進藤実優(ピアノ)

ロシアでの研鑽を経て解き放つチャイコフスキー

 読売日本交響楽団の「サマーフェスティバル」は毎年夏に開催される人気企画。「三大協奏曲」と「三大交響曲」から成り、「三大協奏曲」では、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの俊英ソリスト3名が、協奏曲の傑作を披露する。2024年は大井剛史の指揮のもと、中野りな(ヴァイオリン)、佐藤桂菜(チェロ)、進藤実優(ピアノ)が出演。その進藤に公演への意気込みなどを聞いた。

 「読響の皆さんとの共演、東京芸術劇場で演奏することがどちらも初めてで、いまからどんな演奏になるかとても楽しみです。指揮の大井さんとは2021年にピティナの特級ファイナル、昨年の群馬交響楽団『高校音楽教室』に続き3度目の共演となります。こちらの意図をすぐに汲み取ってくださり、あたたかいお人柄が音楽にもあらわれていて…心から尊敬するマエストロですね」

 今回の公演で、中野はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、佐藤はドヴォルザークのチェロ協奏曲、そして進藤はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏する。

 「チャイコフスキーをコンサートで演奏するのは3回目で、約2年ぶりとなります。この曲に限らず、久しぶりに演奏する曲には常にゼロから始める気持ちで臨んでいるのですが、今回もいまの私だからこそできる表現をお届けしたいです。チャイコフスキーは技術的に難しいだけでなく規模も大きな作品なので、俯瞰して取り組むことを心がけています」

 第18回ショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリストになり注目を集め、現在はハノーファー音楽演劇メディア大学で研鑽を積んでいる進藤。2021年まではモスクワ音楽院付属中央音楽学校で学んでおり、ロシアの作品にも多く触れてきた。そのなかで、ロシア人にとってチャイコフスキーの作品は特別だと感じたという。

 「チャイコフスキーはロシアの“心”、もしくは“魂”といえるような存在で、ロシアの人々から非常に尊敬されています。そのぶん作品に対する想いも強く、妥協は許されません。モスクワで協奏曲のレッスンを受けたときには“もっとシンプルに”と言われたのをよく覚えています。また、民謡や童謡がもとになった楽曲であることを意識することも大切だと学びました。それらを念頭に置きつつ、ロシアの広大な大地のイメージ、これまで学んできたことをお届けできるように演奏したいです」

 現在ドイツでレパートリーの拡大とともに、技術、表現力を磨き続ける進藤。新たな気持ちで挑む彼女のチャイコフスキーをはじめ、才能あふれる若き奏者たちの演奏を存分に堪能したい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2024年8月号より)

読売日本交響楽団 サマーフェスティバル 2024 《三大協奏曲》
2024.8/21(水)18:30 東京芸術劇場 コンサートホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
https://yomikyo.or.jp