まもなく開幕! 第12回浜松国際ピアノコンクール展望

若きピアニストたちがしのぎを削る16日間

 世界各国から集う、才能あふれる若者たちがその腕前を発揮する浜松国際ピアノコンクールは今年で第12回を迎える。国際音楽コンクール世界連盟(WFIMC)に加盟する国際コンクールであり、毎回非常に高いレベルの演奏が繰り広げられている。本選で協奏曲を演奏するのはもちろんだが、第3次予選ではソロ・リサイタルのプログラムと共に室内楽の演奏も求められるため、総合的に高い能力を有したピアニストでなければ最後まで勝ち残ることはできない。これまでの優勝および入賞者には、後にショパン国際ピアノコンクールで優勝したラファウ・ブレハッチやチョ・ソンジン、チャイコフスキー国際コンクール優勝者の上原彩子といったピアニストが挙げられることからもわかるように、浜松国際ピアノコンクールで上位入賞したピアニストたちは世界を股にかけて活躍し続けている。

開幕を目前に控えた会場のアクトシティ浜松

 前回の第10回大会(第11回は新型コロナウィルスの影響により中止となった)は、牛田智大(第2位&聴衆賞)に務川慧悟(第5位)といった顔ぶれが入賞を果たしたなか、トルコ出身のピアニスト、ジャン・チャクムルが優勝。豊かな表現力とニュアンスに富んだ音色、親しみやすいキャラクターで人気ピアニストとして活躍中である。なお、チャクムルと牛田は11月4日に行われるオープニングコンサートに出演予定だ(指揮:高関健、管弦楽:富士山静岡交響楽団との共演)。期間中にコンクールから羽ばたいたピアニストたちの“その後”に触れることができるのも大きな特徴である。

 映画化もされ、話題となった小説『蜜蜂と遠雷』のモデルにもなったこのコンクールは、「音楽のまちづくり」を掲げてきた浜松市の“顔”ともいえるイベントであり、輝かしい才能を持つピアニストたちとの出会いの場であることはもちろん、第2次予選では日本人作曲家の新作も課題曲となっており、その世界初演に立ち会うことができる機会でもある。作品の内容は蓋を開けてからのお楽しみだが、出場者がそれぞれのアプローチでどのような楽曲に仕上げてくるのかにも期待が膨らむ。なお、今年は世界中から新曲の委嘱を受けている人気作曲家、猿谷紀郎氏の作品「Division 28 for piano」が演奏されることになっている。

大きな盛り上がりをみせた第10回の表彰式より。
今年もこのステージから新たなスターが誕生する。

◎出場者一覧(アルファベット順/年号は生年)
01 ヨナス・ アウミラー Jonas AUMILLER(ドイツ、1998年)
02 イヴァン・ バシッチ Ivan BASIC(セルビア/ハンガリー、1996年)
03 マーヴィン・ ベリ Marvin BELI(アルバニア、2000年)
05 ロバート・ ビリー Robert BILY(チェコ、1997年)
06 アンフィサ・ ボビロヴァ Anfisa BOBYLOVA(ウクライナ、1992年)
07 ロマン・ ボリソフ Roman BORISOV(ロシア、2003年)
08 ニコラス・ ブルドンクル Nicolas BOURDONCLE(フランス、1998年)
10 JJ ジュン・リ・ ブイ JJ Jun Li BUI(カナダ、2004年)
11 ヴァレール・ ビュルノン Valère BURNON(ベルギー、1998年)
12 エリア・ チェチーノ Elia CECINO(イタリア、2001年)
13 チャ・ ジュンホ CHA Junho(韓国、2005年)
14 チェン・ ズーシー CHEN Zixi(中国、2002年)
15 デイヴィッド・ チョエ David CHOI(アメリカ/韓国、2007年)
16 チェ・ イサク CHOI Isak(韓国、2004年)
17 チュー・ チェンシー CHU ChenXi(中国、2009年)
18 ティモフェイ・ ドーリャ Timofey DOLYA(ロシア、1993年)
19 ボグダン・ ドゥガリッチ Bogdan DUGALIĆ(セルビア、2003年)
20 エルズビェータ・リアパ・ ドヴァリオナイテ Elžbieta Liepa DVARIONAITE(リトアニア、2001年)
21 ロマン・ フェディウルコ Roman FEDIURKO(ウクライナ、2004年)
22 藤平実来 FUJIHIRA Miku(日本、1999年)
23 ギ・ インホ GI Inho(韓国、2003年)
24 ニコラス・ ジャコメリ Nicolas GIACOMELLI(イタリア、1998年)
25 テオティム・ ジロー Théotime GILLOT(フランス、2002年)
26 ジュゼッペ・ グァレーラ Giuseppe GUARRERA(イタリア、1991年)
27 グオ・ スーチョン GUO Sicheng(中国、2006年)
28 ハ・ ギュテ HA GyuTae(韓国/ドイツ、1996年)
29 細川萌絵 HOSOKAWA Moe(日本、1998年)
30 ファン・ イートン HUANG Yi-Teng(台湾、1998年)
31 池邊啓一郎 IKEBE Keiichiro(日本、1993年)
32 今井理子 IMAI Riko(日本、2001年)
33 稲積陽菜 INAZUMI Hina(日本、2003年)

