調布国際音楽祭2026[6/20〜28]の聴きどころ

おいしい音楽、めしあがれ。

2025年のぱんだウインドオーケストラによるオープニング・ガラより ©三浦興一

 初夏を彩る調布国際音楽祭が、今年も調布の街を舞台に幕を開ける。第14回となる今回は、プレイベントとして行われる5月31日の鈴木優人オルガンリサイタルを皮切りに、6月20日から28日までの9日間にわたり開催される。

 2013年のスタート以来、エグゼクティブ・プロデューサー鈴木優人のもと、国際性と地域性を併せ持つフェスティバルとして歩みを重ねてきた音楽祭である。2026年のテーマは「おいしい音楽、めしあがれ。」。街全体を“キッチン”に見立て、作曲家がレシピを考え、演奏家が音を刻み、聴き手がそれを味わう――そんな発想から多彩なプログラムが用意された。

Masato Suzuki
エグゼクティブ・プロデューサー 鈴木優人 ©Marco Borggreve

世界初演のオペラ《ZEN》上演!

 作曲家・権代敦彦の新作オペラ《ZEN》(世界初演)が6月26日に上演される。今年の音楽界でも大きな話題となりそうだ。仏教学者で禅の大家・鈴木大拙と京都学派の哲学者・西田幾多郎を主要人物とする物語で、権代が脚本の堤春恵とともに構想から10年をかけて練り上げてきた企画である。

Atsuhiko Gondai
権代敦彦 ©大窪道治

 鈴木優人(指揮)と田尾下哲(演出)がタッグを組み、大拙を加耒徹、西田を与那城敬が演じる。櫻田亮、村松稔之ら実力派の歌手陣が顔をそろえ、尺八の黒田鈴尊も参加。管弦楽と男声合唱はバッハ・コレギウム・ジャパンが担う。万全の布陣が整った。

左上より:田尾下哲 ©福里幸夫/加耒徹 ©T.Tairadate/与那城敬 ©Hiromi NAGATOMO
櫻田亮 ©Ribaltaluce/村松稔之黒田鈴尊 ©Tomoko Hidaki

 物語は太平洋戦争直前の1941年、京都で大拙と西田が禅と哲学を語り合う場面から始まり、敗戦後の1946年、シンガポールのチャンギ刑務所へと舞台を移す。戦犯として囚えられた木村和夫は、西田の著作『哲学の根本問題』を読みたいと願い、同じ戦犯として収容されながら減刑された友人・鷹野清一からその本を受け取る。やがて木村は本の余白に遺書を書き残して絞首台へと消え、帰国した鷹野は自分だけが生き残った罪悪感に苛まれる。そこに大拙の魂が現れ、自他を隔てない「妙」の思想によって彼を導く。最後は鷹野が般若心経を唱え、大合唱とともに幕を閉じる。歴史の暗い影を背負った個人の内面に光を当て、禅と哲学が導く精神の再生を描き出す本作。戦後80年を経たいま、混迷する世界情勢のなかで、この物語が投げかける問いと答えが、あらためて重みを帯びる。

予測不能な音楽と料理の即興キッチン!

 今年のテーマを象徴する企画のひとつが、6月27日の料理研究家・平野レミを迎えるトーク・コンサート「おいしい音楽、めしあがれ。」。シャンソン歌手としても活動する平野レミが登場し、料理好きで知られるピアニスト山中惇史を中心に、ヴァイオリンの廣津留すみれ、鈴木優人とアソシエイト・プロデューサーの森下唯もピアノで参加する。平野の軽妙なトークや料理実演とクラシックの名曲演奏が交差する、音楽祭らしい自由な発想のステージとなる。

左より:平野レミ山中惇史 ©Takafumi Ueno/廣津留すみれ ©Ryuto Kurokawa/森下唯 ©KEIKO HIRANO

♪フェスオケはマーラー「巨人」、BCJはバッハ名曲選

 音楽祭の華は6月27日のフェスティバル・オーケストラだ。プロと若手奏者が一丸となって完全燃焼するこの公演は、毎年会場を熱気で満たしてきた。今回は過去最大規模の編成で、青春のエネルギーが噴き出すマーラーの交響曲第1番「巨人」に挑む。指揮は音楽祭監修の鈴木雅明。

左より:鈴木雅明 ©Marco Borggreve/松田華音 ©Ayako Yamamoto

 松田華音はロシア音楽のレパートリーで知られるが、モーツァルトへの思いも強い。ハ短調の劇的なモーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」に挑む。冒頭にはヘンデル「アレクサンダーの饗宴」組曲が置かれ、華やかな幕開けから巨大なマーラーへ――公演全体が一つのドラマとして立ち上がる。

Bach Collegium Japan
バッハ・コレギウム・ジャパン

 フィナーレを飾るのは、6月28日のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による「狩のカンタータ」。鈴木優人の指揮のもと、森麻季、松井亜希、櫻田亮、大西宇宙という充実の声楽陣が集結する。さらに鈴木雅明がチェンバロ独奏を務める「ブランデンブルク協奏曲第5番」も予定され、“BCJの真骨頂”を味わえる夕べとなりそうだ。

