INTERVIEW 曾韵(ゼン・ユン)(ホルン)

チャイコフスキー・コンクール金管部門の覇者が初来日!

取材・文:後藤菜穂子

 ホルン界に中国出身の若きヴィルトゥオーゾが新風を巻き起こしている。2019年のチャイコフスキー国際音楽コンクールに初めて設置された金管部門で優勝、さらに昨年のARDミュンヘン国際音楽コンクールでも第2位に輝き、現在、北京の中央音楽学院大学院に在籍中ながら、ベルリン国立歌劇場管弦楽団の客演首席ホルン奏者に抜擢された22歳のゼン・ユンだ。5月よりベルリンで活動中の彼にリモートで話を聞いた。

「今回のベルリンでの活動は、私が今まで体験したことのない内容ですのでとても興奮しています。中国ではゼロ・コロナ政策で厳しい規制があり、ここ2年ほどは外国の奏者と出会う機会がありませんでしたが、ベルリンに来てからはさっそくバレンボイム、ブロムシュテット、メータといった名指揮者の方々と一緒に演奏できており、毎日ワクワクしています」

 チャイコフスキー、ARDという世界的なコンクールで成功を収め、今やヨーロッパの名門の奏者として歩き出している。今後どのような奏者を目指しているのだろうか。

「今の私にとってはオーケストラ奏者、ソリスト、室内楽奏者の三者を同時にできるようにしたいなと考えています。今はどの道を選ぶかではなく、この三つをすべて体験してから、30歳ぐらいになった時に最終的に自分の道を選びたいと思っています。あと、人を教えることもしたいですね」

 生まれは中国・四川省成都。父親が四川交響楽団のホルン奏者であることから、幼少より自然とホルンに親しみ、6歳で楽器を始めたという。

「父は夜の演奏会がある時、よく私を舞台裏に連れて行ってくれました。そこで、客席ではなく舞台裏から音楽家たちが舞台のためにどんなことを準備しているとか、舞台に立つとどんな表情で演奏しているのかを間近で観察することができたのは私にとって大事な財産です」

 ホルン以外の楽器を試してみたいと思ったことはなかったのかと聞くと、「子どもの頃は家で父にホルンを教わることができたのが便利でしたし、特に他の楽器をやりたいとは思いませんでした。でも今はチェロを弾いてみたいと思っています。チェロの音はホルンに似ており、柔軟性があり、できる表現の幅が広く、機能上でホルンより表現しやすいところもあります。私もチェロが歌うようにホルンを演奏したいですね」と語る。

 11歳からは北京の中央音楽学院付属中学で温泉教授に師事。その後交換留学生としてジュネーヴ音楽院でスイスの名手ブルーノ・シュナイダーにも師事している。

 ホルンは難しい楽器とのイメージがあるが、彼の演奏の動画を見るとまるで楽器と身体が一体化しているかのような自在な演奏ぶりに驚嘆させられる。特に音色の美しさやヴィブラートのコントロールなどがすばらしい。やはり幼少から始めたのが大きいのかもしれないが、ホルンが難しいと思ったことはあるのだろうか? 

「ホルンはとても難しく、ミスしやすい楽器ですが、でもホルンが大好きなので、やめたいと思ったことはありません。日本や韓国、中国には伝統工芸品を作る職人の文化がありますが、私自身もそうした職人のような姿勢をもってホルンに向き合いたいと思っています。ホルンが精密な工芸品作りよりも難しいとは思いません」

 金管楽器というのは唇への負担が大きいので、練習時間が限られると聞くが、毎日どのくらい練習するのだろうか?

 「練習は4時間以内。練習し過ぎは唇への負担が大きく、怪我しやすくなります。ですからホルン奏者は練習に対して計画性を持つことが必要で、日頃の努力が大切です。コンサートのある日はたくさん練習することは避け、舞台の上で気持ちをすべて出し切ります」

ARDミュンヘン国際音楽コンクールにて ©Daniel Delang

 さて、そのゼン・ユンがこの夏、待望の初来日を果たし、日本の音楽家たちと二つのスペシャルなステージを繰り広げる。室内楽にも力を注ぐ彼にとって、「同年代の日本の演奏家と一緒に演奏できることが何よりも楽しみ」と話す。

 8月4日にはトッパンホールで、ヴァイオリンの高松亜衣とピアノの黒岩航紀の二人と、ブラームスの味わい深い名曲、ホルン三重奏曲を中心としたプログラムを演奏する。

「僕は弦楽器とピアノと演奏するのが大好きなのです。もちろん管楽器同士のアンサンブルも好きですが、管楽器は親戚のようなものなので共通することも多く、通じやすい。でも弦楽器とピアノは別のものなので、彼らと演奏するときには自分にとって予想外のリクエストをしてくれることがあり、それによって自分のキャパシティーが広がることにつながると思っています」

 またボザの「森にて」、フランク・ロイド編曲の無伴奏ホルンのためのバッハの「トッカータとフーガ」などでは彼のヴィルトゥオーゾぶりが存分に発揮されることだろう。

 一方、8月7日には、昨年のショパン国際ピアノコンクールでの演奏が好評だったピアノの京増修史とのデュオを組む。ベートーヴェンの初期の意欲作「ホルン・ソナタ」やシューマンの瑞々しいロマンティシズムが溢れ出る「アダージョとアレグロ」など、しっとりした表現力が味わえそうなプログラムだ。

「音楽とは文化の交流でもあり、私たち演奏家は文化の発信者だという思いを持っています。したがって、今回の来日では何よりも日本の音楽家とお客様と交流できることが大切だと思っています。できれば、滞在中に日本の演奏家のコンサートにも足を運びたいですね」

 愛用の楽器は中国のメーカーBRIZ製。

「ソロに適した楽器で、いろんな音色も出せますし、いろんなテクニックを使うことのできる、いろいろな可能性を持った楽器です」

 コロナ禍の中国ではとりわけ厳しい政策の中で生活してきたわけだが、演奏家として焦りはなかったのだろうか。

「たしかにコンサートは私たちのモチヴェーションになりますので、次々と中止になったのは辛かったですし、早く通常の生活に戻ってほしいと思っています。でも私自身はコンサートがなくても家で練習に励むことができましたので、他の職業の人たちよりは恵まれていたかもしれません」

 きっとその練習のおかげでさらに上達したのでは、と訊くと、「上達したかどうかは日本の皆さんに評価していただきます」と、謙虚さの中にちょっぴり自信を覗かせた。ぜひこの夏、聴いていただきたい逸材である。


©Daniel Delang

Biography
曾韵(ゼン・ユン) Yun Zeng, horn

1999年生まれ、中国四川省成都市出身。四川交響楽団ホルン首席奏者である父・曾杰氏の指導のもと、6歳からホルンを始めた。2011年(北京)中央音楽学院付属中学、2017年同学院管弦系に首席で入学し、温泉教授に師事。現在は同学院大学院に在学中。2019年、弱冠19歳で第16回チャイコフスキー国際コンクール金管楽器部門第1位、2021年、第70回ARDミュンヘン国際音楽コンクール ホルン部門第2位を受賞。これまでにヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団等と共演。2020年上海交響楽団音楽庁にてソロリサイタルを実施し、大成功を収めた。中国国家大劇院管弦楽団首席客演ホルン奏者。2022年4月~7月にはベルリン国立歌劇場管弦楽団首席客演ホルン奏者を務める。使用楽器はブリッツ社(BRIZ)産のホルン。


※下記公演は、出演者が渡航予定日前に在留資格認定証明書を取得することが困難であるため、中止及び内容変更をして開催することとなりました(7/6主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

https://newvoyage.jp/1644/
https://newvoyage.jp/1733/(7/22 出演者変更/主催者発表)

【Concert Information】
◎インクレディブル・ナイト
~曾韵(ゼン・ユン)、黒岩航紀、高松亜衣によるトリオの演奏会~

2022.8/4(木)19:00 トッパンホール
【出演者変更】
曾韵(ゼン・ユン)→ 栁谷信
♪ウジェーヌ・ボザ:森にて(ホルン&ピアノ)
♪サン=サーンス:ハバネラ Op.83(ヴァイオリン&ピアノ)
【曲目変更】♪ショパン:夜想曲第2番 変ホ長調 Op.9-2(ピアノソロ)
♪バラキレフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」(ピアノソロ)
♪バッハ/フランク・ロイド:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565(ホルンソロ)
♪ブラームス:ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40
♪ピアソラ:ブエノスアイレスの冬(三重奏版)
※やむを得ない事情により、曲目等が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

トッパンホールチケットセンター 03-5840-2222(土日祝休)
ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京 03-5909-1771

◎曾韵(ゼン・ユン)&京増修史ジョイントリサイタル
8/7(日)13:30 昭和音楽大学(南校舎)ユリホール ※中止
(ホルン&ピアノ)
♪ロッシーニ:前奏曲、主題と変奏
♪ベートーヴェン:ホルンソナタ ヘ長調 作品17
♪フォルケル・ダヴィット・キルヒナー : 3つの詩曲
♪シューマン:アダージョとアレグロ
(ピアノソロ)
♪シューマン:謝肉祭 作品9
♪ドビュッシー:前奏曲集第2巻より「水の精」「交代する3度」「花火」
※やむを得ない事情により、曲目等が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

チケットぴあ
ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京 03-5909-1771

【上記2公演に関するお問い合わせ】
株式会社揚帆起航

◎他公演
2022.7/26(火)19:00 アーティストサロン“Dolce” 東京
Briz プレゼンツ ゼン・ユンホルンイベント ※中止
7/27(水)19:00 ドルチェ・アートホール Osaka
ゼン・ユン ホルンリサイタル(ピアノ:京増修史)
7/31(日)16:00 ドルチェ・アートホール Nagoya
ゼン・ユン ホルンリサイタル(ピアノ:京増修史)

上記3公演に関するお問い合わせ:ドルチェ楽器