ひばり弦楽四重奏団

名手揃いのクァルテットによるベートーヴェン全集第1弾が待望のリリース!

左より:漆原啓子、漆原朝子、辻本 玲、大島 亮

 ヴァイオリニスト・漆原啓子の呼びかけで結成されたひばり弦楽四重奏団。2018年にデビュー・コンサートを行い、19年からはHakuju Hallでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会を継続してきている。実はその演奏会と並行して全4巻からなる全集の録音も進めており、この7月に『ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集III』がリリースされる。「III」が最初にリリースされるというのも一見「?」だが、これは全曲演奏会の進行に従って録音セッションを行っているためで、今年10月の公演をもって全曲の演奏・録音が完了するとのこと。弦楽四重奏団にとっては避けて通れないベートーヴェンの作品に今も向き合っているメンバーに、その最初のリリースとなる録音について尋ねた。

 「私にとってはハレー・ストリング・クァルテットで演奏して以来となるベートーヴェンですが、演奏メンバーが変われば作品の見え方も変わってきて、あらためてその作品の大きさ、世界の広さに驚きを感じながら取り組んでいます」とファースト・ヴァイオリンの漆原啓子。チェロの辻本玲は「このグループが始動して以来、Hakuju Hallの演奏会ではずっとベートーヴェンを取り上げてきています。録音のセッションもあるので、この5、6年ぐらいは本当にずっとベートーヴェンばかり弾いているな、と感じます」と率直に語る。「私はひばり弦楽四重奏団に参加するまでクァルテットを経験したことがなかったので、皆さんの後をついて歩きながらベートーヴェンの世界に触れているという感じですが、ますます作品の魅力に惹き付けられています」とセカンド・ヴァイオリンの漆原朝子。ヴィオラの大島亮も、「演奏すればするほど、もっとその先に何かがあるのではと感じさせてくれるのがこの作曲家の奥深さですね」と語る。

 Hakuju Hallの演奏会では、ベートーヴェンだけでなく、ヴェーベルン、ショスタコーヴィチ、スメタナ、ヤナーチェクなどの作品もプログラムに組み込んでいる。そのため、今年3月の時点で演奏会は計9回を数え、この10月が最終公演となる息の長いプロジェクトになっている。今回リリースされる「III」には、第11番「セリオーソ」、第12番、第13番(第2稿のフィナーレ付き)、そして「大フーガ」が収録されている。

漆原啓子「ようやく最初のリリースに漕ぎ着けたという感じで、まだ先は遠いのですが、1枚ごとに収録された作品それぞれの魅力を感じていただければ嬉しいです」

辻本玲「録音でベートーヴェンの全集を出すのは、たぶん人生で一度のことになると思うので、いま自分のできることは全部残しておきたいと思っています」

大島亮「ベートーヴェンは自身でヴィオラを弾くこともあったと言われていて、作曲家の本心をこの楽器のパートのなかに探ることも可能なのかもしれません。ヴィオラ弾きとしてもやり甲斐のある作品です」

漆原朝子「セカンド・ヴァイオリンの難しさを痛感しながらではありますが、ようやくベートーヴェンのやりたかったことの入り口に立ったという感覚があります。録音セッションも自分にとって貴重な体験となります」

 それぞれの想いも込めた録音は、この「III」に続いて順次リリースされていく。Hakuju Hallでの演奏会に行けなかったという方も、録音を通して、ひばり弦楽四重奏団の発展の過程を知ることができるはず。ぜひ、このクァルテットのこれからに注目していただきたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2024年8月号より)

CD『ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集III』
日本アコースティックレコーズ
NARD-5095/6
¥4400(税込)