本選真っ只中、6人のファイナリストたち

2023 高坂はる香のピアノコンクール追っかけ日記 from テルアビブ 6

text:高坂はる香

 ルービンシュタインコンクール、本選の真っ只中。6名のファイナリストが、室内楽、クラシカル・コンチェルト(古典派の協奏曲)、グランド・コンチェルト(大きめの協奏曲)の3ステージで演奏します。というわけで、ファイナルだけで空き日1日を含めた1週間と、なかなか長めです。

 クラシカル・コンチェルトの共演は、アヴネル・ビロン Avner Biron 指揮のイスラエル・カメラータ。そして、グランド・コンチェルトでは、ヨエル・レヴィ Yoel Levi 指揮のイスラエル・フィルと共演することになります。
 ちなみにヨエル・レヴィさん、ずいぶん前にインタビューをしたとき、3人の息子さんが、ヘヴィメタルバンドの元メンバー、俳優、元格闘家だ、という話をしていました。さらにレヴィさん自身、空手は黒帯で合気道も習っているということで、私が習っているクラヴマガ(イスラエルで生まれた護身術)の話でも盛り上がったことが記憶にのこっています。「百人のミュージシャンを相手に戦わなきゃいけないから、指揮者は強くならないとね! ま、冗談だけど」と、武闘派指揮者ジョークをかましていらっしゃいました。

 さて、話は逸れましたが、これからはじまる協奏曲のステージを前に、演奏順にファイナリストたちをご紹介してみたいと思います。

Elia Cecino

 イタリアの、エリア・チェチーノ Elia Cecino さん、21歳。師事歴には、かつてのショパン・コンクール審査委員長としてもおなじみのアンジェイ・ヤシンスキさん(2021年まで)、現在は、ボリス・ベルマンさん、日本にもたびたび来ている名ピアニストで名教師のエリソ・ヴィルサラーゼさんのお名前があります。
 ここまでリサイタルでベートーヴェンとロシアものを弾いてきた彼、やっぱりファイナルも、ベートーヴェンの2番とチャイコフスキーの1番。得意なもので良いところを見せる姿勢を徹底しています。
 室内楽は、ベートーヴェンのピアノとクラリネット、チェロのためのトリオを選択していましたが、わりと自由に歌うタイプとお見受けしたので、協奏曲でオーケストラとのコミュニケーションがどうなるのかな、と思っているところ。

Yukine Kuroki

 そして、日本のみなさん応援しているでしょう、黒木雪音さん。昭和音楽大学で江口文子先生のもと学ぶ24歳です。2022年は、ダブリン・コンクールやユトレヒトのリスト・コンクールで優勝する快挙が続きました。みずみずしい音と起伏に富んだ表現で、聴衆をしっかり引き込むタイプのピアニスト。それは室内楽のステージのリムスキー=コルサコフのピアノと管楽器のための五重奏曲でも発揮され、聴衆はもちろん共演者も魅了して、生き生き、走り抜けるようなアンサンブルを展開していました。
 今回、課題曲の中からどれにしようかと音源を聴いていて、これだ!と思って選んだとのこと。実際、とてもご本人のキャラクターに合った選曲でした。曲がそうだからこんなに楽しいのかな?と思いましたが、同じ曲を別のコンテスタントが弾いていたらやっぱり印象が違ったので、あれは“プリプリの音”を持つ黒木さんならではの演奏だったのだな、と改めて思いました。
 ファイナルでは、ベートーヴェンの1番とリストの1番を演奏します。ここまで全ステージでリストが入ってきましたが、感情が自然に出せる、大好きな作曲家なのだそうです。

Giorgi Gigashvili

 ジョージアのギオルギ・ギガシヴィリ Giorgi Gigashvili さん、ジュネーヴ高等音楽院でネルソン・ゲルナーに師事する22歳。前述の通り、前回もこのコンクールに参加して2次予選の聴衆賞的なものを受賞していることもあり、聴衆からはすでに大人気です。
 とにかく音量が出るので、室内楽ではどうなるかと思いましたが、共演者と互いにパワフルに音を重ね合うアンサンブルになったかな、という印象。
 このあとはモーツァルトの20番と、プロコフィエフの3番を演奏します。プロコフィエフ、おもしろそう!

Kevin Chen

 カナダのケヴィン・チェン Kevin Chen さんもまた、2021年リスト・コンクール優勝、2022年ジュネーヴ・コンクール優勝と快挙が続いている18歳。カナダのカルガリーで、2017年、つまり12歳くらいから現在まで J. Marilyn Engle さんに師事しているとのこと。
 私はジュネーヴでも聴いているわけですが、あのときよりもよりオープンに感情を開いて演奏している印象があります。コンクールのタイトルを重ねることによって、自信が自由な表現につながっているのかもしれません。ちなみにジュネーヴのときには、アーティスティック・プロジェクトの課題(今後やりたい企画を提案する)でも賞をとっていて、知性も兼ね備えたタイプなのだなと思いました。作曲家としても多くの作品を書いているそうです。
 そういうピアニスト、最近増えましたね。ある意味これこそが、録音技術が発展する前のかつてのスタイルなのかもしれませんが。
 ファイナルでは、モーツァルトの27番、チャイコフスキーの1番をセレクト。ジュネーヴのときは繊細なショパンで優勝しているので、今回は違う一面を見られるのかもしれないと今から楽しみです。外見の素朴な雰囲気とのギャップが、どのくらいのものになるのでしょうか。

Chaeyoung Park

 韓国のパク・チェヨン Chaeyoung Parkさんは、現在ジュリアード音楽院でロバート・マクドナルドさんに師事する25歳。ロバート・マクドナルドさんといえば、アジア系も含む優秀なピアニストをたくさん育てている先生ですね。曲の世界に没入して、感情を放つように鮮やかな演奏をするピアニストという印象。
 ファイナルでは、黒木さんと同じベートーヴェンの1番、そしてギガシヴィリさんと同じプロコフィエフの3番を演奏します。キャラクター的に、たぶん、確実に、まったく違う演奏が繰り広げられることになりそうなので、聴き比べが楽しみです。

Alberto Ferro

 イタリアのアルベルト・フェロ Alberto Ferro さんは、シチリアにあるカターニアのベッリーニ音楽院で Ephifanio Comis さんに師事する28歳。2022年のマリア・カナルスコンクールで6位になっています。クリーンなみずみずしい音と、着実な演奏という印象で、室内楽でも黒木さんと同じリムスキー=コルサコフを、着実に弾いていました。
 ファイナルで選んでいるのは、ベートーヴェンの2番。そしてグランド・コンチェルトのほうが、バルトークの2番。最後の最後、ついにいろいろ爆発させるのでしょうか。

 ところで今回、ピアノはスタイウェイとファツィオリの2台から選択する形で、ファイナルの6名は、スタインウェイが3名、ファツィオリが3名とちょうど半々ということになりました(スタートの時点でファツィオリを選んでいたのは12名だったと聞いています)。二つのピアノの音色の違いにも注目したいところです。

写真提供:The Arthur Rubinstein International Music Society

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/