34 ジャン・ ジュンホ JANG Junho(韓国、2005年)
35 チョン・ ジョンウォン JEON Jongwon(韓国、2000年)
36 神宮司悠翔 JINGUJI Yuto(日本、2005年)
37 ミハイル・ カンバロフ Mikhail KAMBAROV(ロシア、2000年)
38 カン・ ドンフィ KANG Donghwi(韓国、2008年)
39 川上真璃 KAWAKAMI Mari(日本、1994年)
40 ルスタム・ ハンムルジン Rustam KHANMURZIN(ロシア、1994年)
41 キム・ ジヨン KIM Jiyoung(韓国、1996年)
44 小林海都 KOBAYASHI Kaito(日本、1995年)
45 マクシミリアン・ クロマー Maximilian KROMER(オーストリア、1996年)
46 黒岩航紀 KUROIWA Koki(日本、1992年)
47 ニコライ・ クズネツォフ Nikolai KUZNETSOV(ロシア、1994年)
49 京増修史 KYOMASU Shushi(日本、1996年)
50 ラファエル・ キリチェンコ Rafael KYRYCHENKO(ポルトガル、1996年)
52 イ・ ジョンウ LEE Jeongwoo(韓国、2008年)
53 イ・ セボム LEE Saebeom(韓国、1996年)
54 リー・ シャオシュエン LI Xiaoxuan(中国、2001年)
55 リー・ ズーシャオ LI Zixiao(中国、1994年)
56 ルン・ シェリー・ホイチン LUN Sherri Hoi-Ching(香港、2003年)
57 ステファン・ マコヴェイ Stefan MACOVEI(ルーマニア、1999年)
58 ナイール・ マヴリュードフ Nail MAVLIUDOV(ロシア、1992年)
59 中川真耶加 NAKAGAWA Mayaka(日本、1993年)
60 ホセ・ ナバロ=ジルバーシュタイン José NAVARRO-SILBERSTEIN(ボリビア/ドイツ、1995年)
61 大沢舞弓 OHSAWA Mayu(日本、2005年)
62 小野田有紗 ONODA Arisa(日本、1996年)
64 リード希亜奈(日本/アメリカ、1995年)

65 トメール・ ルービンシュタイン Tomer RUBINSTEIN(イスラエル、2003年)
66 ジャンセン・ リゼー Jansen RYSER(スイス、1994年)
67 佐川和冴 SAGAWA Kazusa(日本、1998年)
68 コルクマズ・ジャン・ サーラム Korkmaz Can SAGLAM(トルコ、1999年)
69 佐藤元洋 SATO Motohiro(日本、1993年)
70 ソ・ ソクヒョン SEO SeokHyun(韓国、2006年)
71 シン・ ヨンホ SHIN Youngho(韓国、2007年)
72 スン・ ハオルン SUN Haolun(中国、2004年)
73 ソン・ ユトン SUN Yutong(中国、1995年)
74 鈴木愛美 SUZUKI Manami(日本、2002年)
75 鈴木優輔 SUZUKI Yusuke(日本、1998年)
76 髙橋朋之 TAKAHASHI Tomoyuki(日本、2004年)
77 谷昂登 TANI Akito(日本、2003年)
78 樽谷公平 TARUYA Kohei(日本、1998年)
79 都筑小百合 TSUZUKI Sayuri(日本、1995年)

80 ゲオルギ・ ヴァシレフ Georgi VASILEV(ブルガリア、2000年)
81 ワン・ ジャポン WANG Jiapeng(中国、1999年)
82 ワン・ チェハオ WANG Zhehao(中国、2002年)
83 ヤン・ ヴィドラシュ Jan WIDLARZ(ポーランド、2002年)
84 山本悠流 YAMAMOTO Yuri(日本、2000年)
85 ユアンファン・ ヤン Yuanfan YANG(イギリス、1997年)
86 ヤオ・ ジャリン YAO Jialin(中国、1999年)
87 ヨ・ ユンジ YEO Yoonji(韓国、2004年)
88 ユ・ ソンホ YOO Sung Ho(韓国、1996年)
89 吉田茜 YOSHIDA Akane(日本、1993年)
90 ユー・ ユエウェン YU Yuewen(中国、2001年)
91 アレクサンダー・ ザハロフ Alexander ZAKHAROV(ロシア、1999年)
92 チャン・ レン ZHANG Ren(中国、2003年)
93 チョウ・ チュンイェン ZHOU Junyan(中国、2005年)
94 ライアン・ ジュウ Ryan ZHU(カナダ、2003年)
※10月23日現在
→公式ウェブサイト全出場者リストはこちらから

