第12回浜松国際ピアノコンクールで鈴木愛美が日本人初優勝

小林海都が第3位に入賞

 6年ぶりの開催となった第12回浜松国際ピアノコンクールは、11月24日午後に会場のアクトシティ浜松ですべての審査が終了。本選に進んだ6名の中から鈴木愛美が見事、優勝の栄冠に輝いた。また、第3位には小林海都が入賞した。世界屈指のレベルを誇るこのコンクール史上、日本人ピアニストが第1位となったのはこれが初めて。また女性ピアニストの優勝も初となる。鈴木は聴衆賞と室内楽賞も併せて受賞した。第1位入賞者には、2025年から26年にかけて、日本国内や海外でソロリサイタルや主要オーケストラとの演奏会の機会が10回以上与えられる。

6人の入賞者たちと審査委員ら

◎第12回浜松国際ピアノコンクール 最終結果
第1位 鈴木愛美 SUZUKI Manami(日本)
第2位 ヨナス・ アウミラー Jonas AUMILLER(ドイツ)
第3位 小林海都 KOBAYASHI Kaito(日本)
第4位 JJ ジュン・リ・ ブイ JJ Jun Li BUI(カナダ)
第5位 コルクマズ・ジャン・ サーラム Korkmaz Can SAGLAM(トルコ)
第6位 ロバート・ ビリー Robert BILY(チェコ)
日本人作品最優秀演奏賞 ロバート・ ビリー
室内楽賞 鈴木愛美
奨励賞 ヴァレール・ ビュルノン Valère BURNON(ベルギー)
聴衆賞 鈴木愛美

鈴木愛美 本選のステージより ©️浜松国際ピアノコンクール

 協奏曲が課題となった2日間の本選では、ファイナリストたちは梅田俊明指揮の東京交響楽団と共演。2日目の3人の演奏終了後に行われた表彰式には、審査委員長の小川典子をはじめ11人の審査委員たちや、コンクール実行委員会会長でもある中野祐介・浜松市長も出席し、特別賞と最終順位が発表された。本選と同じく大勢の聴衆が見守ったが、第6位から順に名前が読み上げられていくと、客席からどよめきが起こる場面も。最後に、6人のファイナリストたちに惜しみない拍手が送られた。

左より)小川典子審査委員長、ロバート・ビリー、JJ ジュン・リ・ブイ、ヨナス・アウミラー、鈴木愛美、
小林海都、コルクマズ・ジャン・ サーラム、中野祐介市長

 優勝した鈴木愛美は、2002年大阪府生まれ。東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を首席で卒業し、現在、大学院修士課程に在学中。昨年、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、日本音楽コンクール ピアノ部門を立て続けに制し、一躍注目を集める存在となった。予選から全ステージを通じて、ブラームス「8つ小品」やシューベルト「幻想ソナタ」など詩情豊かな曲をじっくりと聴かせていたことが印象的。本選で披露したベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でも、大ホールの隅々にまで届く響きの美しさを自身でもしっかりと聴きながら、集中力の高い演奏で聴衆を惹き込んだ。

 第2位のヨナス・アウミラーは、1998年ミュンヘン生まれ。クリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事。一昨年の第8回仙台国際音楽コンクールでも第2位を獲得しており、日本の大きな国際コンクールで再び上位入賞を果たした。バッハやモーツァルトから、ベートーヴェン、シューマン、ドビュッシー、さらにはスクリャービンなどロシアものまで、予選では幅広いレパートリーを聴かせ、本選でもブラームスの大曲、ピアノ協奏曲第1番でパワフルな演奏を披露した。

 第3位の小林海都は、1995年横浜市生まれ。高校卒業後に渡欧し、ベルギーのエリザベート王妃音楽院を経て、バーゼル音楽院を卒業。マリア・ジョアン・ピレシュ(ピリス)らのもとで研鑽を積んだ。2021年にリーズ国際ピアノコンクールで日本人歴代最高位となる第2位に入賞したのも記憶に新しい。本選では、自身3回目というバルトークのピアノ協奏曲第3番を選択。バルトークとしてはメロディアスな旋律の多いこの作品で、オーケストラとよくコミュニケーションをとりながら、躍動感あふれる音楽を聴かせた。

 表彰式に続いて行われた記者会見では、それぞれの入賞者が喜びを語った。
 多くの聴衆を前に演奏して幸せを感じたと話す鈴木愛美は、「本当に大変なことになったなと思っています。1位を獲ったので、(副賞で)たくさんの演奏会で演奏する機会をいただくことになりましたが、ひとつひとつ丁寧に臨んでいきたい。自分としてはいつもと変わらず、真摯に音楽と向き合っていきたいと思っています」とコメント。今後、他のコンクールへのエントリーや留学も視野に入れているという。

「今日弾いたベートーヴェンや、モーツァルトやシューベルトなどドイツ語圏の作曲家に惹かれているので、そういうプログラムにスポットがあたっているコンクールに挑戦していきたい。留学もドイツあたりに勉強しに行けたらと思っています」

 一方、小林海都は、長丁場となったコンクールを振り返り、「ファイナルの前に2日休みがあったり、コンテスタントにとっては次のラウンドでいい演奏ができるように(日程が)配慮されているように感じる」と話し、外食を楽しむなど、心の余裕を持って過ごせたという。

「浜松に来て、素晴らしいピアニストの皆さんの刺激を受けながら、こうして同じ舞台に立つことができて、今後も頑張ろうという気持ちにさせてもらいましたし、結果として3位をいただくことができました。皆さんにバルトークの3番という曲の持っているパワーを感じていただけたのではないかと、舞台からも感じられたので、とても嬉しく思いました」

「6年ぶりなので、平均年齢が例年より高かったのが特徴的でした。若い人たちの演奏が本当に素晴らしくて、私たち審査委員も驚くような高水準だった」と振り返った小川典子・審査委員長。25日にアクトシティ浜松で入賞者披露演奏会が行われ、連日多くのピアノファンが訪れ熱気に包まれたコンクールは幕を閉じる。

取材・文&写真:編集部

浜松国際ピアノコンクール
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