海野幹雄(チェロ)

メンデルスゾーンの「無言歌」は永遠のテーマです

©篠原栄治
©篠原栄治

 2009年から続く銀座の王子ホールでのリサイタルが毎年、好評を博している海野幹雄。昨年はベートーヴェンのチェロを含む二重奏曲全10作品を1日(2部構成)で演奏する意欲的な企画を成功させ、さらなる注目を集めた。
「ひとりの作曲家に絞るのも悪くないなと思って、今年もメンデルスゾーンのチェロとピアノのための作品を全てとりあげます。まるで対決するような姿勢で挑んだ前回のベートーヴェンと比べると弾きやすいし、耳なじみも良いから下手すると浅くとりとめのない演奏に終わってしまいそうですが、深く掘り下げると本質が見えてくるはず。居心地は良いけれど決してBGMのようには聴き流せない、内容の濃い演奏会にしたいですね」
 ソナタは有名な第2番と、かのシューマンも絶賛したという第1番の2つ。
「確かに2番は華やかで楽章も4つあって変化に富んでいますが、内向的な1番も室内楽らしい味わいがあって魅力的です」
 協奏的変奏曲では、めくるめく変奏を心ゆくまで味わうことができそうだ。
「とにかく主題が素晴らしい。最初の8小節だけをとっても、彼の持ち味である上品さや優しい気持ちが詰まっていて、それが幸福感と共に溢れ出すようなイメージです」
 とりわけ、「無言歌」には特別な想い入れがあるとか。
「歌詞のない世界を聴衆に届けている私たち器楽奏者にとって『無言歌』は永遠のテーマ。通訳も字幕も必要ない点は強みですが、もしかしたら皆さんそれぞれが違う物を受け取っているのではないかと不安に駆られることもあります。でも、多少違ってもそれでいいのかもしれない。会場でお客さんと確かに繋がることができたと実感できることが大切だから」
 後半には、メンデルスゾーンの芸術を語る上で欠く事のできないJ.S.バッハの作品も。
「メンデルスゾーンがいなかったら、今日の私たちのバッハへの評価も違っていたかもしれないし、お互いに時代を超えて切ってもきれない関係。無伴奏チェロ組曲の第1番を選んだのは、明るく簡素な雰囲気が合うと思ったから」
 当日のピアノ演奏は全て春絵夫人が担当。息の合った夫婦共演も聴き所だ。
「演奏家としていろんな面で対照的だからこそ補い合ってぴったり収まる。特に音数の多いメンデルスゾーン作品では2人のバランスが大切ですから理想のコンビだと思います(笑)」
 室内楽やオーケストラの客演に加えて、映画『シロナガスクジラに捧げるバレエ』(9/19 ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー)では話題の作曲家、新垣隆と共同でサントラを手掛けるなど活躍めざましく、今後も目が離せない。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)

9/10(木)19:00 王子ホール
問:新演奏家協会03-3561-5012
http://www.shin-en.jp