サントリーホール サマーフェスティバル 2024

最先端を行く匠が新たな地平を切り拓く

 日本のコンテンポラリー・ミュージックの最重要イベントのひとつである「サントリーホール サマーフェスティバル」が、今年は8月22日から29日まで、8日間にわたり開催される。2024年の「テーマ作曲家」にはフィリップ・マヌリが選ばれた。マヌリはピエール・ブーレーズ亡きあとのフランス音楽界を代表する作曲家であり、その音楽は日本でも度々取り上げられている。コンテンポラリー・ミュージックのファンのなかには、東京オペラシティの「コンポージアム2019」における特集を記憶している方も多いのではないだろうか。また今年の秋に東京文化会館で開催される「フェスティヴァル・ランタンポレル」でもマヌリの作品にスポットが当てられるなど、彼に対する関心は年々高まっている。

フィリップ・マヌリ ©Tomoko Hidaki

 「テーマ作曲家」の核となるコンサートは「オーケストラ・ポートレート」(8/23)だ。演奏を担うのは東京交響楽団。指揮はアメリカの名匠、ブラッド・ラブマンが務める。エレクトロニクス作品で名高いマヌリだが、オーケストレーションもその音楽を語るうえで欠かすことのできない要素である。彼の手で編曲されたドビュッシーの「夢」を聴けば、いかに卓越したオーケストラ書法の持ち主かわかるはずだ。「夢」はドビュッシーのパリ音楽院時代の習作、管弦楽組曲第1番に含まれる1曲で、作曲者によるオーケストレーションは散逸してしまったが、残された4手連弾版の楽譜にマヌリが管弦楽編曲を施して、作品に新たな命を吹き込んだ。「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」の46作目となる「プレザンス」の世界初演は、マヌリの「いま」を知る絶好の機会になるだろう。「空間化された大オーケストラのための」という副題からは、サントリーホールの豊かな響きを最大限に活かした作品が期待される。

 ブーレーズの「ノタシオン」、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」も含んだこの演奏会のプログラムは、マヌリがフランスの管弦楽史の真の継承者であるというメッセージにほかならない。また次世代からは、1979年生まれのイタリアの作曲家、フランチェスカ・ヴェルネッリの「チューン・アンド・リチューン II」が取り上げられる。ヴェルネッリは、ブーレーズが設立時から所長を務め、マヌリも長らく創作の拠点としたIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で研鑽を積んだ作曲家だ。

左:アーヴィン・アルディッティ ©Octavio Nava
右:波立裕矢 ©K.Iida

 「室内楽ポートレート」(8/27)では、マヌリの室内楽作品が4曲演奏される。弦楽四重奏曲第4番「フラグメンティ」や「六重奏の仮説」といった純器楽作品に続いて、プログラムの後半ではライブ・エレクトロニクスを用いた「イッルド・エティアム」と「ウェルプリペアド・ピアノ(第3ソナタ…)」も取り上げられるので、マヌリのエレクトロニクス作品を楽しみたい人には聴き逃せない演奏会となる。ピアノの永野英樹からソプラノの溝淵加奈枝まで、ヨーロッパのコンテンポラリー・ミュージックの第一線で活躍する演奏家が多く出演する点も魅力的だ。

 コンサートのほかにも、マヌリが若手作曲家を指導するクリニックや、細川俊夫、野平一郎とのトークセッション(8/26)も予定されている。

 今年の「サマーフェスティバル」ではアルディッティ弦楽四重奏団の創設者、アーヴィン・アルディッティがプロデューサーを務める、室内楽ファンはコンプリート必至の充実したプログラムも展開される。また恒例の「芥川也寸志サントリー作曲賞」の選考演奏会では、ノミネート3作品の演奏審査のほか、一昨年の同賞受賞者、波立裕矢(オーケストレーションの巧さは世代随一!)の打楽器協奏曲の世界初演にも注目が集まる。

 サントリーホールで過ごすコンテンポラリー・ミュージック三昧の1週間。夏の暑さも吹き飛ぶような新しい響きとの出会いをいまから楽しみに待ちたい。
文:八木宏之
(ぶらあぼ2024年8月号より)

サントリーホール サマーフェスティバル 2024
◎テーマ作曲家 フィリップ・マヌリ
◎ザ・プロデューサー・シリーズ アーヴィン・アルディッティがひらく
◎第34回芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
8/22(木)~8/29(木) サントリーホール 大ホール、ブルーローズ(小)
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2024/
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。