田中彩子(ソプラノ)

音楽だけが私のすみか —— 稀代のコロラトゥーラが見据える未来

 2014年に『華麗なるコロラトゥーラ』でCDデビュー以来、今年で10周年を迎えるソプラノの田中彩子。7月には記念のベスト・アルバム『ベスト・オブ・ハイコロラトゥーラ』をリリース。また9月からは全国9ヵ所10公演のツアーも予定されている。改めてこの10年を振り返ってもらった。

©Tadayuki Minamoto

 「過ぎてみればあっという間でしたが、同時にとても濃厚な10年でした。10年前というのは、18歳の時にウィーンに渡って12年ほどたった頃。ほとんど日本に帰ることもなく、日本語も話さない日々を過ごしていましたから、日本でデビューするということになった当初は、まるで異国に来ているような感覚でした。そこから応援してくださるファンの方が増え、友人にも出会い、今では日本が母国という気持ちに戻れるようになりました。自分の気持ちが大きく変わった10年ともいえると思います」

 22歳の時にスイスのベルン歌劇場で日本人初、かつ史上最年少でデビューを果たしてから、田中は常に欧米を主戦場にして活躍してきた。そんな田中の歌手としての立ち位置は、「日本人」という枠を超えた、コスモポリタンなところにあるように思える。ひとつの「場」に敢えて根を生やさないことが、田中彩子という歌手の大きな、強い個性なのではないだろうか。

 「確かに、常に漂っていたい、どこにも属していたくないという気持ちはあるかもしれません。むしろ音楽だけが私のすみかで、音楽のあるところならどこにでも行けるというのがいちばんぴったりくるかも」

 7月24日にリリース予定の『ベスト・オブ・ハイコロラトゥーラ』には、そんな田中の魅力がぎゅっと詰まっている。

 「ウィーンに特化した曲を中心に、チック・コリアなど近年歌い始めたとんがったレパートリーも入っているところが、私らしいかも。デビュー当初は、よく知られている曲をきちんと歌うということを主軸にやってきたのですが、最近はそこからさらにレパートリーを広げています。コロラトゥーラはいい意味で“オペラっぽくない”声なので、色々なジャンルに溶け込みやすい。今後はそれを活かして、カンツォーネやシャンソン、日本の歌、さらに現代曲などにもどんどん挑戦していきたいです」

 秋の全国ツアーは、まさに彼女の「これまで」と「これから」が感じられる内容になりそうだ。

 「プログラムには過去に歌った曲はもちろんのこと、それを経たからこそ歌える新しい曲も選んでいます。現在の私が過去の私を振り返り、さらには未来の私に想いを馳せて歌う。“過去”と“未来”を行ったり来たりするイメージでリサイタル全体を作っていきたいと考えています」

 ピアノ(佐藤卓史)にチェロ(市寛也/山口・福岡のみ渡部玄一)が加わった編成もリサイタルでは初めて。佐藤、渡部とは初共演になる。

 「性格的に、ぬるいところにポチャンとはまるのが嫌いで、常に新しいことをやりたいんです。新しい方たちとたくさんキャッチボールをしながら面白いものを作り上げていくので、ぜひみなさんもそんなライブの楽しさを体験しにいらしてください」
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2024年8月号より)

田中彩子デビュー10周年記念リサイタル
春の声 夜の女王のアリア 〜田中彩子 華麗なるコロラトゥーラ

2024.12/13(金)、12/25(水)各日19:00 紀尾井ホール
7/27(土)発売
問:チケットスペース03-3234-9999

https://avex.jp/classics/ayakotanaka2024

他公演 
2024.9/16(月・祝)長野、9/27(金)北海道、10/5(土)愛知、10/27(日)大阪、
11/2(土)宮城、11/30(土)山口、12/8(日)京都、12/15(日)福岡
※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

CD『ベスト・オブ・ハイコロラトゥーラ』
エイベックス・クラシックス
AVCL-84166 
¥3300(税込)
7/24(水)発売