辻彩奈と阪田知樹という今をときめくフレッシュな組み合わせ。辻のヴァイオリンはイントネーションが清潔で、旋律の歌い回しに気品があり、とても美しい。第1番冒頭楽章の2つの主題がのびやかに歌い始められてきれい。展開部では阪田のピアノとのせめぎ合いが聴かせる。アルペジオの激しいやり取りに鬼気迫るものがある。アダージョの旋律にも内面性が感じられる。第2番の主題提示は阪田の奥行きのある表現が聴きもの。中間楽章の緩急の交替も、くっきりと印象付けられる。第3番はしみじみとした歌がいい。終楽章のぶつけるような熱い高揚も素晴らしい。味わい深いブラームス全集だ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2024年8月号より)
【information】
SACD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集 /辻彩奈&阪田知樹』
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番/パラディス:シチリアーノ
辻彩奈(ヴァイオリン)
阪田知樹(ピアノ)
ソニーミュージック
SICX 10021 ¥3300(税込)