幅広い音楽性で定評のあるソプラノ佐藤朋子による、昨年生誕110年を迎えた山田一雄(1912-1991)の歌曲集。「水色のワルツ」などで知られる二葉あき子が1938年に創唱した軽快なフランス歌曲風の〈もう直き春になるだろう〉がよく知られた作品で圧巻だが、詩人・深尾須磨子が敗戦直後の世田谷に実在した人々の喜怒哀楽を生き生きと綴った連作(『明星』に発表)をもとにした大作「祖師ヶ谷より」や宮沢賢治の童話から有名な「どっどど どどうど〜」のフレーズ等を抜き出して歌にした〈風の又三郎〉も素晴らしい。ヴォカリーズ〈小さなメロディ〉に込めた遊び心も素敵だ。
文:東端哲也
(ぶらあぼ2023年4月号より)
【information】
CD『山田一雄歌曲集 ―日本の音風景・心景色 Ⅱ―/佐藤朋子&塚田佳男』
山田一雄:天の原、靜かなる我が家、もう直き春になるだろう、祖師ヶ谷より、宮沢賢治・三章、貧しき贈物、遙かな花、蜂のうた、小さなメロディ
佐藤朋子(ソプラノ)
塚田佳男(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-9240 ¥3300