左より:森麻季 ©Yuji Hori/松井亜希櫻田亮 ©Ribaltaluce/大西宇宙 ©Marco Borggreve

吹奏楽好き、集まれ!上質な室内楽の公演も充実

 ほかにも魅力的な企画が並ぶ。鈴木優人と吹奏楽のぱんだウインドオーケストラによる6月21日のオープニング・ガラには、サクソフォンの上野耕平がソリストとして参加。バッハ「パッサカリアとフーガ」鈴木優人編曲改訂版初演や、吹奏楽の名曲「ぐるりよざ」にバッハ・コレギウム・ジャパンの男声合唱が加わるなど、華やかなプログラムが予定されている。

左:上野耕平 ©Yuji Ueno
右:ぱんだウインドオーケストラ ©KosukeAtsumi

 6月24日には深大寺本堂でクァルテット・インテグラの弦楽四重奏公演が2回行われる。ヤナーチェク「クロイツェル・ソナタ」を軸に、前半ではベートーヴェン弦楽四重奏曲第2番、後半では第6番を演奏。冒頭には深大寺の僧侶による天台聲明も予定されており、寺院空間と弦楽四重奏が交差する特別な体験となる。

Quartet Integra
クァルテット・インテグラ ©Rintaro Kanemoto

 フェスオケ講師陣による室内楽公演「動物の謝肉祭とフランスの風」(6月25日)には吉野直子(ハープ)が初参加し、白井圭(ヴァイオリン)、上野星矢(フルート)、ディルク・アルトマン(クラリネット/SWR交響楽団首席)、岡本誠司、石上真由子(以上ヴァイオリン)ら名手が集う。「動物の謝肉祭」を中心にフランス音楽の魅力を味わえる公演となる。

左上より:吉野直子 ©Tomoko Hidaki/白井圭上野星矢
ディルク・アルトマン岡本誠司 ©Yuji Ueno/石上真由子 ©Masatoshi Yamashiro

 6月28日の村治佳織のギターリサイタルでは、最新アルバムにも通じるゲーム音楽を中心としたプログラムを披露。栗コーダーカルテットによる親子向け公演や、成田達輝(ヴァイオリン)と萩原麻未(ピアノ)によるキッズ向けコンサートなど、幅広い世代が楽しめる企画もそろう。

左より:村治佳織 ©Sayaka HIKIDA/成田達輝 ©Marco Borggreve/萩原麻未 ©Marco Borggreve

 さらに6月24日、25日には金子仁美、細川俊夫、坂田直樹が講師を務める作曲ワークショップも予定されている。

左より:金子仁美 ©Daniel Campbell/細川俊夫 ©Kaz Ishikawa/坂田直樹 ©keita nakagawa

 駅前広場やホール周辺では無料コンサートや楽器体験イベント「TOUCH&TRY」も行われ、街を歩きながら音楽に出会えるのもこの音楽祭の魅力だ。初夏の調布が音楽に包まれる9日間となる。

文:長谷川京介

「たたいてあそぼう」のステージも子どもたちに人気 ©三浦興一
緑あふれる布多天神社には多くの聴衆が集まる ©三浦興一

【Information】
調布国際音楽祭2026
2026.6/20(土)〜6/28(日) 調布市グリーンホール、調布市文化会館たづくり、調布市せんがわ劇場、深大寺本堂 ほか


おもな公演
鈴木優人×ぱんだウインドオーケストラ オープニング・ガラ!
6/21(日)14:00 調布市グリーンホール(大)
深大寺 古刹に響く弦楽四重奏 刺激的な音楽に心震わせる時間
6/24(水)①11:15 ②14:15 深大寺本堂
フェスオケ・オールスターが奏でる「動物の謝肉祭」とフランスの風
6/25(木)13:00 調布市グリーンホール(大)
世界初演 権代敦彦 オペラ《ZEN》
6/26(金)19:00 調布市文化会館たづくり くすのきホール
平野レミの即興キッチン「おいしい音楽、めしあがれ。」
6/27(土)13:00 調布市文化会館たづくり くすのきホール
鈴木雅明×フェスオケ マーラー「巨人」
6/27(土)16:00 調布市グリーンホール(大)
バッハ・コレギウム・ジャパン「狩のカンタータ」
6/28(日)16:00 調布市グリーンホール(大)

[チケット発売]※発売初日はインターネット販売のみ
★セット券

ちょうふアートプラス会員・一般 3/13(金)9:00~
※チケットCHOFUのみ取扱い
★単券発売日
ちょうふアートプラス会員:4/2(木)〜 先行発売
一般:4/9(木)〜
★寄附付きチケット&CIMFスポンサーシートもあり
問:チケットCHOFU 042-481-7222

https://www.chofumusicfestival.com
※全公演の詳細は「調布国際音楽祭」公式ウェブサイトからご確認ください。


長谷川京介 Kyosuke Hasegawa

ソニー・ミュージックにてクラシックCDの企画・制作を担当するプロデューサーとして勤務。
退職後は音楽評論家として活動し、「ぶらあぼ」「音楽の友」「毎日クラシックナビ・速リポ」などにコンサート評や記事を執筆。
コンサート・プログラムやCD解説の執筆も手がける。
ミュージック・ペンクラブ音楽賞選考委員。個人ブログ「ベイのコンサート日記」は年間40万回を超えるアクセスを集めている。