ノット&東響のラストシーズン、幕開けはブルックナーの交響曲第8番

ジョナサン・ノット ©T.Tairadate/TSO

 ジョナサン・ノットと東京交響楽団が、最後のシーズンを迎える。音楽監督として2014年以来、多くの挑戦と成果を重ねてきて、コロナ禍も新たな試行の場にするなど、彼のモットーである“Take a risk!”を地で行く攻めの姿勢で走り続けてきた。

 その集大成となる12年目のシーズンは、初めて聴かせる大曲とこれまで取り上げてきた重要作の再演で構成される。その劈頭を飾る4月初旬の定期は、後者を代表する演奏会で、演目はブルックナーの交響曲第8番、1曲のみ(稿・版の明記は1月末時点で無し)。

 ブルックナー生誕200年だった昨年ではなく、あえてこのタイミングにしたのは、オーケストラ史に輝く重要作であり、コンビネーションの成果を示す集大成としてもふさわしい内容をもつからに違いない。両者は本作を2016年に取り上げて、胸の熱くなる名演が実現しており、そのときのライブ録音CDもリリースされた。コンビ初のライブ・レコーディングだったとのことで、当時のノットが関係性に自信を深めた証でもあった。

 その大切な1曲を、最後のシーズンの最初に再び奏でる。東京交響楽団の演奏水準がどれほど上がったか、表現の幅が広がり、深まったか。そしてノット自身も、10年以上の共演を経ていかに変化し、深化したか。それを示すのは、圧倒的な感動を約束するブルックナーの80分の名作。その意味についてこれ以上言葉を重ねるのも無粋というものだろう。ラストの巨大な「ミレド!」の響きが消えるまで、ひたすらに浸りたい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年3月号より)

ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団
第729回 定期演奏会 
2025.4/5(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp