芸術監督フォルクハルト・シュトイデ(ウィーン・フィル コンサートマスター)が語るトヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン

 春の訪れとともに全国にウィーンの香りが漂う ── 毎年恒例となっている「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」による日本ツアー。21回目となる2026年公演は3月30日より、「ウィーンの魔法に身をゆだねて」と題して3つの異なるプログラムで7都市を巡る。
 ウィーン・フィルとウィーン国立歌劇場のメンバーを中心に特別編成された室内オーケストラを率いる、芸術監督でコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデに今春への想いを訊いた。

(C)Ayumi Kakamu

取材・文:柴田克彦

── まずは、これまでの公演を振り返ってのご感想をお聞かせください。

日本の聴衆は特別なファンコミュニティだと感じています。ウィーン・フィルをよくご存じの方の中にも、トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン(TOMAS)のコンサートに好んで来てくださる方々がいます。それはとても嬉しいことです。

── TOMASの特徴は?

音の響きの美しさ、つまり一音一音のクオリティの高さですね。あまり重要でないように思える音であってもその質を大切にする姿勢は、ウィーンの演奏伝統の中に深く根付いています。それは、「美しさ」自体が目的ではなく、心を震わせ、感情を生み出すための美しさです。これが音楽において最も重要なことだと思います。

── メンバーの選び方は?

まずはできるだけ同じメンバーを維持するようにしています。当然若返りもありますが、大規模なオーケストラのように厳格ではなく、比較的自由な形で行っています。私が芸術監督として最終的な責任を負っているとはいえ、新しい奏者が必要な場合は、該当するパートのメンバーと相談して決めています。

── シュトイデさんご自身の役割、また演奏をリードするにあたって特に心がけていることは?

私の役割は指揮者が通常行う行為を担うこと。音の出だし、速度、強弱といった具体的な指示(もちろんそれらも必要ですが)だけでなく、全員が明確なコンセプトと方向性を理解し、共有させないといけません。つまり全体がしっかり機能するように整頓するのが私の仕事です。

加えてさらに重要なポイントは「まとめること」。多数の優れた個人的アイディアを一つに束ねる必要はありますが、メンバーが自身のコンセプトを見失ってはなりません。ここでは大きなオーケストラよりも少し自由があると感じられるようにしなければならないのです。リハーサルでは必死に頑張らないといけませんが、コンサートになると一人ひとりが自由に音楽を奏でながら輝く瞬間が生まれ、全員がお互いに反応し合います。指揮者なしで直接的だからこそ反応も速いのです。

── 指揮者なしの演奏における特徴やメリットは?

指揮者を否定するつもりはありません。素晴らしい指揮者は沢山います。しかし、指揮者という存在は、常に一つの中継点となり、エネルギーが一度経由されることになります。そのため、時には時間が失われたり、音楽家同士が互いを見るだけで生まれる直接的なコンタクトほどの即時性がなくなることもあります。ここに中継者なしのメリットがあると言えます。言葉もジェスチャーもなく、ただ互いを見つめ合うだけで、突然その瞬間に驚異的な美しい詩歌が生まれ出るのです。

── 今回のプログラムで最も意図したことは?

これは大きな喜びをもって選んだ内容です。特にプログラムBでのシェーンベルクの「浄められた夜」。素晴らしい作品なので演奏できることをとても嬉しく思っています。TOMASにおける弦楽器のポテンシャルが、非常に美しい結果へ導いてくれると信じているからです。

── TOMAS単独の公演であるプログラムBのコンセプトを教えてください。

メンデルスゾーンとシェーンベルクという一つの流れがあり、そこにワーグナーの「ジークフリート牧歌」が加わります。私たちはあえて、この3名の作曲家の曲を同じコンサートで取り上げます。それは彼らの作品が、その質においてあらゆる境界を超えていることを示すためです。音楽の力の中にこそ存在する、この広がりと心を打つ美しさは、世界観や宗教その他あらゆる問題を、一時的にではあっても忘れさせてくれます。

2025年公演より

── 今回はプログラムAを含めてメンデルスゾーンの作品を主体にされていますが、その理由は? また彼の音楽の魅力とは?

今申し上げたように、枠的に捉えず、ワーグナーとメンデルスゾーンを一緒に演奏したいと思ったのが理由の1つ。2つ目の理由はメンデルスゾーンが新鮮であることです。彼は若いエネルギーを持っています。TOMASもそう。若くパワフルで情熱に溢れていますので、メンデルスゾーンの音楽が似合います。理由は他にもありますが、コンサートで聴いていただくのが一番です。

── 最後に、公演を楽しみにしている日本のファンに一言お願いします。

皆さんは世界一素晴らしい聴衆です。高い集中力をもって、大きな情熱とともに耳を傾けてくださるからです。日本のホールに広がる「祈りのような静寂」とその集中力は、規律や社会構造だけによるものではないと思います。それは聴衆の皆さんが音楽に対する深い愛情を持っているからです。時にコンサートは社交の場となることもありますが、日本には「音楽を聴く」ことが最優先に置かれている特別な何かが存在します。客席を眺めると、人々が音楽とともに夢を見ているのが分かります。それがとても美しい。この愛情と集中力、そして私たちが演奏する音楽を受け取ろうとする大きな開かれた姿勢、それが私たちの心を深く打つのです。


【Information】
トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン

プログラムA 東京:3/30(月)19:00 サントリーホール 大ホール
プログラムC 名古屋:4/3(金)19:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
プログラムA 刈谷:4/4(土)15:00 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
プログラムB 西宮:4/5(日)14:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
プログラムB 仙台:4/6(月)19:00 東京エレクトロンホール宮城 大ホール
プログラムA 札幌:4/7(火)19:00 札幌コンサートホール Kitara 大ホール
プログラムA 福岡:4/8(水)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
プログラムB 東京:4/9(木)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

Program A 名手が織り成す対話と調和のベートーヴェン
出演/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン、阪田知樹(ピアノ)、フォルクハルト・シュトイデ(ヴァイオリン)、ペーテル・ソモダリ(チェロ)
曲目/L.v.ベートーヴェン:ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲 ハ長調 op.56
   F.メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
            :交響曲 第4番 イ長調「イタリア」 op.90

Program B ロマン派の息吹、世紀末の響きにいだかれて
出演/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン
曲目/R.ワーグナー:ジークフリート牧歌
   A.シェーンベルク:浄められた夜 op.4(弦楽オーケストラ版)
   F.メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
            :交響曲 第4番 イ長調「イタリア」 op.90

Program C 烈しくも美しい調べが舞う 鬼才ベルリオーズの幻想
出演/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン
   名古屋フィルハーモニー交響楽団(第2部)、広上淳一(第2部、指揮)
曲目/【第1部】R.ワーグナー:ジークフリート牧歌
   【第2部】H.ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14

問合せ

《東京》 トヨタ・マスター・プレイヤーズ事務局 03-5210-7555
《札幌》 道新プレイガイド 0570-00-3871
《仙台》 河北新報社 事業部 022-211-1332
《名古屋・刈谷》 中日新聞コンサートデスク 052-678-5323
《西宮》神戸新聞事業社 080-8336-2467
《福岡》 西日本新聞イベントサービス 092-711-5491