国内最大級のコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション特級2024」展望

サントリーホールでのファイナルに向けた若きピアニストたちの真夏の真剣勝負

文:飯田有抄

 若いピアニストたちの熱い夏が始まる。ピティナ(全日本ピアノ指導者協会)が主催する「ピティナ・ピアノコンペティション」は、ソロとデュオの部門に分かれ、未就学児から音大生など、さまざまな年代に応じて参加できる国内最大級のピアノ・コンクールである。挑戦者たちは例年約3万人を超え、自らのレベルに応じた段階=「級」で受けることができる。ソロ部門は全部で11もの段階が用意されているが、その頂上決戦に当たるのが年齢制限のない「特級」である。

昨年のグランプリ、鈴木愛美のファイナルのステージより 共演:梅田俊明(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団
©Soichiro Ishida

多彩な人材を輩出してきた登竜門

 「ピティナ特級」の栄えあるグランプリといえば、現在飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の阪田知樹(2011年)、角野隼斗(2018年)や亀井聖矢(2019年)といった数々の優れたピアニストたちを輩出してきた。グランプリ受賞者たちは海外留学や権威ある国際コンクールへのチャレンジ、本格的なプロ・デビューといったステップアップを図っていくが、田村響(2002年)や関本昌平(2003年)らのように、若くして優れた人材を育成するピアノ教育者としての才能を開花させる者たちもいる。まさに、日本のピアノ文化をリードする人材発掘の場、それがピティナ特級なのだ。

 となれば、音楽ファンの注目度も年々高まるというもの。ピティナではオンライン配信の黎明期からコンクールの動画配信を行ってきた。その蓄積の中に、現在活躍する“推し”ピアニストたちの若き日の挑戦の記録が、ピティナの公式YouTubeチャンネルに残されていたり、「ピティナ・ピアノ曲事典」の作品解説からのリンクで鑑賞できる。同チャンネルのフォロワー数は15万を優に超える。当然今年も、予選の段階から若き奏者たちの熱演に、オンラインでアクセス可能だ。もちろん審査会場での実演も聴ける。奏者たちの表現の機微を、音楽ホールでもじっくり味わいたい。

ステージに出る直前、舞台袖での緊張のひととき

サントリーホール大ホールまでの長い道のり

 ここで「特級」の流れをお伝えしよう。審査は第一次・第二次・第三次予選、セミファイナル、ファイナルという5つのステージで進んでいく。今年の特級セミファイナルは8月18日第一生命ホール、ファイナルは8月21日、サントリーホールにおいて開催される。

 最終結果に大きく影響するセミファイナルは、45分から55分のソロ・リサイタル形式。古典派のソナタのほか、毎年このステージのために委嘱される邦人作曲家の新作が課題曲に加わる。

短時間で協奏曲のリハーサルを済ませ、本番に臨むタフさがファイナリストには求められる
(昨年第2位三井柚乃のリハーサルより/指揮は梅田俊明)

 サントリーホールでのファイナルは、オーケストラとの共演によるピアノ協奏曲だ。今年の指揮は角田鋼亮、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。この華やかなステージに立てるファイナリストはわずか4名。2ヵ月半に及ぶ若者たちの最後の熱演を聴こうと、例年ファイナルは満席の聴衆で賑わう。オーケストラとの共演は初挑戦というコンテスタントのフレッシュな演奏から、すでに協奏曲の経験豊かなコンテスタントの堂々たるステージまで、4作のピアノ協奏曲の演奏が繰り広げられる。

 大規模なコンクールのファイナルの会場は、通常のコンサートとはまったく異なる熱気が漂う。奏者たちの健闘を温かな気持ちで見守ったり、息を呑んで共に緊張したりと、客席にも独特な熱が満ちる。その空気感をぜひサントリーホールで味わってほしい。会場では「聴衆賞」の選出にも参加することができる。チケットは早めにチェックしたいところだ。

昨年の表彰式で花束を受け取る鈴木愛美。プレゼンターは2022年のグランプリ北村明日人。

今年の期待の顔ぶれ

 さて、今年もすでに二次予選に進出する顔ぶれが発表になっている。7月27日、28日にJ:COM浦安音楽ホールで演奏するのは26名。高校2年生から、上は大学院の修了生、海外の音楽院を修了した者もいる。公開されているそれぞれのプロフィールからは、多様なバックグラウンドが見て取れる。幼少期からピティナのステージで弾き続けてきた者、日本の由緒ある音楽大学や芸術大学で学ぶ者、すでに演奏活動を行っている者など様々だ。

 注目の最年少は高校2年の深津天馬。将来はピアニスト兼医学研究者を目指す。ボストン音楽院を修了しているのは南杏佳。国際コンクール入賞のほか、オーケストラとの共演経験も重ねる。三原有紀や渡邊さくらも国際コンクールでの上位入賞や優勝経験を持つ。また、特級挑戦に先立ち「Pre特級」というクラスで過去に入賞し、着実に成果を積み上げてきた小田愛音、南ことこ、吉原佳奈もいる。ヴァイオリニスト前田妃奈と共に結成したZ新世代オーケストラ”ネコフィル”やYouTubeで人気を博す塩﨑基央も昨年に続いての特級挑戦だ。

1段目)石津若葉、岩間優希、浦井優穂、大西愛華、大山桃暖、小倉悠、小田愛音
2段目)笠井萌、金﨑瑞希、工藤桃子、工藤康大、塩﨑基央、菅原千尋、津野絢音
3段目)中島光里、西山響貴、深津天馬、増田珠里、南杏佳、南ことこ
4段目)三原有紀、山地祐莉香、山本悠流、吉原佳奈、渡邊伽音、渡邊さくら

 二次予選からファイナルまでは26日間。この間、毎日1票ずつ、「応援したいピアニスト」に投票ができる「オンライン投票」も実施される。また「特級クラウドファンディング」も立ち上がっており、過去の入賞者たちのコンサートチケットや、オリジナルグッズなどのリターンが用意されている。寄せられたサポートは、若い奏者たちのさらなる研鑽のために、コンサートの実施や海外マスタークラスへの派遣資金として運用され、次世代の音楽家育成に繋げられる。

 未来ある者たちが人生をかけた「ピティナ特級」。真剣勝負のステージで繰り広げられる美しき音楽の世界に、聴衆として、サポーターとして、ぜひ参加していただきたい。

写真提供:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会

【Information】
ピティナ・ピアノコンペティション特級2024
二次予選(25~35分のリサイタル形式) 26名
2024.7/27(土)11:00、7/28(日)10:30 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール
三次予選(ファイナルで演奏する協奏曲の一部をピアノ伴奏で演奏) 10名(予定)
7/30(火)13:30 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール
セミファイナル(45~55分のリサイタル形式) 7名
8/18(日)午前の部 10:30、午後の部 14:45 第一生命ホール
ファイナル(任意のピアノ協奏曲1曲) 4名
8/21(水)16:30 サントリーホール
共演/角田鋼亮(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
https://compe.piano.or.jp/event/tokkyu/

◎クラウドファンディング
ピティナ特級2024|ピアニストの未来を共にサポート

支援募集期間:8/23(金)午後11:00まで
https://readyfor.jp/projects/ptna_tokkyu_2024