日本を代表する演奏家が集結し名曲のいいとこ取り
クラシック界のオールスターゲーム
コロナ禍でダメージを受けた業界というと飲食や旅行が挙がるが、音楽業界への影響も同様だ。演奏者は芸を披露する場を、聴き手は生の音に触れる機会を奪われてしまった。そんな困難を乗り越えるために昨年、全国に幸福を届けた「クラシック・キャラバン」が今年も開催される。
「クラシック音楽が世界をつなぐ 〜輝く未来に向けて〜」と題し、9月18日の愛知と静岡を皮切りに全21公演。華やかなガラ・コンサートの数々で、北海道から沖縄まで全国13地域がつながれる。プロジェクト・アンバサダーに就任した俳優の宮崎美子と、昨年に続き出演するテノールの福井敬が、魅力あふれる企画の意義と価値を語りつくした。
福井「私たちはお客様を前にして生の音を届けるのが信条なのに、コロナ禍でそれができなかった。演奏家は大変でしたが、聴く機会を奪われたお客様も同じでした」
宮崎「空気が揺れるのを直に感じるのが大事ですよね」
福井「だからクラシック・キャラバンは本当にありがたい。ガラ・コンサートとは豪奢な美味しいとこ取り。みなさん待ち焦がれていたと思いますが、それを手に取って味わえるのは極上の喜びだと思います」
宮崎「本当に贅沢ですね。一流の演奏家の方々が自分たちの近くに来てくれて、いいとこ取りの演奏をしてくれるのですから」
福井「オーケストラ(スーパー・クラシック・オーケストラ)は、演奏の機会を失っていたフリーランスの演奏家の方々によって構成され、昨年出演したときも、みなさん意気込みが全然違いました」
宮崎「既存のオーケストラと違うメンバーだから新鮮ですね」
福井「同時に真剣勝負で、ハーモニーを一緒に作ったときのすばらしさは何物にも代えがたいです」
ところで、宮崎は日ごろどんな音楽を聴いているのだろう。
宮崎「作業用BGMとしてクラシック音楽を心地よく聴いたりしますが、聴いたことがある曲が流れて『これなんだっけ?』と思っても、通りすぎてしまいます。クラシック・キャラバンはそんなときも曲名を確認できて、クラシック音楽を聴く入口にもなりますね」
福井「しかも各コンサートには司会者がいて、曲のエピソードを話してくれるので、どう聴けばいいのかもわかる。好きだったのに生の演奏を聴けなくなっていた方にも、初めて聴く方にも、こうして糸をつなぐことがすごく大切です」
宮崎「私も以前はコンサートの司会などで参加することがあったのが、少し途切れていました。今回アンバサダーとして携わる機会をいただき、改めて生の音をその場で味わいたいなと、ワクワクしています」
福井「演劇は台詞の間や長さ、抑揚などを俳優が作りますけど、私たちの場合、作曲家が間も抑揚も規定しています。だから何分後、何秒後に悲劇が起きるかがわかっていて、そこに緊張感もある。そんなところも聴いていただけると、もっと楽しめると思います」
宮崎「でも、そうして作曲家が規定していても、何千人、何万人もの歌い手が表現して、それぞれ色が全然違うわけですよね」
福井「コンサートにいらした方は、演奏者の呼吸や息遣いを意識して、それを一瞬感じるだけで、また違う世界が見えるかもしれません」
宮崎「すみずみまで全部見て、感じなければ、という気持ちになりますね。そうでなければもったいない」
しかも、各公演はさながらクラシック音楽のオールスターゲーム。
宮崎「それが自分の街の球場(ホール)まで来てくれるのですよね!」
福井「ですから昨年もお客様の期待度、楽しもうという意欲が普段のコンサートとはまったく違うのが感じられて、私たちが強く勇気づけられました」
宮崎「それは一番幸せな状態ですね。すばらしい演奏になるかどうかは、演奏する側と聴く側の関係で決まるところがありますものね」
ところで、「小学生は入れるのかしら」と宮崎。10月2日の沖縄公演は3歳から、その他の公演は小学生から入場が可能だ。
福井「私も小学生のとき先生に言われ、地区の代表として歌ったりして、そういうこともあって音大を受験しました」
宮崎「全員にそういうストーリーがあって、それが集まって一つの音に。ドキドキしますね。子どもたちにも『これが好きだ』って思ってもらいたいですね」
取材・文:香原斗志 写真:吉田タカユキ
(ぶらあぼ2022年10月号)
【Profile】
宮崎美子(左)
1958年熊本県生まれ。1980年TBSドラマ『元気です!』で女優デビュー以降、映画、ドラマ、舞台など出演。2000年、映画『雨あがる』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。現在は、テレビ朝日のクイズ番組『ミラクル9』や、RKK熊本放送『週刊山崎くん』、TBSラジオ『サンスター 文化の泉 ラジオで語る昭和のはなし』に出演中。今秋公開の映画『マリッジカウンセラー』、『シグナチャー』にも出演。
福井 敬(右)
国立音楽大学大学院、文化庁オペラ研修所修了。小澤征爾指揮水戸室内管弦楽団第100回記念定期演奏会の他、Z.メータ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演するなど国際的評価も高い。2022年、二期会コンチェルタンテ・シリーズ《エドガール》、びわ湖ホール《パルジファル》タイトルロールで出演。第65回芸術選奨文部科学大臣賞等多数受賞。輝かしい声と卓越した表現力で日本を代表するテノールとして活躍。二期会会員。
【Information】
クラシック・キャラバン2022
クラシック音楽が世界をつなぐ ~輝く未来に向けて~
2022.9/18(日)~12/22(木) 全国13地域21公演
福井 敬出演公演『華麗なるガラ・コンサート』
2022.9/29(木)18:30 サントリーホール
問:1002(イチマルマルニ)03-3264-0244
https://www.classic-caravan.com
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。