎となり、メンデルスゾーンは今後もシリーズとして演奏する可能性を念頭に第1番を、ブラームスはドイツの流れの大きな「肉となる部分」として選びました。

水野 ハイドンは古典の基礎的なものと、初めて演奏するメンバーで音の方向性を確立する、「本当の第一歩」として最適だと思います。ブラームスはドイツものの充実度、作品の重みや伝統を象徴するものになります。

石原 ハイドンの第79番はずっと弾きたいと思っていた曲です。ブラームスはこのメンバーであれば、第2番が最も良い形で個性を発揮できるのではと考えました。カルテットの第一歩や起点として、古典派からロマン派の様々なテイストを演奏できることに意義があります。

湯浅 奏者個人の特徴や人となりがよく表れるラインナップで、聴衆のみなさんにとってもメンバー同士にとっても、初めましてのご挨拶として、お互いを深く知り合える良い機会となると思います。

湯浅江美子

 最後に今回の旗揚げ公演と、今後の活動への抱負を語ってもらった。

水野 旗揚げ公演に浜離宮朝日ホールという素晴らしいホールで演奏できるということで、自分たちの音を突き詰めて、私たちの目指す音や方向性を提示できる演奏会にしたいと思います。

湯浅 まずは楽しんで弾きたいですね。今後のためにも最初の化学反応がいいことを祈っているので、4人の音楽を楽しく作ることが、会場のみなさんにとっても幸せなことになると考えています。

石原 3曲とも大好きな作品で、素晴らしいホールで、素晴らしい共演者と演奏できることが本当にうれしい。演奏会を楽しみにしています。

荒井 この旗揚げ公演は本当に大切な一歩です。まずはこの公演で今の「アルヴェン」の音をしっかりとお届けしたい。そして単発で終わるのではなく、今後も音を重ねながら深まっていくアンサンブルでありたいと考えていますので、作品とも、メンバーとも、そしてお客様とも、長く向き合っていけたらと思います。

取材・文:林昌英

アルヴェン・カルテット
2026.4/15(水)19:00 浜離宮朝日ホール

出演
荒井里桜、石原悠企(以上ヴァイオリン)
湯浅江美子(ヴィオラ)
水野優也(チェロ)

プログラム
ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 op.76-5 Hob.III:79
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番 変ホ長調 op.12
ブラームス:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 op.51-2

問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。