浜離宮朝日ホール 開館30周年記念
ヴィクトリア・ムローヴァ ヴァイオリン・リサイタル

ピリオドとモダン、2つの銘器で自在に時代を往来する

(c)Benjamin Ealovega

 ヴィクトリア・ムローヴァはシベリウス国際、チャイコフスキー国際という世界最高峰のコンクールを制覇したロシアン・ヴァイオリンの正統な継承者だ。1983年にソ連から亡命した後も飽くなき探求心によって確固たる存在感を放っている。

 6年ぶりとなる浜離宮朝日ホールでのリサイタルは、彼女が開拓した広範なレパートリーと多彩なアプローチが生きたものになりそうだ。前半はガット弦を張ったガダニーニを用いてフォルテピアノと共演し、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの第4番と第7番の2曲を聴かせる。主に羊の腸を用いたガット弦は、現代の弦ほどの強靱さや派手さはないが、柔和で温もりのある渋い音がする。18世紀初頭にイタリアで発明されたフォルテピアノは、ベートーヴェンの時代には音域が広がり、アクションも急速に進化しており、弦によってボウイングが変わるヴァイオリンとともに、時代の機微が蘇るはずだ。

 後半はモダン弦を張ったストラディヴァリウス「ジュールズ・フォーク」(1723年製)に持ち替え、まずは武満徹のメシアン的でシュールレアリスティックな初期作品「妖精の距離」、さらにペルトのアルカイックな「フラトレス」とつなぎ、シューベルトの「ロンドD895」で閉じる。

 ピアノも後半ではモダンに変わるが、ピアノのアラスデア・ビートソンは、ソロに室内楽にと活躍するだけでなく、プロデューサーとしての手腕も確かな実力派。ムローヴァとの古楽アプローチによるベートーヴェンは、すでに各地での演奏実績や録音があり、その信頼も厚い。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年10月号より)

2022.11/20(日)15:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/

他公演
11/19(土) 豊田市コンサートホール(0565-35-8200)
11/21(月) 武蔵野市民文化会館(小) 

11/22(火) 神奈川県立音楽堂
(パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831)(11/21,11/22)