アジア オーケストラ ウィーク 2022

3年ぶりに海外のオーケストラが参加!

 2002年に始まった「アジア オーケストラ ウィーク」はアジアのオーケストラと作品を日本にいながらにして聴くことができる貴重な機会となっている。これまで、中国、韓国、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、モンゴル、インド、トルコ、さらにオーストラリア、ニュージーランドなどから60以上の団体が登場した。

 コロナによる中止や変更を乗り越え、今年は3年ぶりに海外のオーケストラが参加する。プログラムは「自国で生まれたオーケストラ曲」「その地域で最も注目されている若手ソリストとの協奏曲」「オーケストラが勝負をかける交響曲」で構成されている。

マニラ交響楽団
左:マーロン・チェン 右:ダモダール・ダス・カスティージョ

 初日10月5日(水)は、アジアで最も古いオーケストラの一つ、フィリピンのマニラ交響楽団(1926年創立)が出演。第2次世界大戦も経験し、メニューイン、オイストラフ、フー・ツォンなど一流演奏家たちと協演を重ねてきた。指揮は音楽監督のマーロン・チェン。ヒューストンの「アペリオ・ミュージック・オブ・ジ・アメリカズ」の常任指揮者でもあり、ライプツィヒMDR交響楽団、パリ管弦楽団のアシスタントコンダクターを経て、多くの著名オーケストラを指揮している。

 プログラムは、フィリピンの国民的作曲家、ルシオ・サン・ペドロ(1913-2002)の「ラヒン・カユマンギ」に始まる。直訳は「褐色の人種」。植民地主義からの独立を目指すフィリピンの人々の英雄的闘争に捧げられた作品である。

 エルガー「チェロ協奏曲」のソリストは、2007年マニラ生まれのダモダール・ダス・カスティージョ。フィリピン期待のチェリストで、既に5つの国際コンクールで優勝している。最後にプロコフィエフのバレエ組曲「ロメオとジュリエット」(マーロン・チェン セレクション)が演奏される。

琉球交響楽団
左:大友直人 (c)Rowland Kirishima 右:萩原麻未 (c)Marco Borggreve

 10月6日(木)はホスト国日本から、琉球交響楽団が登場する。沖縄県立芸術大学教授で元N響首席トランペット奏者の故・祖堅方正が、沖縄県内に卒業生や沖縄出身者が活躍できる場を創ろうと、大友直人の後押しを受け2001年に設立。16年大友直人が音楽監督に就任。今年6月には沖縄本土復帰50周年記念特別公演として東京と大阪で演奏した。

 1曲目は中村透「かぎゃで風~琉球古典音楽、古典舞踊とオーケストラのための~」。「かぎゃで風」は沖縄で祝宴の座開きで歌い踊られる伝統民謡。この曲を基に、故・中村透が2010年に作曲した作品。沖芸大琉球芸能専攻OB会も共演する。

 2曲目はポップスの分野でも活躍する作・編曲家の萩森英明が、琉球響から委嘱された沖縄本土復帰50周年に寄せた作品が演奏される。

 ラヴェル「ピアノ協奏曲」では、2010年第65回ジュネーヴ国際コンクールにおいて、日本人として初めて優勝し、国内外で活躍する萩原麻未が登場。得意としている作品であり、瑞々しい演奏を聴かせてくれるだろう。最後は、堂々として均斉のとれた名曲チャイコフスキー「交響曲第5番」で締めくくられる。

KBS交響楽団
左:ユン・ハンギョル 右:キム・ボムソリ

 最終日10月7日(金)は、韓国を代表するオーケストラ、KBS交響楽団が登場する。1956年韓国放送公社(KBS)によって設立。チョン・ミョンフン、ドミトリー・キタエンコ等が歴任した音楽監督に、2022年ピエタリ・インキネンが就任し、世界トップクラスのオーケストラを目指す。

 指揮は若手のホープ、1994年生まれのユン・ハンギョル。2019年ネーメ・ヤルヴィ賞を史上最年少で受賞し、19年から21年までニュー・ブランデンブルク・フィルハーモニー管弦楽団のカペルマイスターを務めた。

 ヨハン・シュトラウスⅡ世「喜歌劇《こうもり》序曲」に始まり、ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」では、キム・ボムソリが出演する。キムはジュリアード音楽院で修士号およびアーティスト・ディプロマを取得。仙台国際音楽コンクール最年少受賞、ARD ミュンヘン国際コンクール最高位などを受賞した気鋭のヴァイオリニスト。

 最後を飾るのはユン・イサン「交響曲第2番」。ユン(1917-95)は韓国に生まれ、ドイツに帰化した国際的作曲家。戦前、池内友次郎に作曲を学び、戦後パリ音楽院とベルリン音楽大学でも学んだ。67年韓国中央情報局にスパイ容疑で捕らえられるが、69年特赦で釈放された。「交響曲第2番」(1984年)は地球を惑星的な距離で見ているようだとも言われる壮大な作品。ユンとKBS響がスケールの大きな演奏を聴かせてくれることだろう。
文:長谷川京介

2022.10/5(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
マニラ交響楽団
指揮/マーロン・チェン
チェロ/ダモダール・ダス・カスティージョ
〈曲目〉
ルシオ・サン・ペドロ:ラヒン・カユマンギ
エルガー:チェロ協奏曲
プロコフィエフ:バレエ組曲「ロメオとジュリエット」(マーロン・チェン セレクション)

10/6(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
琉球交響楽団
指揮/大友直人
沖縄伝統音楽、琉球舞踊/沖芸大琉球芸能専攻OB会
ピアノ/萩原麻未
〈曲目〉
中村透:かぎゃで風~琉球古典音楽、古典舞踊とオーケストラのための~
萩森英明:琉球交響楽団委嘱作品(沖縄本土復帰50周年に寄せて)
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

10/7(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
KBS交響楽団
指揮/ユン・ハンギョル
ヴァイオリン/キム・ボムソリ
〈曲目〉
ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇《こうもり》序曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
ユン・イサン:交響曲第2番

問:日本オーケストラ連盟03-5610-7275
https://www.orchestra.or.jp/aow2022/