響ホール リサイタルシリーズ
小菅優(ピアノ)

国際的名手の高度な技量と深い音楽に酔いしれる

(c)Takehiro Goto

 今年開館30周年を迎えた北九州市立響ホールの公演の中で大きな柱をなすのが、一流の演奏をたっぷりと味わえる「リサイタルシリーズ」。今年度の初回(6/24)は、世界を舞台に活躍するピアニスト・小菅優が、高度なテクニックと高い芸術性を披露する。

 小菅は、9歳より演奏活動を開始し、2005年カーネギーホール、06年ザルツブルク音楽祭でリサイタル・デビュー。以来欧州を拠点に、世界のトップ・オーケストラや指揮者との共演、著名ホールでのリサイタル、録音等、第一線で活躍を続けている。2010~15年には、東京、大阪でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会(全8回)を行い、現在は室内楽や歌曲伴奏を含めた、ベートーヴェンのすべてのピアノ付き作品を徐々に取り上げる企画「ベートーヴェン詣」に取り組んでいる。また2017年から4年にわたり、4つの元素「水・火・風・大地」をテーマにしたリサイタル・シリーズ「Four Elements」を開催して好評を博すなど、豊かな発想と明確なポリシーを持った活動で高い評価を得ている。

 そんな彼女は、今年3月から25年秋にかけて全5回の「ソナタ・シリーズ」を開催中。今回のリサイタルもその一環「夢・幻想」と連動した内容で、楽聖ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも知られた第14番「月光」が中心をなす。この曲、実は、第13番と共に「幻想曲風ソナタ」として世に出された作品。まさに幻想的なテイストを持つ変化に富んだ名曲だ。この有名な作品を、長年ベートーヴェンに力を注いできた小菅がいかに表現するか? 最近の彼女の充実ぶりを鑑みれば、清新にして曲の本質を抉る演奏が展開されるに違いない。その前には、メンデルスゾーンの幻想曲「スコットランド・ソナタ」が置かれている。同曲はベートーヴェンの「幻想曲風ソナタ」を意識して書かれた作品で、まさにスコットランドの荒野が目に浮かぶような幻想曲。あまり知られてはいないが、3楽章からなる密度の濃い作品で、メンデルスゾーンの“隠れた名曲”と言っていい。したがって小菅クラスの演奏で耳にできる今回は、見逃せない機会となる。他のプログラムは4月現在発表されていないが、筋の通った構成を旨とする小菅だけに、何が弾かれるか楽しみに待ちたい。

 小菅は、確かな技巧と濃密かつクリアなピアニズムで、楽曲の真の姿を創生する信頼度抜群の名手であり、いま最も聴くべきピアニストだと断言していい。その演奏を、残響時間1.8秒という抜群の音響を誇る720席の音楽ホールで味わうのは、まさしく極め付きの贅沢。この機会に、彼女の抜群の技量と深い音楽に酔いしれたい。

文:柴田克彦

響ホール リサイタルシリーズ
小菅優(ピアノ)
2023.6/24(土)14:00 北九州市立響ホール


●出演
小菅優(ピアノ)
●曲目
メンデルスゾーン:幻想曲 嬰へ短調 op.28「スコットランド・ソナタ」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」 ほか
●料金
一般:4,000円(前売)
25歳以下:2,000円(前売/入場時要証明)
*未就学児入場不可
*当日各500円増

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp/