INTERVIEW ソン・ユトン(孫楡桐)&ラオ・ハオ(饒灝)

ショパン・コンクールで話題の中国の若き2人のピアニストが初来日!

取材・文:飯田有抄

 近年の中国出身の若いピアニストたちの活躍ぶりが目覚ましい。昨年秋にワルシャワで開催されたショパン国際コンクールにも、中国出身者が22名ともっとも多くの人数が参加した。もちろん国籍こそ中国ではあるが、欧米各地の音楽院に留学する若者たちは多く、早くから国際的なステージ経験を積んでいる者も多い。

左:ソン・ユトン 右:ラオ・ハオ

 この夏、ショパン・コンクールで話題となった俊英2人が初来日する。ソン・ユトンとラオ・ハオである。26歳のソン・ユトンは数々の国際コンクールで上位入賞を果たしており、コンクールに参加層の中では、すでに“ベテラン”といった雰囲気を纏う。その演奏もリリカルかつ説得力のあるもので、どこか老成した風格をも備えている。一方のラオ・ハオは17歳(当時)のフレッシュな感性と運動能力で、キラキラと輝くような音楽作りで高く評価され、ワルシャワでも見事ファイナリストに残った。キャラクターのまったく異なる二人の演奏を、日本で聴けるのが楽しみだ。

🎵 ソン・ユトン|孫楡桐 Sun Yutong

 ソン・ユトンは大都市天津市の出身で、現在はアメリカのニューイングランド音楽院に在籍し、卒業を控えるばかりとなっている。ショパン・コンクールでは惜しくも2次予選までの出場となったが、その繊細さと雄大さを兼ね備えた演奏は、配信で鑑賞していた日本の音楽ファンの間でも話題となった。コンクールでは大人びた落ち着きを見せていたが、インタビューでは素朴な笑顔が優しい若者の顔を見せてくれた。

 「ショパン・コンクールは子どもの頃から知っていて、参加できたことやショパンの生地ワルシャワで演奏できたことは自分にとって大きな意味があり、また大変光栄に思っています」と振り返る。

 ピアノは7歳から始めた。11歳で中国中央音楽学院附属小学校に入学し、同中学・高校を経て、渡米した。
「何かきっかけあってプロを目指したわけではなく、僕にとっては自分の心、気持ちを表現できるのがピアノだったのです」

 16歳でスペインのハエン賞国際コンクールにて史上最年少で優勝し、数々の国際コンクールで上位入賞を果たしてきた。6月のヴァン・クライバーン・コンクールは2度目の出場となる。

「コンクールはピアニストとしてのキャリアを築く上でとても大切だと考えています。通常のコンサートとは違いますし、どうしても他の人の演奏と比較はされます。審査の場なので、やはり理性的に演奏することが望ましいとは思います。でも僕の場合は、どうしても音楽に入り込んでしまうんです。いったんステージに上がると、客観性を保つことはやや難しいというか。でも、音楽だけに向かい合うというのは、僕にとって理想的な状態でもあり、今度のヴァン・クライバーン・コンクールでも、あまり他の人のことや、審査の行方を気にすることなく、自分で満足のいく演奏をしたいと思っています」

 日本公演のソロ・リサイタル(7/16)では、前半ではショパンとシューマンそれぞれの幻想曲を、後半ではショパンのソナタ第2番とベートーヴェンのソナタ第31番を取り上げる。

「シューマンの幻想曲はソナタ形式で書かれた構築力のある作品ですが、ショパンの幻想曲はより自由な形式に基づいていて、2曲は実に対照的です。後半は、ショパンとベートーヴェンの自由な形式によるソナタを選んでいます。それぞれの聴き比べをお楽しみいただきたいと思います」

 飯森範親指揮、東京交響楽団と共演する協奏曲のコンサート(7/19)ではショパンの第2番を披露する。
「昨年のコンクールのために準備していたのですが、残念ながらワルシャワで演奏することは叶いませんでした。2番の協奏曲には、ショパンのより個人的な感情が入っているように感じています。今回初めてこの作品をオーケストラと合わせるので、今からとても楽しみにしています」

 尊敬しているピアニストはグレン・グールド。これまで弾いてこなかったフランスものにも挑戦したいと考えている。 「今後はドビュッシーやラヴェルの作品を弾きたいですね。ずっと音楽に浸り続けて演奏活動をしていきたいですが、自分だけが満足してお客様に通じなければ意味がありませんので、そこのバランスを見つけることを大事にしていきたいです」

Biography
1995年生まれ、中国天津市出身。(北京)中央音楽学院付属小学校、中学校を経て、アメリカのニューイングランド音楽院で学士号と修士号を取得。現在は同音楽院の演奏家コースにて、コルサンティア教授とダン・タイ・ソン氏に師事。2012年スペイン第54回ハエン賞国際ピアノコンクール史上最年少で優勝、2018年スペイン第19回サンタンデール国際ピアノコンクール第2位、他にも5つの国際コンクールで入賞。2012年にNAXOS社から初のソロアルバムをリリースし、世界中から好評を博した。

🎵 ラオ・ハオ|饒灝 Rao Hao

 17歳という若さでショパン・コンクールのファイナリストとなり、みずみずしい表現力と高いテクニックで印象を残したラオ・ハオ。賑わいある街と自然の風景が美しい湖南省吉首市で育ったラオ・ハオは、4歳からピアノを始め、8歳からは今も師事しているヴィヴィアン・リ氏のもとで研鑽を積んでいる。

「もう10年ほど先生のもとで勉強し、たくさんの国内コンクールを受けてきました。先生からは、演奏についてはもちろん、人間として、音楽家としてのあり方など、いろいろな角度から助言をいただいています」

 ファイナルまで進んだショパン・コンクールでは持てる実力を発揮できたという。

「予選ごとに心の変化がありました。1次予選では、夢の舞台に立っていることが嬉しくて楽しかった。でも予選を通過していくごとに、責任感や使命感が出てきました。というのも、3次予選の段階で、中国出身者で残っていたのは僕だけになってしまったからです。SNSでは『あの人は落ちたのになぜあの人が…』というような話題も散見されました。初めての経験で、僕自身受け止めるのは大変でしたが、いつも先生がそばで励ましてくださいました。ファイナルに進出できたのは、自分の予想を遥かに上回る出来事でしたから、本当に嬉しくて、作品に向き合うことだけに集中することができました」

 コンクールから中国に帰国すると、コンサートの依頼が急増。7回の協奏曲演奏、約20回のリサイタルを行なってきた。初来日となる7月のリサイタル(7/13)では、ベートーヴェン、ドビュッシー、リスト、ショパンを取り上げ、レパートリーの多さを窺わせる。

「コンサートでは、できるだけ様々な曲を弾いて、お客さんに多様な体験をしていただきたいと思っています。今回、ショパンはバラードを全4曲取り上げます。僕の夢の一つは、ショパンの作品をすべて演奏すること。バラードのような作品は、年齢を重ねていけばまた違った解釈をしていくと思いますが、今回は今の若さで得られるインスピレーションをもとにお聴かせできればと思います」

 協奏曲(7/19)ではサン=サーンスの第2番をチョイス。
「とても好きな作品ですが、実は初めてステージで演奏します。新たなチャレンジを続けて、自分の違った側面を出していきたいです。今後は現代曲などにも取り組んでいきたいですね」

 18歳の若者らしく、ピアノ以外では映画鑑賞やオシャレを楽しむ。明るい髪の色が印象的だと伝えると、はにかむように微笑んだ。
「実は、僕は髪のカラーリングにハマっていて、昨年は9回も色を変えたんです(笑)。映画は、最近ベートーヴェンの半生を描いた映画『不滅の恋 Immortal Beloved』を見て刺激を受けました。音楽はK-POPなども聴いています」

 今回の来日では一ヶ月ほど滞在するという。都内と川崎以外にも、大阪・名古屋・掛川・鎌倉・逗子も回る。 「各地の文化にも触れたいですし、カピバラが温泉に浸かっているところも見てみたいです。日本の皆さんにお会いできるのを楽しみにしています!」

Biography
2004年生まれ、中国湖南省吉首市出身。4歳からピアノを始め、8歳から星海音楽学院(広州市)ピアノ科准教授李穂栄(Vivian Li)博士に師事、現在は同学院付属高校3年在学中。2019年デンマークオーフス国際ピアノコンクール、2021年アメリカジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクールなど多くの国際コンクールにて入賞。13歳の時に広州大劇院にて初のソロリサイタルを実施し、ショパンのエチュード全27曲を披露。2021年に第18回ショパン国際ピアノコンクールのファイナリストとして国際的に注目を集めた。

※下記公演は、出演者が渡航予定日前に在留資格認定証明書を取得することが困難であるため、中止及び内容変更をして開催することとなりました(7/6主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

https://newvoyage.jp/1644/

【Concert Information】
♪饒灝(ラオ・ハオ)ピアノリサイタル
2022.7/13(水)19:00 トッパンホール ※中止

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 『月光ソナタ』
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より「ヒースの茂る荒れ地」「水の精」「花火」
リスト:スペイン狂詩曲 S.254
ショパン:バラード全曲(作品23, 38, 47, 52)
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22

♪孫楡桐(ソン・ユトン)ピアノリサイタル
2022.7/16(土)14:00 トッパンホール ※中止

ショパン:幻想曲 ヘ短調 作品49
シューマン:幻想曲 ハ長調 作品17
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110

♪ときめく夏~東京交響楽団 WITH 中国のライジングスターズ~
2022.7/19(火)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
※出演者変更で実施予定

飯森範親(指揮) 東京交響楽団

饒灝(ラオ・ハオ)→黒岩航紀に変更|サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品22
孫楡桐(ソン・ユトン)→山縣美季に変更 |ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21
李拉(リ・ラ)→水野優也に変更|ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

お問い合わせ:揚帆起航 044-701-5760
https://newvoyage.jp


ラオ・ハオ(饒灝)その他公演
2022.7/21(木)19:00 大阪/ザ・フェニックスホール
「ラオ・ハオ」オール・ショパン・リサイタル ※中止
7/27(水)13:30 愛知/宗次ホール
ラオ・ハオ ピアノコンサート ※中止
7/30(土)14:00 静岡/かねもティーカルチャーホール
ラオ・ハオ ピアノリサイタル ※中止
8/3(水)14:00 神奈川/鎌倉生涯学習センター きららホール
饒灝(ラオ・ハオ)オールショパン ピアノリサイタル ※中止
8/9(火)14:00 神奈川/逗子文化プラザなぎさホール
ラオ・ハオ 沢田蒼梧 ジョイントコンサート ※中止