 今回の出場者の顔ぶれを見ると、日本からは24名、韓国15名、中国13名(それぞれ二重国籍を含む)とアジアからの参加者が目立つ。一方でドイツにフランス、ロシアにアメリカなど様々な国からの出場もあり、国際色豊かなコンクールとなりそうだ。日本勢では、2021年リーズ国際ピアノコンクール(イギリス)で第2位に入賞した小林海都をはじめ、2021年日本音楽コンクール第1位の谷昂登、2023年東京音楽コンクール優勝およびShigeru Kawai国際第2位&聴衆賞の佐川和冴、2023年のピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリの鈴木愛美、2021年のショパン国際ピアノコンクール本大会に出場して注目を集めた京増修史に今井理子といった顔ぶれが並んでいる。すでにピアニストとして目覚ましい活躍をみせる面々であり、それぞれがどのような演奏で“魅せて”くれるのか、期待せずにはいられない。

 海外からも、2021年のショパンコンクールで最年少ファイナリストとして注目を浴びたJJ ジュン・リ・ブイ(カナダ)、2023年Shigeru Kawai国際ピアノコンクールの優勝者であるニコラス・ジャコメリ(イタリア)、2021年ヨハネス・ブラームス国際コンクール第1位、2022年仙台国際音楽コンクール第2位のヨナス・アウミラー(ドイツ)など、実績のあるピアニストたちが参加する。

 輝く才能を見定める審査委員の顔ぶれも非常に豪華だ。審査委員長を務める小川典子を筆頭に、ダン・タイ・ソン、ペーテル・ヤブロンスキー、児玉桃といった、世界的ピアニストであり国際コンクールの審査員としても活躍する面々に加え、第8回の浜松国際ピアノコンクールで優勝したイリヤ・ラシュコフスキーも名を連ねている。様々な視点からの審査によって、未来のスターが発掘されるのである。

小川典子 審査委員長(手前)はじめ11名が審査にあたる

 審査は11月9日の第1次予選から24日の本選まで約2週間にわたって行われる。もちろんすべてのラウンドを、会場となるアクトシティ浜松で見届けたいところだが、そうもいかない…という方も多いことだろう。しかしご安心を。浜松国際ピアノコンクールでは、予選から本選までの全演奏がほぼリアルタイムでYouTubeよりライブ配信される。さらに見逃してもアーカイブ視聴も可能だ。白熱のコンクールをライブ、もしくは好きなタイミングで自宅など好きな場所で視聴できる。これから世界に羽ばたくアーティストたちの演奏を追いながら、“ピアノ漬け”な日々を過ごしてみてはいかがだろう。そしてぜひお気に入りの演奏家を見つけて、コンクール後も応援してほしい。

会場のアクトシティ浜松には、全国から熱心なピアノファンが駆けつける

 なお、11月25日にはアクトシティ浜松大ホールで入賞者披露コンサートの開催も決定している。未来の世界的ピアニストたちのお披露目の場も、あわせてチェックしたい。
(写真提供:浜松国際ピアノコンクール事務局)

文:長井進之介

◆第12回浜松国際ピアノコンクール
(会場:アクトシティ浜松)
オープニングコンサート 2024.11/4(月・祝) 中ホール
出場順抽選会(非公開) 11/8(金)
第1次予選 11/9(土)~ 11/13(水) 中ホール
第2次予選 11/15(金)~ 11/17(日) 中ホール
第3次予選 11/19(火)~11/20(水) 中ホール
本選 11/23(土・祝) ~ 11/24(日) 大ホール
表彰式 11/24(日) 大ホール
入賞者披露演奏会 11/25(月)19:00 大ホール

◎審査委員
小川典子(日本)審査委員長
オルテンス・カルティエ=ブレッソン(フランス)
ダン・タイ・ソン(ベトナム)
ポール・ヒューズ(イギリス)
ペーテル・ヤブロンスキ―(スウェーデン)
児玉桃(日本)
エヴァ・クピーク(ポーランド)
ペジャ・ムジイェヴィッチ(アメリカ)
ロナン・オホラ(イギリス)
イリヤ・ラシュコフスキー(ロシア)
迫昭嘉(日本)
https://www.hipic.jp

YouTubeライブ配信
https://www.youtube.com/@HIPICofficial